南方攻勢4
喚声が双方から上がり、遂に激突した。
さて、この攻勢でどちらが優勢かと言えば、王国軍だ。
その理由には幾つかある。
まず、双方が最初に激突したのは予定通り、元南方諸侯軍が構成する右翼とだ。こちらに対しては純粋に「この裏切り者共が!」という怒りがある。いくら元南方諸侯軍側が「俺らにだって事情があるんだ!」と訴えた所で、裏切った事に変わりはないし、現場の兵士からすれば自分達を窮地に追いやっている原因の一つが目の前の連中だという思いがある。
「裏切りやがって!!」
「くたばれ!!」
一方、南の兵士達にも言い分があるし、黙ってやられたりはしない。
「うるせえ!!俺らを見捨てやがったくせしやがって!!」
「てめえらこそ死ね!!」
互いが互いに武器を向け合い、殺し合う。
その一方、南部連合軍の中央を受け止める側は接近戦を防ぐべく動く。
「投石はじめー!」
「撃て!近づけさせるな!!」
本来攻城戦に用いるような大型の投石機すら用いていた。
これに加え、スリングやクロスボウ、ロングボウに魔法などあらゆる飛び道具を組み合わせて熾烈な攻撃を加える。
オーガ達は全身重防御で身を固め、更にそこに魔法やスキルで強化もされているがそのサイズ故に的にもなりやすい上、味方を守る為に前進を妨げられていた。
これは南方諸侯の内でも何とか脱出出来た者達からの情報が伝わっていた為だ。
オーガ達は確かに鈍重な面はあれど、鈍重な事が許される重装歩兵として用いるなら問題ない。むしろ巨体が壁となり、一旦接近戦に持ち込まれたら対抗しようがない、という事をだ。これは王国軍の指揮官達にとっても悩ましい情報だった。
オーガという種族はモンスターの一種として扱われてきた。
実際には別に人を取って食う訳でもないのだが、その人を掴んで食えそうな巨体と凶悪な顔面が『人食いの化け物』という汚名と共に、亜人としては扱われてこなかった。
実の所、ゴブリンやオークも似たようなものだ。
例えばゴブリンやオーク達からすれば人相手など「いや、何であんなのと子づくりしなきゃならねえんだよ」というのが本音だ。そりゃあそうだろう。明らかに見た目が違うのだ。当然、美的感覚もまるで違う。それなのに彼らが人を襲い、人の女に子を作らせるという悪評が付きまとうのはただ単に「あんなに醜いなら、綺麗な人の女などさぞかし狙われるだろう!」という偏見が多分に入っている。
実際には見た目が違いすぎて、発情すらしないというのが現実だが、そんな言い分など思い込みで固まった人の側には受け入れてもらえない。
だからこそ、今は熾烈な攻撃に繋がっている。そう、攻撃している側は必死なのだ。
「怪物共を近づけるなっ!!」
「俺達の街を守るんだ!!」
そんな事を叫ぶ貴族や兵士達に、言葉を理解する者達は顔を顰める。
彼らの内心からすれば「お前らこそ怪物だろうが!」「余計な殺しや破壊なんかしやしねーよ!!」という気持ちだが、同時に「どうせ連中、俺達が何言った所で聞きゃしねえだろう」といった諦めもある。だからこそ彼らは無言のまま自らの仕事に専念する。
はっきり言うが、現状は下手な身動きが出来ない。
飛来する岩を防ぐにはオーガ達でもオークによる魔法支援が必須だし、ゴブリン達も反撃はしているが残念ながら数で人の方が多かった。
もっともこれは多段形式で事前に陣地を構築し、射程の異なる兵器と武器の射程を揃え、極力多くの武器を同時に用いる事が出来るようにした人の側の苦労の賜だ。敵の大都市の前だけに簡易陣地に留めざるをえなかった南部連合軍側とは揃える事が出来た数は同じでも、同時に活用出来る数で今の状況を作っていた。
もっとも、南部連合軍側が守りに徹しているのは焦っていないからだ。
確かに、陣地を巧妙に構築する事で南部連合軍以上の兵士を活用する事に成功はしている。
だが、それは予備兵力がその分減る、という事と同義でもあり、また矢や投石の消耗がより激しいという事でもある。どんなに都市内部に消耗品の類を積み上げていようとも、それらを前線に運ぶには手間と人手がかかる事は避けられない。
彼らは焦る事なく、隙を伺い続けていた。
そう、彼らの狩りそういうものだった。
さて、やや不利ながらほぼ拮抗状態にある右翼。
一見、王国軍が攻め立てているように見えるが、その実情は王国軍が必死に前進を押し留めているだけで被害そのものは小さい中央。
そんな現状である意味最も不利な状況にあるのが左翼の南方解放戦線であり、それが王国軍の優勢を生み出してもいた。
「……さて、連中何時まともにこっちの指揮を受け付けるのかね?」
「死なないと分からないんじゃないカ?」
「それじゃ遅いんだがなあ……」
ティグレとカノン。
両者の会話がその理由を示していた。
はい、南方解放戦線曰く
「我々も長らく奴らと戦ってきた。まずは我らの戦いぶりを見て欲しい」
=指揮は俺らにやらせろ!
です




