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南方攻勢3

 さて、サフィロの攻略が順調に進んでいる頃、ビネロでは両軍が睨み合っていた。

 ブルグンド王国軍がサフィロからの援軍五千に、国を裏切れないと何とか南部から脱出してきた諸侯など残存部隊を加えた総数一万二千。王国から寝返った南方諸侯を組み込んだ為EWUから改名し、とりあえず南部連合軍を名乗る軍勢が総数一万四千。

 王国軍としては本音ではビネロに籠城したかったのだろうが、生憎ビネロは籠城戦には徹底的に向かない。街中に入り込まれたらどこに敵兵がいるか捕捉も出来ないし、そもそも自軍の兵士も連携が取れない。

 かくして、王国軍はビネロの外に布陣した訳だが、南部連合軍も決して有利とは言えなかった。

 何せ、数こそ上回っているものの連携が取れているとは言えない。エルフ、南方解放戦線、ゴブリンやオーガ、オークにコボルド。そこにドラゴンといったモンスターに今回加わった元南方諸侯率いる軍勢の混成軍の初陣で完璧な連携が取れたらその方がおかしい。

 結果、部隊を明確に分け、王国軍と対峙する正面に元・南方諸侯軍。これが王国軍の正面に布陣する。

 そこから緩やかに右に広がりつつエルフと各種モンスターの軍勢、更に一番左の陣に少数の南方解放戦線軍が位置する。

 真正面という一番危険な場所に南方諸侯軍が位置しているのは当然「再度裏切ったりしない事を身をもって示せ」という意味合いがあり、それは他ならぬ彼らが一番理解している。

 そして、王国軍としてはいわば裏切り者である彼らを無視出来ないという事情もある。

 

 「……勝たなきゃならねえんだが、難しい戦いだよなあ」


 総指揮を執るのはティグレ。

 というか、そんな立場になれる者が他にいなかったとも言う。

 まず、南方諸侯から総指揮官を出すのは論外だ。

 かといって、南方解放戦線から出すのも論外。

 前者は寝返ったばかりの軍勢、後者はゲリラ戦こそ経験あれど大軍を率いての戦闘は経験がない上、南方諸侯達が使い捨てにされるのではないかという疑念を持ちかねない。

 エルフ達やモンスター達も南方解放戦線同様、軍勢同士の戦闘なんてろくに経験がない。まあ、前回の経験がある為皆無ではないが。

 かくして、ゲームの経験だったはずが、感覚では現実として染みついているティグレが指揮官をやっている訳だ。


 「まあ、そう固くならないでくださイ。いざとなれば動くつもりはありますかラ」


 そう、カノンが言った通り、いざとなれば彼が動いて全てをひっくり返すつもりではいた。もっとも。


 「そいつは最後手段、というかそうなった時点でこっちとしては負け同然だからなあ……」


 そう、それではあくまで「カノンの力で勝った」だけで、南部連合軍として勝利したのではない。

 南部連合軍に自分達は勝てる、戦える、そんな気持ちを持たせたいティグレとしては出来れば避けたい展開だ。とはいえ。


 (大負けよりゃマシだがな)


 そう、負けて全てを失うよりは余程いい。

 生きていれば、やり直しが出来る。

 いや、とティグレは外に見せる事なく内心で思う。最初から負けを考えてどうする、と。最初から逃げを考えていては勝てる戦いも勝てなくなるのは幾度も体験したはずだ。そう、「勝てる!」、そう自分が思えなくてどうして指揮官が務まるか。

 自分が信じてもいない事をどうして、部下達に信じさせる事が出来るのか!

 一度目を閉じて、再び開いた時、気持ちははっきりと切り換わっていた。

 その姿を少し離れていた兵士達が思わずゴクリ、と喉を鳴らした程だった。彼らはそこにいた総指揮官が全く別の存在になったかのように感じられたからだ。口元には僅かに笑みが浮かび、体全体から覇気とでも呼ぶべき何かが噴き出しているかのようだった。

 そんな姿を見て、カノンはふっと笑い、少し後方に下がった。

 

 「カノン」

 「いつでもどうゾ」


 すうと息を吸い、ティグレは語り掛ける。

 

 『指揮官をやるティグレだ。さあ、戦争が始まるぞ。なあ、お前らは戦争は好きか?』


 カノンの力で味方全員に声が届く。


 『ちなみに俺は嫌いだ』


 そう続いた声に思わず、といった様子で顔を見合わせる者が続出した。


 『だがな、世の中口だけじゃ解決しねえ事はある。そんな時、どうする?逃げるか、それとも戦ってでも守るか』

 『逃げるのは楽だ、だが、逃げるのはいつまでだ?命を含めた全てを失うまで逃げ続けるのか?』

 『俺は嫌だね。逃げ続けるのはまっぴらだ』

 『人参、ピーマン、玉ねぎ、嫌いでも食わなきゃならねえ時があるように、逃げられない時ってのはある。その時、黙っておとなしく殺されるか?それとも死にたくないから足掻くか?』

 『俺は足掻くぞ、最期まで。今回がそれに相応しい場所かは分からねえが、知りたいなら生き延びろ』

 『そうら、声を出せ、そうしねえと目の前の奴らがオマエラを殺しに来るぞ!!』


 そう語りかけながら、スキルを用いる。

 

 (『鼓舞/気力上昇』発動、『熱狂/一定時間気力上昇値にボーナス』発動)

 

 知らず知らずの内に興奮状態に持ち込まれた兵達は一斉に。


 「「「「「「「「「「おお……おおおおおおおおおおおおーーーーーーーっ!!!!」」」」」」」」」」


 叫び声を上げ、次第に自分でも制御出来ない興奮状態へと陥ってゆく。

 その戦叫に応じるかのように、王国軍もまた叫び返す事で双方とも更に恐怖を忘れてゆく。


 『前進せよ!!(スキル『覇王の行進/発動後十秒以内に動き出した味方軍勢に対して攻撃力と防御力にボーナス』発動)』


 そうして、南方連合軍全軍が一歩を踏み出す。

 戦争がここビネロの地でも始まろうとしていた。 

ティグレもちょいとズルしてます

本来は声が届く範囲の味方に対してしか効果がないのをカノンの協力得て全軍に拡大させてたり、不安な連中を自分の演説だけで安心させる自信がないのでスキルを使ったりしてます

もっとも、「スキルなんてどんだけ効果あるのかねえ?」と異世界でどんだけ発動するか疑問に思ってますが、実際には……

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