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北方炎上13

北方編終了です

 「ぐっ……一体何が……!」


 ハーガ伯爵は激しい衝撃で叩きつけられた体を起こした。

 幸い、というかどこか致命的な怪我を負った様子はない。痛くはあっても触ってみた感じ、骨が折れている様子はない。


 「一体何が起きたのだ」


 この大要塞があそこまで揺れるなど何か重大な事が起きたのは間違いなかった。

 先だっての一件でハーガ伯爵は要塞奥の部屋で謹慎状態にあった。

 とはいえ、内実は総司令官も含めた上層部や貴族指揮官らの暗黙の了承を得ての行動。あくまで「自主的な」ものであり、見張りや鍵はかけられていなかった。それでも本質は真面目なハーガ伯爵は一瞬躊躇ったものの、今はそれどころではない可能性が高い、と思い直して部屋の外へ出た。

 廊下もあちこちが崩落する中、ハーガ伯爵は上を、司令官らがいるはずの場所を目指した。

 途中で兵士を捕まえ、敵の攻撃らしいと判明はしたものの、彼らの説明は混乱からか要領を得ず、「これはもう自分の目で確認するか、詳しい事情を知ってそうな者を見つけるしかない」と走っていた。

 次第に崩壊の度合いが激しくなっている建物の中を懸命に駆け抜けていた時、崩落して天井が見える場所で何か見覚えのある鮮やかな色を見かけた。

 

 「?……!!イーラ侯爵!!」


 ケレベル要塞の総司令官であるイーラ侯爵だった。

 慌てて駆け寄って侯爵の口元に唾で濡らした指を持っていけば乾く感覚。呼吸をしている!

 しかし、引っ張り出そうにも下半身が瓦礫に埋もれていて、おそらく何かしらに挟まれているのだろう引っ張ろうとしても動かない。

 

 「誰か!誰かいないか!!」

 「なっ、何でしょう!!」「何かありましたか!!」


 幸いな事にバタバタと走っていた兵士と騎士が一人ずつこちらの声に気づいて駆け寄ってきた。

 兵士は比較的軽傷だが、騎士の方は頭部から血を流していた。もっともこうして走れる時点でおそらく頭部を兜が守ったのだと思われた。


 「総司令官がそこにいる!救助を手伝ってくれ!」

 「「!!わかりました!!」


 指し示すと二人共すぐに理解したらしく、瓦礫を三人で懸命に取り除いた。

 案の定、右の足首付近が柱状の岩塊に挟まれていた。お陰で完全に右足首は粉砕状態だったし、それ以外にも骨折していると思われる場所はあったが、それでも息があるのは司令官のものに相応しい頑強な鎧が重要な箇所を守り抜いたからだろう。


 「司令官!イーラ侯爵閣下!!」


 何とか引っ張り出した司令官を横たえ、軽く頬を叩きながら声をかける。このような場合、揺らしてはいけない。

 ちなみに兵士は「医務官を探してきます!!」と叫んですっ飛んでいった。

 騎士には「何か司令官を運ぶ戸板か何か探してみてくれ!」と頼んで、現在外れかかった扉を近くで外そうと奮闘中だった。


 「ぐっ……ううっ……」

 「!!司令官!私です、ハーガです!!わかりますか!!」

 「は、ハーガ伯爵、か……ぶ、無事だったの、だな……皇国の、連中、あの新兵器の、もっと大型の化け物で要塞を、砲撃しおった……」

 「!!!!」 

 

 ここでハーガ伯爵はようやく現状を把握した。

 なお、当り前の事だが攻撃を受けた側はその後、敵の巨大魔導投射砲が崩壊し、皇国側も(一部を除き)絶賛大混乱中な事は知らない。というか、皇国側もラウザ女公とその側近を除く大部分は怪我人多数発生、高位貴族も多数死傷の事態に大騒動なのだ。

 なお、皇王に「何か知らないか」と問われた女公は「こちらに来る前に技官からは信頼性に不安があると聞いておりました。運んで来られた際にお聞きしたのですが『大丈夫だ』と言われていたので、あの後何とかなったのかと思っていたのですが」と答えている。実際、嘘ではないし、実際に皇王の側近からも「確かに聞かれておりました」と保証してくれた事で、皇王も納得した様子だった。女公はただ、あの問題が早々簡単に解決するはずがない事や、使用を強行した連中が欠陥を見ないふりをしている事に気づいていたのを黙っていただけだ。

 

 話を要塞側に戻すが、イーラ侯爵が懸命に告げた命を受け、現在絶賛ハーガ伯爵は奔走中だった。


 「総司令官の命令だ!撤退だ!撤退せよ!!各部隊は急ぎ兵をまとめるんだ!」

 「負傷した者を運べ!!遺骸は……当面、荷馬車にまとめて乗せよ!」

 

 貴族の指揮官達は立場が上な者ほど死傷し、圧倒的に不足していた。

 原因は彼らがいずれも高い位置にいた事だ。

 別に何とかと煙は高い所に、という訳ではなく、要塞という視界の悪い場所では下にいては敵の動きが見えないからだ。要塞の奥や下にいては敵の動きを見張りが報告し、それを受けて指示を出す事になってしまう。不明瞭な部分があれば確認の為、再度兵士が往復する必要がある。

 一刻を争うような場面でそれは致命的な事情を招きかねない。故に彼らは敵の動きを自分の目で確認出来る高所に陣取り、要塞が崩壊した際に高所から落下した者が相次ぐ事になった。

 結果、ハーガ伯爵が無事な中では最も地位が高いという事態が発生していた。もっとも、ハーガ伯爵自身は「自分の指揮でここから劇的な逆転劇を!」などという事は考えず、自分に次ぐ地位にあった貴族指揮官に後方で改めて陣地の構築を依頼していた。

 結果、ブルグンド王国軍はアルシュ皇国軍が混乱していた事もあり、可能な限り人員を回収しての撤退に成功する。

 可能な限り、としたのはさすがに大規模に崩壊した地点、生存者がいると確認出来なかったような場所を掘り返している余裕はなかったからだ。

 しかし、ケレベル要塞の陥落は王国にとって重大な防衛上の問題が生じた事を意味していたのだった。




 ――――――





 ケレベル要塞陥落。

 ブルグンド王国軍、二万中死者行方不明者千二百、負傷者六千余。

 アルシュ皇国軍、死者三百、負傷者三千余。

 要塞という防御施設にいた王国軍、砲周辺にいた者に死者が限定された皇国軍、共に死者こそ被害の割に限定されてはいたものの、負傷者が多かった事と死者に高位貴族が多い事が特徴の戦であった。前者は崩落による瓦礫の直撃で骨折などが発生した結果であり、後者は崩壊後の爆発で飛散した巨大魔導投射砲の破片が広範囲に高速で飛び散った結果であった。

撤退に成功したのは皇国側も混乱していた事が最大の原因です

何せ、最前線、谷間入り口付近でぶっ壊れた魔導投射砲や貴族がわざわざ張らせた天幕なんかが燃えてましたからね。消火、救助やってる間に王国軍は可能な範囲で救助やって撤退しちゃいました

女公自身は想定済だったんですが、下手に動くと「もしや、この状況を予想していたのでは?」と思われる危険があったのでさすがの彼女も下手に動けませんでした

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― 新着の感想 ―
[一言] テレテレ読んでコメ 技術的には差があるだろうけど戦車砲も打つと衝撃波が目視できるレベルで出るそうですしねー 戦艦の砲撃は艦の外に人がいる場合は撃ってはいけないそうですね、衝撃波で人がミンチに…
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