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北方炎上12

 (いよいよだ!)


 興奮が高まる。

 この場面で戦功をあげる機会を譲ってくれた事に、ラウザ女公に感謝する。

 一部の若い者は「自分達だって戦場に出れさえすれば同じように功績を上げてみせる!」などと発言している者もいるが、それでもすんなり譲ってくれたラウザ女公に対して批判的な事を口にする者はいない。……まあ、臣籍に降下したとはいえ陛下が可愛がられている妹君である上、いまだお若い美女に対して公然と悪口を言える奴はいないだろうが。

 何せ、若く未婚な貴族ならば婿に入るという可能性だってあるし、或いは我が子や派閥の者が婿入りする可能性だってある。

 少なくとも将来、誰かしら婿を迎える事は間違いないのに、今の段階から可能性を潰す奴はいない。それに下手に悪口を言って陛下の耳に入りでもしたら当然ご不快を買うであろうし、もし、派閥内部で語っていただけだとしても同じ派閥のトップの家から婿入りでもすれば……当然、派閥内では冷遇される事になるだろう。

 加えて、男というのは……やはり美女には弱いものだ。

 これがまだ美女ではあっても見るからにキツイ顔立ちで、言動もヒステリックというならともかく、ラウザ女公は見た目はどこかぽややんと柔らかげな母譲りの顔立ちを持つ。そうして、口調も必要に応じて柔らかい口調が出来る。実際、宮廷やお茶会でしか会わない貴族や貴族の奥方や子女に、戦場や身内にしか見せない、はきはきした彼女を知る者はいない。

 だから、彼女が戦場に出るのも「単なるお飾り」「ちょっと変わったご趣味」と思っている者は実に多い。


 ……さて、話を戻すが、現状、魔導投射砲は強烈なデビューを飾りはしたものの、王国とて馬鹿ではない。すぐに至極簡単な対抗策に気づくだろうとは言われている。

 現在魔導投射砲を含めた一般的な要塞側の装備、攻城側の装備としては以下のようになる。


 【射程】魔導砲>魔導投射砲>投石機

 【威力】魔導投射砲>投石機>魔導砲

 【速射】魔導砲>投石機>魔導投射砲


 こうして見ると、魔導投射砲がほぼ投石機の上位互換である事がわかるだろう。

 速射性能こそ劣るものの、威力射程の双方で従来の投石機を大きく上回るものの、魔導砲の射程には未だ劣る。すなわち、魔導投射砲を展開中に攻撃を受ければ破壊される公算は高く、魔導投射砲は基本、設置に投石機以上に時間がかかる。

 どちらにせよ要塞に既に据え付けられている魔導砲より早く、正確な攻撃は不可能だ。

 あちら側は既に設置済、調整済の砲を要塞という城壁に隠れて撃てばいいのに対し、こちらは対抗する魔導砲を簡単な防壁を構築しながら設置し、その援護の中、投石機乃至魔導投射砲を設置する事になる。ラウザ女公自身が指摘していたように、今回要塞側に予想以上の効果と焦りを与えたのはあくまで投石機以上の射程を持っているからこそ。

 だからこそ、投石機より遠くに見た事のない代物を構築し始めた事に困惑し、気づいた時には手遅れだった。いわば奇襲だ。そして、奇襲というものは一度目以降はその効果は大きく落ちる。


 (だからこその大型魔導投射砲だ)


 大型である分、射程と威力は更に増大。

 遂に要塞設置型の魔導砲の射程を超えた。

 威力も万全、ケレベル要塞の城壁を打ち抜く事も理論上は十分可能だ。

 まあ、欠点として重すぎる事が挙げられるだろうが……実際、ラウザ女公が大型を持っていかなかった理由がそうであるし、その理由が正しかった事はここまで十分に思い知らされた。技官達が渋った理由も重々理解した……!

 ばらしたとしても、この大型魔導投射砲は実に巨大で重い。

 特に厄介なのが砲身だ。最大の重量を誇る上、こればかりはばらす事も出来ない。下手に乱暴な扱いも出来ない。

 ……正直に言うが、これは本国の要塞砲として設置されるのが精々だろう。今回運搬に関わった貴族達から反対意見が出る事もあるまい。

 ただ、一度の……野戦での大型魔導投射砲の運用。

 

 (それだけにそれを為して、要塞を攻略すれば我らの名は歴史に残るであろうな……!)


 陛下もご覧になられている。

 これ以上の誉れはあるまい!


 「発射準備完了致しました!!」

 「ようし、発射用意!周囲に警告を発せよ!!」

 

 そして、全ての準備が整い、発射が命じられ……。

 凄まじい轟音と光と共に私の意識は途切れた。




 ――――――――――




 その光景を離れた場所から見ていた者達からさえ何が起きたのかすぐには理解出来なかった。

 理解出来たのは薄々予想していたラウザ女公とその腹心の側近達のみ。

 事前に警告され、その為に必要な人員以外は離れていたとはいえ、それでも轟音と閃光は予想以上の代物だった。

 貴族達は警告されながらも周囲に留まっていた。理由は「お前は発射の時、逃げていたじゃないか」と傍にいた者に言われるのを怖れた為。最悪、折角の戦功を挙げる機会を失ってしまう可能性があった。そうでなくとも貴族とは見栄を張るものだ。

 結果、素直に距離を取った者はほとんどいなかった。

 この結果、何が起きたのか。

 まず、第一段階として周囲に衝撃波が吹き荒れた。

 これで見栄を張って、体を固定していなかった貴族の相当数が吹き飛ばされた。数十メートルを相当な勢いで空を飛び、叩きつけられれて無事に済む者がそうそういる訳がない。即死した者が多数、幸運な一部が重傷で済み、更に極僅かな本当に幸運だった一名だけが軽傷で済んだ。

 だが、これは最初の段階に過ぎなかった。

 直後に内圧に耐えきれなかった砲身が破裂し、空気圧縮による高温となった空気が周囲に吹き荒れ、更に砲身の破片が散弾となって飛び散った。

 これで体をきちんと固定し、事前の警告にしたがってちゃんと耳をふさぐと共に口を開けていた者達も肺を焼かれ、散弾に貫かれ、もがき苦しみ死亡した者が続出。

 更に、試作段階だった大型魔導投射砲の発射機構が試射が出来なかったが故に気づく事のなかった耐圧不足その他諸々によって崩壊、爆発した。これによって周囲の僅かに息のあった者達も軒並みとどめを刺された。


 そうして最後に。

 大型魔導投射砲はそれでも設計、製造した技師達の意地か、或いは戦功を求めた貴族達の遺志もしくは執念か。

 大型砲弾が計画以上に正確に飛翔し――ケレベル要塞にほぼ理想の角度で直撃。

 正門の三分の二を含む城壁の三分の一を倒壊させ、それだけに留まらず要塞本体に着弾。最終的に要塞のおよそ半分を崩壊に導いた。そこまで破壊されてしまえば残った部分も無事な訳もなく、また巻き込まれた将官に兵士多数が死傷、ここに実質ケレベル要塞はその機能を喪失するに至った。

ようやっと北方編も終わりに……!

次回にて北方炎上終了予定です

再来週からは再び主人公ら視点に戻る予定です

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