第24話 13歳になりました
年が明け、ここエルゼス地方が白い雪で覆われた頃──私は十三歳になった。
去年はひとりで過ごした誕生日。だが今年は違って、おじい様と共にささやかな誕生会を開くことができた。
大伯母さまは社交シーズン中で、はるか王都の屋敷に滞在中である。雪道を遠く呼ぶのも申し訳なく思った私は、残念だが招待をひかえることにしたのだが。誕生日の当日。心づくしのメッセージカードと共に、化粧道具と髪飾りが届けられた。
この国の成人した貴族女性は、基本的に髪はまとめることになっている。輝く銀細工の小花を散りばめた髪飾りには、素敵な大人になってねというメッセージが添えられていた。
おにい様はといえば、相変わらず部屋から出てこない。だがあれから毎日こつこつ食事に添えていた蝋板の隅っこに、お祝いのメッセージが追記されていた。
『誕生日おめでとう。 アルベール』
たったそれだけの簡素なメッセージだったが、二ヶ月近くかけてようやくもらえた、初めてのお返事である。
私の誕生日、覚えていてくれたんだ……!
それが私には、何よりのプレゼントだった。
十三歳といえば、この国では成人の年齢だ。とはいえ正式に成人と認められるのは、毎年社交シーズンの開幕イベントとして開催される初心舞踏会で、国王陛下に謁見を果たしてからである。来期の開幕は、次の冬の始めだ。まだ少しだけ執行猶予が残っている。
成人になることによる変化は、男子であれば目白押しだ。だが成人しても相変わらず進路に自由がない女子にとって、一番の大きな変化は「結婚可能になる」ことだろう。
まあ成人してすぐに結婚するケースはそれほど多くはないが、婚約の話なんかはチラホラ出始めるころだ。もっとも当家の難しい状況を考えると恋愛結婚には全く希望は持てないだろうが、ちょっとでも良い選択肢を増やすには今のうちが勝負かも知れない。
この頃また少し背が伸びた私は、リゼットが寸法を詰めて縫い直してくれた亡き母のドレスに袖を通した。そろそろ古い子供服の継ぎ接ぎでは、布地に限界がきはじめたからだ。
だがアラフォー子持ち用のシンプルデザインには少し工夫が加えられ、取り外しもできる大ぶりなリボンやケープで可愛らしさの追加も忘れてはいない。
上級貴族の侍女になるには、ファッションセンスも必要だ。勤勉なリゼットはその努力と実力が認められ、私の成人に合わせてルロワ卿の養女となり、雑役女中から侍女に昇格することが決まったのだ。今は通常の業務に加えて、ルシーヌから侍女教育を受ける日々である。
ドレスを着終えると、私は鏡の前に座った。子どもだった先月まではずっと下ろし髪で過ごしていたが、もう十三歳ということで髪を上げることにしたのだ。
私の髪は豊かなのは良いが油断するとぶわりと広がって、まとめるのも一苦労である。だがリゼットは手際よく顔周りの毛束を少しだけよけておくと、残りの髪を一旦低めの位置にまとめた。
そこから数本の三つ編みを生み出すと、うち一本をカチューシャのようにぐるりと頭に巻き付ける。そうして残りの三つ編みを後頭部の少し下で大きな半球状のお団子にまとめると、ピンを挿した。
仕上げに大伯母さまから頂いた髪飾りを手に取ると、輝く銀色を頭に沿わせるようお団子に挿し込む。
さすがリゼット、ヘアセットの腕も完璧だ。きっといっぱい練習してくれたのだろう。それにミヤコの職場では髪はきっちりとまとめるのが日常だったから、アップスタイルはなかなかしっくりくるものだ。
くるのだが……。
「ねえ、この顔周りの髪は上げなくていいの?」
「はい。垂らしておいた方が可愛いかと存じますが、お気に召しませんでしたでしょうか?」
「いいえ、私もとっても可愛いと思うわ! 本当に気に入ったわ。ありがとう」
ミヤコが勤務していた病院では、服装規定で後れ毛は厳禁だ。だからソワソワしてしまったけれど、成年貴族のまとめ髪文化は別に衛生上の理由じゃないものね。
私はサイドの後れ毛をくるりと指に巻き付けると、思わず笑みをこぼした。すっきりしているのに可愛くて、見れば見るほどよく似合っている。
「髪もドレスも本当に素敵な仕上がりね。リゼットが私の侍女になってくれて嬉しいわ」
「恐れ入ります」
はにかんだように笑うリゼットに笑顔を返すと、私は再び鏡の中の自分を見た。血色の良い頬は病から目覚めた直後とは比べ物にならないくらい、ツヤッツヤだ。むしろプニプニ柔らかそうで――
「もしかして私……太った?」
「そんなことはございません。以前のお嬢様が細すぎていらっしゃったのです。もっと召し上がったくらいでちょうど良いかと存じます」
リゼットが言っていることは、別に見え見えのお世辞というわけではない。まだ日々の食事すら満足にできない庶民が多いこの国では、女はちょいポチャくらいがあこがれの体型なのだ。
とはいえウエストは細い方が良いみたいだし、やっぱ食べ過ぎはよくないよね、うん。スタートがガリガリだったから、完全に油断していた。しばらくおかわりは自重しよう……。
その時ルシーヌから御用商人の訪れを告げられて、私は階下へと向かったのだった。




