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南方攻勢6

 「ああ、やっぱりそうなるよな」


 ニヤリとティグレの顔が歪んだ。

 

 最初から予想はついていた。

 右翼の元・南方諸侯の軍勢。

 左翼の元・南方解放戦線の軍勢。

 そして、中央の魔物の軍勢。

 これらを分けたのは無論最大の理由は彼らに合同で戦いが出来る訳がないと理解しているからだ。

 そうして、分けた時に王国軍が最も頭に血が昇るのは間違いなく右翼だろうと判断していた。だからこそ、右翼にはあらかじめ防御を重視し、足止めに徹するよう指示を出していた。南方諸侯達も自分達が狙われるであろう事は重々理解していたので、素直に頷いていた。

 ……ま、囮にされて使い潰されるよりゃいいって考えた可能性は高いけどな。


 そして、左翼。

 以前よりはマシになったとはいえこいつらは未だ軍勢の戦いという奴を理解していなかったし、従いもしなかった。もっとも従わなかったというよりは従えなかった、という方が正しいのかもしれないけどな。……連中は複数の勢力が協力して軍勢を構築する、という考えが生まれてこの方存在していない。

 王国が攻めて来た時でさえ、バラバラに戦っていたという話があるのは伊達じゃない。

 結果として、彼らは「何故、陣形を組むのか」「何故個々に戦ってはいけないのか」「敵がああいう戦法を取るのは何故か」、そんな根本的な事が理解出来ていなかった。

 ……いやまあ、それを理解してた連中もいたんだけどな?或いは、ちゃんと理解しようとしてた連中もいたんだけどな?

 なんせ、バラバラに戦って、その後の解放戦線なんて組織を作った後もやっぱりバラバラ……というか、下手にまとまって戦ったら即効潰される可能性があったから、占領下に置かれた後はどうしても少数での戦闘に特化せざるをえなかったというか。

 なので教育の真っ最中。さすがに部隊長クラスは理解させたんだが、それでもまだ足りん。


 さて、この状況。

 憎しみを向けられる右翼。

 烏合の衆に見える左翼。

 これで王国軍がどちらに戦力を向けるか……わかるだろう。

 戦場において弱い所を攻めるのは常道。

 防御に徹する右翼相手は早々抜けない。仮にも同じ王国の軍勢だからだ。それでも、相対する王国軍左翼は止まらない、止まれないだろう。

 そうなった時、王国軍の首脳部はどうするか?

 彼らも頭に血が昇ったなら右翼に対して更に戦力を投入してくるだろう。では、あくまで冷静だったら?

 

 「そうなるよなあ……」


 右翼が頑張っている以上、左翼から戦力を引っこ抜くのは難しかろう。

 そうなれば、左翼を集中攻撃して、そちらからこちらを崩すには予備戦力を使うしかない。そして、そのどちらを選ぶかを見抜くのは本来大変だ。何せ、この世界では上空からの視点などほとんど存在しない。相手から見えないように動かされた軍勢を地面の高さから見抜くのは非常に困難で、高台を確保しようにも今回、その高地は王国軍側に城壁や見張り台といった形で存在している。

 しかし、こちらにはそれらを超えるジョーカーが存在する。


 「ま、さすがに自分達の作戦が筒抜けとは思わないよナ」

 「そりゃそうだろうな」


 カノンの能力を使えば遥か遠くの声を聴くなど簡単だ。

 それが目の前の軍勢の一角でなされた会話であれば問題にもならない。


 「解放戦線だってなあ……長年、戦ってきたんだぜ?あいつらにはあいつらなりの戦い方ってのがあるんだ」


 そして南方解放戦線に求めた事も右翼と同じ。

 すなわち、敵軍を拘束し、時間を稼ぐ事。

 幾ら戦い方があると言っても、撃破してくれ、だったらそうそう簡単にはいかないだろうが、時間稼ぎは彼らの得意技だ。

 視線を向けた先で、予備戦力と合わせて突っ込んでくる王国軍に対し、するするとそれまでの位置から南方解放戦線の戦力が後退する。その動きに対して、警戒を抱いた指揮官も当然いただろうが、問題はない。もはや手遅れだ。一旦動き出した軍勢は例え「止まれ!」と命じた所で早々簡単には止まれない。それが突撃命令で突っ込んでいるなら猶更。

 何せ、走っている上、後ろには後続がいる。一人二人ならまだ急停止して、ぶつかった所で鍛えた奴なら耐えられるかもしれないが、数百、数千となれば下手に停止したりしようものならあっという間に押し倒され、踏み潰されて、あの世逝きだ。それは騎馬隊も変わらない。

 そうして、南方解放戦線が先程までいた地点に到達した時、悲鳴が上がった。

 南方解放戦線は真っ向勝負では王国軍に分がある事を嫌という程思い知ってきた。

 だからこそ、彼らは足止めを命じられた時、自分達の体を壁として、その背後で工作を行い続け、王国軍の動きに合わせて見事に自分達は罠にかからず後退してみせた。

 トラップ、落とし穴に挟み罠、落とし穴一つ取っても深い罠ではなく、浅く、けれど多数の足を取られるような罠を仕掛けていた。

 人間、例え十五センチ程の深みであっても走ってる最中にいきなり足元が沈み込めば姿勢を崩し、転倒する。

 そして、ひとたび転倒が起きれば、転倒した兵士自体が障害物となり次から次へと連鎖的に倒れてゆく。

 何より、勢いが止まった点が大きい。

 そこへ南方解放戦線は小部隊ごとに分かれて、攻撃を仕掛けてゆく。

 最前線の混乱は更に後方へと伝わり、王国軍の突撃は完全に停止した。


 「王国軍よお?敵が罠使ったのを卑怯なんて思ってる余裕なんかねえぞお?」

 

真っ向当たるのが全てじゃないよね

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