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南方戦線3

 「このままではいかん!」


 そう判断したのは南方諸侯軍において左翼を任されているラトム子爵だった。

 元々、侯爵家の次男として生まれ、長男に嫡男が生まれた後、捨扶持の男爵位を与えられていた彼は自ら望んで当時の南方軍に参加。功績を上げ、爵位を上げていた。

 そんな彼でも南方諸侯軍に参加した、という時点で当時のブルグンド王国上層部が彼らの気持ちを読み誤っていたのは確かだが、それは元々高位貴族の嫡男として生まれて家を継いだ者達と、僅かな差で貴族家を継ぐ事が出来ずに下から這い上がるしかなかった者の差であったとも言えるだろう。

 無論、上層部にも本来は家を継げなかったはずが、上の急死で急遽跡を継げた、といった者がいなかった訳ではないが、そうした者達でも命がけで自らの居場所を勝ち取った者達ではなかった。

 そして、それは新たな家の当主達だけではなく、その家に仕える事になった者も同じだった。

 

 実の所、どこの貴族家にも王と貴族の関係と同じく「長く貴族の家に仕えた家臣の家」というものがある。

 つまり、そうした家は貴族家が残る限りは代々、子孫に仕事を受け継がせる事が出来るという事でもある。

 今回、南方諸侯らの暴走が可能だった原因の一つはそれ、配下の者達もまた折角得た利権を失う事を怖れた訳だ。世の中、トップ一人が暴走しただけでは思い通りに行くものではない。何かしらの目的を持って、それに協力する者達が一定数いればこそ、それが成功してしまう。

 そして、今回の件において新興貴族にとっても、その配下にとっても最終的な目的は一致していた。


 さて、とはいえそんな配下もピンキリな訳だが、このラトム子爵配下の部隊は割と精鋭の部類に属していた。

 これには訳があり、現在ラトム子爵の実家は既に父が亡くなり、兄が家を継いでいた訳だが、年の離れた弟を兄は可愛がっていた。だからこそ、心配して数年の限定ではあるが侯爵家の領軍や部下を派遣していた。なお、限定となったのは如何に兄弟といえど、独立した他の貴族の領地に別の貴族が自分の家の者を多数送り込むというのは王国の許可が必要だった。

 なにせ、そんな事をすれば最悪、兄が弟の家を乗っ取るという事だって起こりうるし、そうでなくても軍事力を領地以外の場所に置くのは余り良い顔をされないのは確かだった。

 このケースの場合は、兄弟という関係、王国への献金、南方での反乱勃発という複数の要因があいまっての許可だった。


 「オーガどもの前衛がこのまま中央軍に接触しては危険だ!側面より回り込んで奴らの弓兵隊を叩く!!」


 本来、各部隊はそれなりの厚みを持たせるのが常識だ。

 ところが、魔物の軍勢はオーガ達の壁は一枚のみでその背後にゴブリン勢が弓隊となって控えていた。常識外の陣形であった為に中央軍は予想外の打撃を受けた訳だが……。


 「奴らのあの陣形はオーガどもの数の少なさによる窮余の策だ!」


 そう見て取った。

 そして、それは事実だった。

 元々、オーガ族はその絶対数が少ない。基本的に人族を基準とすると、それより単体としての性能が強大なものほど繁殖率は低下し、逆に下回る程上昇するとも言われている。

 そして、オーガ族は間違いなく単騎では人族の能力を上回っていた。

 まあ、オーガ族があの巨体で人族並の繁殖率を持っていたら、とっくに人族は駆逐されていたとも言われる訳だが……結果として、オーガ族による重装歩兵という壁は人族のものと異なり、厚みという点では薄いものにならざるをえなかった。

 中央軍は正面から向き合っているだけにそれに気づく余裕がないようだったが、斜め前から見て取る事が出来た為にラトム子爵はそれに気づく事が出来た。


 「同感です。ならば弓兵に騎兵の護衛をつけて急ぎ横に回らせるのがよろしいでしょう」

 「そうだな、それと騎兵に命じよ。弓兵を後ろに乗せて急行するのだ」


 一瞬それを聞いた侯爵家から派遣された軍人は驚いた様子だったが、すぐに頷いた。確かに今は少数であっても少しでも早く横に移動させて攻撃を開始すべきだった。

 なにせ、今現在、明らかに中央軍は混乱状態にあり、必死に立て直しを図って入るものの、このままでは槍兵を改めて前に出して槍衾やりぶすまを形成する前に突っ込まれる事になるだろう。そして、それこそが魔物軍の狙いだと判断した。

 これを防ぐには時間との勝負となる。

 命令を受け、多少混乱はあったものの弓兵を騎兵が急遽運ぶ事で、急ぎ側面へと移動した。

 世の中には馬上から走りながら弓を撃つというやり方もあるが、あれはかなり訓練を必要とする。

 弓というものは当り前だが、撃つのに両手を使う。

 つまり、両手を手綱から放し、両足で馬体を挟み込み、馬を制御しながら敵に向かって弓を撃ち込む、という事になる。しかも、それを部隊という集団で行う必要があり、馬の足場も整えられたものではない。しっかり固められた馬場をまっすぐ走らせながら、馬からそう遠くない的に向かって射るのより遥かに難易度が跳ね上がる。

 はっきり言うが、そんな事が可能なのはブルグンド王国軍でも精鋭中の精鋭。正規騎士団の中でも選りすぐりの訓練を受けた者達ぐらいだ。遊牧民の騎馬民族ならば話は違うのだろうが、ないものねだりをしても仕方がない。


 「よし、撃て!」


 射撃を行おうと、そう弓隊の指揮官が命じた瞬間だった。

 これまで彼らを運んできた騎兵隊が一斉に動き出した。

 どこへ!?一体何故!?

 そんな思いは騎兵が向かう先を見て、即座に理解した。

 ……魔物の軍勢からも馬ではなく動物に乗った騎兵達がこちらへ向かってきていた。騎兵はそれを迎撃に向かったのだと。


 「……こちらはこちらの仕事をせよ!撃て!!」


 動揺する部下達に命じ、弓兵隊の隊長は騎兵が撃退してくれる事を祈りつつ、そう命じた。

 ……騎兵が壊滅した時、おそらく自分達も壊滅するだろうと分かっていたから。

 戦場は互いが互いの動きに対応しつつ、互いに勝利を掴むべく今も動き続けていた。

 

魔物の側にも弱点はあります

どっちが勝つかな

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