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南方攻勢1

今回から南、主人公らの視点に戻ります

 北で大きな動きがある中、南もまた動いていた、

 大きく二つに軍勢を分け、片方の第二軍は常葉が……というより常葉の眷属達で固めた軍勢だ。

 残る面々、エルフ達をはじめとする亜人に分類される種族達、ドラゴンなどの知恵ある魔獣達、南方解放戦線、元南方諸侯によって第一軍を形成している。

 こうして、軍勢を二手に分けたのは南方から王都へ向けて侵攻する場合に障害となる地点が二ヶ所ある為だった。


 一つは南方の中心都市であるビネロ。

 もう一つは南方の軍事拠点であるサフィアであった。

 これは元々南方の交易の中心都市がビネロであった事が原因だ。当時はまだブルグンド王国軍は南方への侵攻を行っておらず、実質的な国境地点にある交易拠点となった街が次第に拡張されて、何時しか南方の中心的な都市となった。

 一方、サフィアはブルグンド王国が南方と小競り合いを開始するようになってから作られた都市だ。

 当初はビネロを改築して、と考えられたのだが、小さな村レベルから無秩序に拡大していったビネロは大通りだけは何とか確保していたものの、一旦裏道に入れば迷路の如く入り組んだ細い道が至る所に走っており、場合によっては勝手に道を庭のようにしてしまった場所まであった。住人も勝手知ったる何とやらでそんな場所を平然と通る。

 何とか街が豊かになるにつれて、身を守る為の防壁や防衛設備は確保していたものの、防衛部隊以外の軍勢を新規に受け入れるには大きな問題があると言わざるをえない状態だった。

 この為、王国は軍勢を南方へと送り込む拠点としてサフィアの原型となる要塞を建造。こちらも次第に軍を相手にする商人や駐留する兵士の家族、軍勢が駐屯しているから安全だと集まってきた人々によって次第に都市が成立していったが、元々が軍の拠点だ。こちらは軍都と称される程に整然たる都市となっていた。

 王国の南方民の間では「美人とは言いづらいが、愛嬌と元気一杯の可愛いビネロ」「美人だが、つんと気取ったお貴族様のサフィア」などと呼ばれている事からも分かるように、軍事都市という事もあってサフィアは敬遠され気味だったが、それでもビネロを守る砦としての意味を持つ都市だった。

 しかし、今、寝返った南方諸侯達も取り込んだ南方連合軍は北から攻め寄せるアルシュ皇国にこちらを侮らせない為にも迅速に南を抜く必要があった。

 その為にはビネロも落としたい所だが、ビネロに集中するとサフィアから背後を衝かれる事になる。

 故に部隊を二つに分けたのだが、常葉がサフィアを、残る連合軍でビネロを攻める事になったのは、やはり王国南方の政治経済の中心というとビネロ、というイメージが強かった為、そこは連合軍で落とす必要があると判断した為だった。


 「くそっ、なんなんだ、こいつら!!!」


 そうして現在、サフィアはビネロに先駆けて、絶賛攻防の真っ最中だった。

 到着自体はビネロを攻める第一軍の方が早かったのだが、あちらが複数の集団の連合であるのに対し、第二軍は全て常葉の眷属で構成されている。全体としての動きやすさという点では圧倒的に第二軍の方が動かしやすかった。

 サフィアは元々軍事拠点として構築されただけあって、分厚い城壁と各種の防御設備を備えている。

 しかし、現在攻め寄せている第二軍はまず、地上から飛び出した幾本もの動くロープ……蔦が一気に伸びて城壁へと絡みついた。更に見る間にそれが編み上げられ、僅かな間にそこには植物で編まれたマットが城壁の上と地面を結んでいた。

 普通ならそんな場所、思い切って駆けるのは躊躇いがあるし、駆けるのにもコツがいりそうだが駆け上がってきた一見すると鎧騎士に見える相手も普通ではなかった。


 「喰らえっ!!」


 一人の兵士が突っ込んできた鎧騎士に対して槍を突き出すが、騎士はといえば平然とそのまま突っ込んでくる。

 刺さっても、痛みを感じる様子もなく、そのまま兵士は切り倒された。


 「駄目だ、槍や矢が効かねえ!!」

 「こいつら人じゃねえぞっ!!」


 そう、一見すると人のように見えるそれは植物性のゴーレムだった。

 かつて大森林地帯に攻め寄せた者達の鎧、ここまで勢力圏とした範囲の不要となった鎧などの内部にびっしりと蠢く蔦が入り込み、操っている。

 当然、そんな相手に槍だの矢だの刺した所で隙間に入り込むか、運が良ければ一本やそこら蔦が切れて終わりだ。そうして、接近戦に持ち込まれれば、タフさと剛力で一般兵士では太刀打ち出来ない。


 「火だ、火をかけろっ!!」

 「奴らの足場を奪うんだ!!急げえええっ!!」


 慌てて炎の魔法が放たれる。しかし。


 「なっ、なんで燃えないっ!?」

 「馬鹿っ、油をかけろっ!!」


 キャンプなどで火をつける、という作業を行った経験がある者ならわかる事だが生木というものは案外燃えにくい。

 この為、事前に採取して乾燥させた薪を用い、最初の火を熾す際にはオガクズや新聞紙などのもっと燃えやすい物を火種にする。当然と言えば当然だ、樹木は生きる為にその内部にたっぷりと水を含んでいる。更に乾燥から身を守る為に防御もしている。火をつけました、燃えました、なんて簡単にいく訳がないのだが、混乱した彼らは油を撒く前に火を放ってしまった。

 そうして、その時間は致命的なものになり、油の入った甕は城壁の上にぶちまけられた。


 「ああっ!」

 

 こうなっては下手に火を使う事は出来ない。使って引火でもしたら、城壁の上は火事になってしまい、自分達が死ぬ。 

 そんな混乱する只中へ、更なる恐怖が舞い降りた。


 「うふふふ、さあ、私が更に咲き誇る為のよき栄養となれる方がいると良いのですけれど」


 【血染め桜】桜華の参戦であった。 

 

世の中には引火性の油を葉から放出するユーカリなんて樹木もありますが、生木を火にくべてもなかなか燃えませんからねー


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