南方戦線7
今回は魔物軍の視点です
さて、南方諸侯達が話し合いという名の降伏を考えている頃、魔物軍達も話をしていた。
『やはり戦力が限られるのが厳しいな』
ドラゴンからの念話に各種族の族長らが一斉に頷く。
≪魔法での攻撃も出来れば良かったのですが……≫
と同じく念話で答えたのはオークの族長だ。
念話自体はそこまで難しい術式ではない為、元より魔法に長けた種族であるオーク族はドラゴンから教えを受けた彼らはすんなりそれを取得してみせた。
もっとも、この念話、欠点もあって……。
「し、じかた、ない。おでたちの、ぎょうかゆうぜん」
「ですね。わたしたちへの防御魔法もありましたし」
「ゆーせんじゅんい、まちがーたら、いかーです」
上からオーガ、ゴブリン、コボルトの族長達の発言だ。
念話は互いの精神をリンクするようなものではなく、あくまで自身の思念を飛ばす魔法だ。したがって、術者の考えた事を周囲に聞こえるようには出来るが、相手の言葉を解するのに使う事は出来ない。結果、オーガ達は念話の魔法を取得出来なかった為に口で話すしかない訳だ。
そして、ゴブリン族は案外流暢に会話が出来るようになっていたが、オーガ族とコボルト族は……まあ、かくの如し、という訳だ。
もっとも、これまで使っていなかった言語を何とか理解出来、話せるようになった、という時点でどれだけ彼らが短期間で努力したか分かろうものなので誰もその点に関しては文句を言う事はなかったが。
そして、今回、オーク族は分担してオーガ族に身体強化魔法や防御魔法をかけ続けて、彼らを守り続けていた。
ゴブリン族やコボルト族にも可能な限り防御魔法をかけていた。
結果として、損害を抑える事は出来たが、オーク族の魔法による攻撃を行う余力はなかった、という訳だ。
『しかし、何時までもそういう訳にはいくまいな』
≪でしょうな。魔法を使ってみせなければ、我々は魔法を使えないと思われる可能性もあります≫
「そう思わせて罠にはめる事も出来るでしょうが、何時かは真実に気づかれるでしょうなあ」
『そして、問題はそれだけではない』
一斉に族長達が頷いた。
「がず、なんどがしない、ど。ずぎま、どっぱされだ、ら。だいへ、ん」
まず自分達の問題点を挙げたのはオーガ族だった。
今回は上手くいったが、もし、オーガ族の壁をすり抜けられたら悲惨な事になる。
かといって、オーガ族以外に重装歩兵の役を任せられそうな種族はいないし、オーガ族というのは急激に数を増やす種族でもない。
「こーかい、ゆみとーか、あいてーにがーてなの、わかーた」
「あーと、ほじゅーたいへー」
続けて話したのはコボルト族だった。
馬に乗った騎士、或いは歩兵相手ならばコボルト族は十分な戦力となりうるが、相手が弓のような長距離武器を持つ相手だった時、相性が悪い事が分かった。投石、というのは確かに破壊力を持つ攻撃であり、獣達と共に駆けるコボルト族は長射程の武器を持たない相手には強い。
だが、スリングを用いた投石の場合、密集して突っ込むというのが難しい。石を包んだ紐を振り回す都合上、どうしても間隔が必要になる。
直接投げる、というのも手だがそれではきちんとした鎧を着た相手には効果が落ちる。
結局、攻撃が自然とバラバラに飛来する事になる訳だ。また騎乗している以上、盾を持つ事も難しい。
盾を持った兵士が守り、弓をその後背から撃つ、という形が固まってしまえば、これまでのような活動は困難になるだろう。まあ、騎士達の突撃を防げるだけでも十分意味があるのだが……。
もっとも、それ以上に問題なのが補充の問題だ。
コボルト族と獣達との関係は深い。
親の獣が生んだ子供がやがて親の任を引き継ぎ、コボルト族もまた別の獣の家族には乗らない。自分の家が共に過ごしてきた獣の家族が全滅したからといって、早々「じゃあ、別の獣を連れてこよう」とはならないのだ。
そうなった時、コボルト達はその家族は部族が養い、その間に一家の子供が新たな獣の家族と契約し、親は隠居して部族の為の様々な細工などを行う仕事に転じる。
狩りならばいいのだが、戦となればこの家族を失う、という消耗が激しすぎるのだ。間違いなく、そう遠くない内に、このままでは消耗に補充が追い付かなくなる。
「そちらに比べれば我々の方は特に問題はないですな」
一番問題が少ないのはゴブリン族だった。
元より、ゴブリン族は多産だ。
まあ、一匹見つけたら二十匹、などという事はないが、それでも人族のそれを上回る。これまではあまり増えすぎても食料の問題があったので抑え気味だったが、それさえ解決するなら後は武器の生産数の問題ぐらいだろう。彼らの弓は部族ごとの特殊技術な面がある為、誰もが作れるという訳ではないからだ。
また、部族ごとに特色がある為に、部族ごとに射程が異なるという欠点もあったが、そこは共通の弓を提供する事でまかなっている。元々、部族ごとに弓の形状や射程が違っていたのは土地柄や獲物の種類から連射可能な弓や、長射程大威力の弓などそれぞれに適した弓が求められてきたからに過ぎない。
『我らだけでは解決できそうにないな……前途多難、か』
ドラゴンの溜息に、族長達もまた戦争というものの大変さを実感した事で、深い溜息をついたのだった。
魔物達も初の戦争で色々自分達の問題が見えました




