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南方攻勢2

 悲鳴が多数上がっていた。

 ただでさえ、劣勢だった所に更に強力な戦力である桜華まで来たのだから、既に前線は崩壊しつつあった。

 この原因の一つには今回用いられた植物型ゴーレムとでもいうべき戦闘傀儡の特性を活かした戦い方にもあった。

 通常、城壁は高く、そこへと登る事も難しければ、そこから飛び降りる事も出来ない。この為、城壁の上へと登る階段を備えた塔が攻防の第二の要となり、その為、塔は攻防に使えるよう独立した防衛施設としての機能を有している。

 だが……。


 「なんだよ、ありゃあ!!」


 一人の兵士が叫んだ。

 戦闘傀儡はそうした塔を無視して、城壁から飛び降りた。その手から緑色のロープを伸ばし、するすると下へと降りてゆく。無論、伸びているのは内部にぎっしり詰まった蔦だ。下へと降りると城壁上部に巻き付けた部分を回収し、再び内部へと収納し、侵攻を再開する。

 城壁と塔という防御設備が意味をなくし、結果として防衛計画は第一段階で完全に瓦解していた。

 そして、街中を駆ける戦闘傀儡達の先頭に立つのが桜華だった。

 無論、街中に一般人の姿はない。

 軍都とはいえ、そこが都市として機能している以上、商人など一般人もいるのだが、彼らは家や店に閉じこもって出てこない。

 通常の戦闘であれば、一部の兵士が家屋や商会に押し入って、略奪が行われる事も多々あるのが現実であり、それを怖れて誰もが震えていたのだが、今回侵入したのはいずれも常葉によって統制される操り人形達だ。そんな事をする訳もなく、最終防衛拠点である軍都中央の砦を兼ねた領主の屋敷へと到達した。

 とはいえ、こちらは堀がある訳でもなく、城壁もそこまで高くはない。

 原因は簡単で、元々ブルグンド王国はここへ侵攻してくる勢力はまずいないと考えていた。なにせ、元々ビネロが余りに軍を駐留させるのに向いていない場所な為に構築されただけで、高い城壁というのはそれだけで建築費と維持費がかかる。

 そして、誰だって余計な金は使いたくない。

 かくして、一番外側の防壁こそしっかりしたものを構築したが、内部の砦に関してはそこまで防御をガチガチに固めてはいなかった。


 「まさか、ここまであっさりと到達されるとはな」


 だから、だろう。

 砦前の広場に既に部隊が展開していた。


 「あら、そちらは敵将さんでしょうか?」

 「……そうだ」


 桜華の姿を見て、驚いたようで、一瞬反応が遅れた。

 当然と言えば当然ではある。何せ、桜華の姿は見た事がないとはいえ、動きやすいようには見えない普通の衣服(着物)で、見た目はまだ若い少女だ。そんな相手が不気味な鎧甲冑の戦闘傀儡の先頭に立って話しかけてきたのだから混乱するのも当然だろう。


 「……そうだ、この地に駐留する軍の指揮を預けられているゴットフリートという」

 「桜華です。こちらの総司令官は外にいますのでご容赦下さいませ」

 「そうだろうな、むしろここに総司令官がいたら、その方が不思議だと思うよ」


 さて、とゴットフリートは武器を構えた。


 「ここまで来れば、我々の負けはほぼ確定したも同然だ。城壁で防げなかったものがここで防げるとも思えんしな……」

 「そして、城壁方面に詰めた部隊の応援が、私達の背後から襲ってくる可能性も低い、という訳ですね?」

 「ああ、それが期待出来るなら、貴殿らがそういう奇襲の仕方をしてきたなら粘ってもみたのだがな……」


 そう言いつつ、ちらりと城壁へと視線を向けた。

 現在も攻防真っただ中、幾つもの新たな城壁内部へと降下する緑に染まる壁を。

 

 「あれでは無理だろう」

 「そうですわね、実の所、もっとここの兵士は多いと思っていたのですが」


 その言葉にはゴットフリートは黙って首を竦めたのみだった。

 実の所、その通りで元々はここに駐留している軍の総数はもっと多かった。元は二万と常葉が率いてきた軍勢の総数に匹敵する規模の軍勢を抱えており、それだけの兵がいればもっと良い戦いが出来ていたはずだったが、現在のここには五千程度の数しかいなかった。

 一万は北部からのアルシュ皇国の侵攻を防ぐ為の増援として中央に取られた。

 五千は領都ビネロへの援軍として派遣した。

 それでも五千あれば、このサフィロでなら籠城に徹すれば倍以上の軍勢であっても防げると考えられていた。最初から軍都として建設が開始されただけに防衛に適した地が選ばれており、四方の内三方は様々な理由で大軍を動かしづらい地形となっている。

 ほぼ一方向に防御を集中出来るのならば例え敵が十倍の五万でも防いでみせよう、そう豪語出来るだけの設備がここにはあった。

 ……普通の相手なら、だったが。

 

 「とはいえ、こちらも面子があるのでな。互いの将同士の一騎打ちを受けてもらえるとありがたい」

 「こちらが勝てば、降伏していただけると?」

 「約束しよう」


 少し考えた素振りを見せた後、桜華は頷いた。実の所は常葉へと確認を取ったのだが。 

 常葉からすれば、桜華の強化を期待しない訳ではないが、そちらに使えそうな人材は既に城壁方面で一定数確保していた。

 そもそも、前回のような状況でもない限り、相手方の将軍格を桜華に与えるのは難しい。そういう立場の人間は死んだとしても返還しないといけない。

 それなら、ここでさっさと終わらせてもいいだろう、そう考えたのだった。


 「では始めましょうか」

 「そうだな」


 多少、桜華の恰好に納得いかないものがないではなかったのだろうが、そこは言ってもしかたないと割り切ったのだろう。剣を構えた。

 そうして、刀と剣が交錯したのだった。

今月末はちょっと仕事先が相当ややこしい事になりそうなので、更新出来ない可能性があるかもしれない……

それまではきっちりあげたい所

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