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閑話:イクサの後2

【カノンの場合】


 カノンにとっても虐殺は気になってはいた。

 なってはいたが、何しろ顔が鳥だ。そこは顔自体は人のそれである常葉とは大きく違う。エルフ達も同じような顔立ちである常葉の表情は読み取れても、鳥の顔そのものであるカノンの表情はさすがに未だ読み取る事は出来なかった。

 ……ただし、長い付き合いのある者は別だったが。


 「どうしたの?」

 「ム」


 翡翠、この世界での現在の呼び名をくれないという少女にとって、カノンは兄の次に親しい顔見知りでもあった。付き合いの長さはもう一人の兄と言っていいぐらいだ。そんな彼女にとって、同じ空を飛ぶ者同士、飛び方について相談に乗ってもらっていた事もあって気配からカノンの内心を察する事は難しい事ではなかった。

 空を飛ぶ、という事自体はユウナも同じなのだが、彼女の場合は空を飛ぶというよりは駆ける能力を得た、といったものであり、地上を駆けるのと感覚的には大きく違わない。

 これに対して、紅の場合は背に生えた翼で空を飛ぶ、というもので直感的に基本的な飛び方こそ理解出来るし、飛べないという事もないのだが、応用という面では試行錯誤している。だからこそ、同じ翼で空を舞うカノンとは日常的な接点が多かった。そう、常葉やティグレ達よりも。

 だから、というべきか。

 逸早くカノンの塞ぎように気づいた紅は床に胡坐あぐらをかいて座っているカノンの背中に抱き着きながら声をかけた。


 「笠斗兄、じゃないカノンさん、最近、落ち込んでるみたいだけど」

 「……バレてたカ?」

 「私はね!」


 ふふん、と少し自慢げな紅に、カノンは苦笑する。

 もっともその苦笑さえ鳥の表情というものを見分ける事が出来ない大多数にとっては読み取れないだろう。

 

 「やっぱりカノンさんも戦いにわだかまりがあるの?」

 「戦い、カ」


 どこか自嘲が混じった。


 「あれは戦いではないサ。あれハ……」

 「虐殺だ、とでも言いたい?」

 「…………」


 しばし黙っていたカノンだったが、しばらくしてポツリポツリと語りだした。


 「正直に言えば、何でああも皆殺しに出来たのか分からん」

 

 逃げ出していた。

 真っ向から立ち向かってくる相手を殺したのならまだ納得出来たかもしれない。

 だが、騎士団の騎士も兵士ももはやパニック状態でてんでんばらばらに逃げ出していた。あの時の兵士達はただ、恐怖に駆られ、命が惜しくて逃げ惑うだけの烏合の衆で。


 「そんな相手をただ殺していったんダ」

 「必要だった、って言われても納得出来ないんだよね」


 そんな言葉で納得出来るならこんなに苦しんでないもの。

 それが分かるからそのまま抱き着く。

 紅にはそれぐらいしか出来ないから。


 「……常葉はいいのカ?あ、いヤ」

 「お兄ちゃんはマリアが先に行っちゃったから大丈夫だよ」


 だから、りゅー兄ちゃんには私がいてあげる。

 そう言われて、カノンはどこか苦笑を浮かべたようだった。


 「そうカ」

 「そーだよ」


 静かに。

 静かにエルフの村の二箇所でそれぞれに男女の夜は更けていった。  

咲夜「村のどこかでラブ臭がするっ!!」

ユウナ「……何言ってんの、急に」


前回に引き続き、カノン版

カノンもまた、戦闘での自分に疑問を感じてます

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