北方炎上5
「このままではケレベル要塞はもたない!!」
その夜。
アルシュ皇国軍の攻撃によって被害を受けたケレベル要塞ではそんな主張が会議室に響いていた。
ケレベル要塞は今回のアルシュ皇国軍の攻撃でこれまでにない甚大な損害を受けた。
まだ分厚く堅牢な要塞の防壁が崩壊したという訳ではないにせよ、このまま今日のような攻撃が繰り返されたら、どうなるかは自明の理だった。
これがもし、アルシュ皇国軍の新兵器、魔導投射砲が十射にも満たない発射で次々と故障する様を確認する事が出来ていたならもう少しは落ち着いていたかもしれない。
しかし、新兵器の投射に対して要塞守備兵達も驚愕と恐怖で十分に動けていなかった。具体的には見張り兵でさえ混乱して身を隠していたので相手の動向を冷静に監視する余裕がなかった。結果として、魔導投射砲の脅威だけがブルグンド王国軍側に残った、という訳だ。
「ではどうするのだ。だからといって現状出撃するのはリスクが大きすぎるぞ」
だが、それもまた事実だった。
現在のアルシュ皇国軍があくまで前衛部隊に過ぎず、その後方には本体、後詰が控えているのに対し、西方及び南方の混乱によってブルグンド王国は現在必死になって動員を進めている真っ最中。しかも、西から南にかけて成立しつつある新たな勢力の存在によって完全にアルシュ皇国軍に専念する事すら出来ない。
以前なら南方に対しては抑えを置いておけばそれで良く、西方に至っては警戒する必要すらなかった。ブルグンド王国という国にとって、警戒すべきは北のアルシュ皇国のみだった。
今は口にしていないが、西方のエルフ達を追い詰めた中央に対しては彼らはこの戦が終われば声を上げて、その責を問う腹だった。何せ、彼らがついに反撃に出始めてから、大森林地帯の奥に潜んでいた強大無比な存在達が動き出し、今の王国の現状を生み出したのだから、それを主導した者達の責を問うのは当然だと誰もが考えていた。
(南方を抑えた事で我慢していれば良かったものを……!)
南方がまだ完全にブルグンド王国と一体化していない内に西方にまで手を伸ばした事を彼らは罵らざるをえなかったのだ。
「落ち着け。まずは状況をまとめよう」
イーラ侯爵がそう口を開いて、次第にケンカ腰になりつつある諸侯をなだめた。
それで多少は冷静になったのか、一旦自分達の席へと座る。
それを確認して、イーラ侯爵は自らの参謀へと目配せをした。頷いて、参謀が手元の書類を見ながら口を開く。
「まず分かっている事を時系列順にまとめます」
よろしいですか、と視線を諸侯に向けた後、特に反論がないのを確認して言葉を続けた。
・アルシュ皇国軍前衛部隊およそ三万がケレベル要塞前面に展開
・着陣翌昼より皇国軍新兵器にて攻撃を開始
・新兵器の攻撃により要塞の一部が損壊
「問題点と推測出来る点ですが」
・これまで用いられてきた投石器と異なり、一発で要塞に対して損傷を与える事が出来る
・射程が長く、これまでは届かなかった距離から実弾を投射してくる
「しかし、推測される欠点として」
・途中から必死に耳を澄ませていた者達が口を揃えて、発射と思われる音と要塞への着弾の音の回数が一致しない
・十回かそこらの攻撃で砲を下げている
「これらの点から命中精度はそこまで高いものではない事、また長時間の連続使用が可能な程の信頼性はない事、十程度の数しか存在しなかった事から皇国軍もそこまで多数の新型砲を揃えている訳ではない事が推測されます」
「とはいえ、破壊力から推測されるにこのまま砲撃を受け続けた場合、ケレベル要塞の一角に運が悪ければ穴が開く危険性もございます」
「幸い、魔導砲が届かない射程ではない為、ある程度の損害を覚悟してとなりますが、こちらからも魔導砲を用いての反撃は可能と思われます。以上です」
参謀が着席すると考えこむ面々で静まり返った。
一つにはこうしてきちんと報告がまとめて挙げられた事で、そこまで絶望する程の状況ではないと理解出来た事が大きい。反撃の手段は、こちらが殴り返す方法はちゃんとあるのだと理解出来れば、大分気持ちは変わるものだ。
その多少なりとも落ち着いた雰囲気を見て取ったイーラ侯爵は意識して落ち着いた口調で告げた。
「ではこの情報を元に我らの反撃の手段を考えるとしよう」
そう言った後、ニヤリと笑みを浮かべ続けた。
「殴られっぱなしは性に合わんのでな」
その言葉には誰もが頷いたのだった。
ブルグンド王国ケレベル要塞駐留軍が反撃に動こうとしていた。
アルシュ皇国側のラウザ女公のイメージ
某〇ンダム0083のシーマ様を若くしたイメージですかね
あの扇を持ち、服装は古代中華の軍師風のゆったりした服装で
イーラ侯爵の方は同じ作品なら剥げてないデラーズ辺りが割とイメージに近いかも




