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南方攻勢9

 戦闘は決着がつきつつあった。

 この為、既に戦場では王国軍は離脱を図る動きに出ていて、連合軍側はそれをどこまで止められるかが問題になっている。

 

 まず早々に離脱に成功したのは王国軍右翼、連合軍の左翼、南方解放戦線とやり合っていた側だった。

 これはある意味仕方のない部分がある。

 確かに南方解放戦線はゲリラ戦で足止めを行ったが、多数を相手どる戦いが苦手なのは変わらない。今回はあくまで相手側にとって想定外な戦法がはまっただけだ。右翼には元々、王国側の予備兵力が加わっていた事もあり、前線には一部混乱があったものの順調に後退しつつあった。

 王国軍左翼はジリジリと後退しつつあるのを連合軍右翼、元南方諸侯軍が遠距離から削っているという形になっている。

 

 「あとは中央で、ここが一番美味しいっちゃ美味しいんだが……」

 「適当な所で切り上げた方がいいだろうナ」

 「ああ」


 今はいい。

 中央は総崩れ寸前で、あと一押しすれば本当に総崩れになる可能性は高い。

 しかし、その「あと一押し」が問題だ。

 間違いなく、それをやれば総崩れになった瞬間に敵側に王国軍右翼から引き抜いた戦力に横っ腹を衝かれる。そうなれば、今度は総崩れになるのはこちら側だ。

 かといって、こちらの左翼に敵右翼の後退を食い止めろとか、撃破せよなんて命令出した所で疲労困憊な左翼は下手に進撃させれば逆撃を喰らいかねない。

 混乱こそ生み出せたものの、大規模な真っ向勝負の経験が圧倒的に不足しているのは南方解放戦線も同じで、王国軍と異なり訓練すらまともにした事がない。そんな彼らが懸命に自分達の持てる力を振り絞って、敵右翼に混乱をもたらしてくれたものの、その代償としてこちらの左翼は想像以上の精神的疲労を被った。

 

 「……これ以上やらせてもろくな事になりそうにない」

 「同感だナ。ここらが潮時だろウ」


 それに、とカノンが続けた。


 「あっちは終わったらしいしネ」

 「さすが常葉というべきか……」

 「まあ、仕方あるまいヨ。こっちと違って、あっちは常葉は……本体の力は使わなくても、それ以外の能力は使い放題ダ」


 カノンだって能力全開でやれば別に本体の力を使わずとも何とでも出来る。

 しかし、やらない。

 あちらは数が少なかったから常葉に任せたが、こちらは南部連合軍が自分達で勝たねば意味がなかった。


 「ドラゴン達もこんな街の近くだとやばいよな?」

 「籠城向きの街じゃないとはいえ、大型の弩ぐらいはあるからナ」


 かくして、戦いは決した。

 この戦いは双方共損害が予想以上に大きく、死者負傷者という面では似たり寄ったりだった。

 王国軍は中央で大きな損害を出したものの、裏切り者と襲い掛かった左翼軍は逆にかなりの損害を敵右翼に与えていた。

 逆に、南部連合軍は中央でこそ大きな打撃を与えたものの、左翼は怪我こそ多くを与えたものの仕留めるまで至った者は案外少なく、また右翼は特に狙われただけに損害が大きかった。割り切れていた者もいたが、割り切れなかった者はもっと多く、それが引け目に通じたともいう。

 結果、勢いで負け、その分損害がかさんだ。

 もっとも、ティグレ達はそれを責める気はない。裏切る事なく、こちらの軍勢の一員として戦ったのは事実であり、また正式に敵から裏切り者扱いされた以上、最早戻る事は出来まい。そうした意味では、彼らを右翼に配した狙いは十分に果たせたと言える。

 では狙いはどうだっただろうか?

 南部連合軍も王国軍も実は勝った!とは言いづらいものがあった。

 確かに野戦では王国軍は引いた。

 しかし、未だ街を陥落させた訳ではなく、王国軍は十分な戦力を有したままだ。

 その一方で、王国軍も南部連合軍を追い払えず、街に籠城を余儀なくされた。

 総じて、『南部連合軍の判定勝利』といった所だろう。

 この為、この時点では王国軍はまだまだ意気軒高だった。


 「次こそ今回の分を熨斗を付けて返してやる!!」


 そんな事を叫んでいる者もいた。

 しかし、そんな空気もその翌晩には一変する事になった。


 【軍都サフィア陥落】


 故意に見逃された、しかし当人達は命がけで辿り着いたと思っている伝令。

 それはビネロ駐留軍の上から下まで凍り付かせるには十分すぎる凶報だった。 

   

どちらも勝ったとは言い切れない戦いでした

強いて言うなら中央同士は連合軍の勝ち、連合左翼VS王国右翼は引き分け、連合右翼VS王国左翼は王国軍の勝ち

こんな所でしょうか?

でも、援軍が来るだろうと頼りにしてる先が陥落したなんて話が来たら、絶望しそうだよね

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