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【書籍化】ナイチンゲールは夜明けを歌う  作者: 干野ワニ
※番外編追加分

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【書籍化御礼SS】ハートにのせたメッセージ

 今日も遅くまで持ち帰りの仕事をこなしていたぼくは、ようやく作業にひと区切りつけて、執務机についたまま伸びをした。気付けば、いつの間にか小腹で済まないレベルでお腹が空いている。


 何かないかと探しに自室を出ると、真夜中にもかかわらず厨房の入り口からは明るい光が漏れていた。誰か残って仕込みでもしているならラッキーだなぁと考えながら近づいて行くと、聞こえてきたのは妹の声である。


「間に合ったー!!」


「お嬢様、やりましたね!」


「うん! おにい様、喜んでくれるかしら……」


 ――この会話はもしかして、何かぼくにサプライズでも用意しているところだろうか。ここで「何やってるの〜?」なんて言いつつのんきに現れたら、がっかりさせてしまうかもしれない。


 ぼくは空腹を抱えながらも、そっと踵を返して廊下を戻る。そして今日はもう、大人しく寝ることにしたのだった。



 *****



 ――翌日。午後休憩に誘われて一緒にお茶を飲んでいると、妹がニコニコしながら言った。


「おにい様、今日って何の日か分かります?」


「何の日って言われても、ぼくそういう記念日とかはあまり自信が……」


 そう返しつつも、一応今日の日付を思い浮かべて……ぼくは思わず呟いた。


「あ、今日って二月十四日か」


「そう、バレンタインでーす!」


 そう言った瞬間、いつもの侍女が包みを持って現れる。妹は一旦それを侍女から受け取ってから、改めてぼくに差し出した。


「開けてみてください!」


 包みを解いて平たい箱を開けると、ハート形の板状に形成された、いかにもバレンタイン用のチョコレートが入っていた。その表面には、「いつもありがとう」とシンプルなメッセージが書かれている――ひらがなで。


 メッセージをじっと眺めていると……こちらを心配そうに窺うような視線を感じて、僕は軽く苦笑しつつ応えた。


「こちらこそ、いつもありがとう。チョコすごく嬉しいよ」


 すると妹は一転、嬉しそうに笑う。たまにこうして踏み絵のようなものを仕掛けてきては、僕の反応を確認しているようなのだ。


「このようなハート型に形を整えるのは、ずっと難航していたんですが……ようやく形になったんです!」


「そっか、がんばったね。板状になってると、やっぱりチョコって感じがするな」


「ですよね。こだわった甲斐がありました!」


 バレンタインデーの結構シリアスな由来を考えたら「いつもありがとう」は何かが間違っている気がするけれど、悪くない。よく「天才は孤独だ」というけれど、他人とは違う『記憶』を持つぼくが孤独を感じずに済んでいるのは、この同類である妹の存在のおかげだろう。


 そしてぼくという存在が同じように妹を孤独にしないでいられるならば、これ以上にない、喜びなのだ――。






 おしまい



このたび「ナイチンゲールは夜明けを歌う」が書籍化、及びコミカライズの運びとなりました。

これもひとえに読んでくださった皆様のおかげです。

本当に、ありがとうございました!


明日もう一本、いいねが一番多かった話に関連する番外編を投稿予定です。

発売が確定したあたりにもホワイトデーSSなどアップ予定ですので、よければまた読みに来てください。


それと、新連載のアラビアン風後宮ちょい謎解き物「千夜一夜ナゾガタリ」を昨日から投稿始めました。妃が二十人くらいいる女子寮みたいな後宮で起こる事件を、平和第一な主人公がなんとか穏便に済ませようと奔走する感じの話です。

秋の夜長に、よければ読んでみてください。

https://book1.adouzi.eu.org/n3903hw/


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