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もたらされたもの

新年投稿第二弾


 騎士団の文字通りの意味での全滅。

 この一報が知られるに連れて、各所に激震が走った。

 犯行声明、というか「うちがやった」と宣言した勢力自体は……エルフ達以外にはいなかった。犯罪組織がそれを口にするにはさすがにリスクが巨大すぎたし、箔をつけるといったレベルではない。南方解放戦線は自分達にそんな力がない事などある程度所属している者なら誰もが知っていた。

 そして他国はといえば、そんな事を言えば間違いなく戦争だし、そもそもそんな箔付けなどする意味がない。むしろ、他国に密かに侵入して、騎士団一個を丸ごと殲滅するなど周辺各国からの警戒を招くだけだ。

 結果、エルフ達による騎士団殲滅は想像以上にあちこちに大きな影響を与える事になった。


 ――――――――


 まず、ブルグンド王国。

 こちらはパニックと言っていい状況だった。

 なにせ、少し前に騎士団の一つに無視出来ぬ損害を受け、ポルトン近辺の領主らの戦力に多大な損害を受けたというのに、ここに来て騎士団丸ごと一個の消滅だ。王都には近衛騎士団一個以外に三個騎士団が配備されていたが、これでまともに動かせる戦力の余裕がなくなってしまった。

 最低でも、何かあった時の為に近衛騎士団と騎士団一つは王都に置いておかねばならない。

 しかし、そうなると南方へと派遣する戦力がない。

 余所に駐留している辺境騎士団を持ってくるにせよ、そこに辺境騎士団がいるのはきちんと理由があっての事。それを動かすなら、穴埋めをする戦力が不可欠だが、それを召集するにはそれなりの時間がかかる。

 これが国同士の戦争なら話は早い。各領主に動員をかけ、各地から騎士団を召集すればいい。さすがに国同士の戦争で配備がどうこう言っている余裕などありはしないから逆に簡単だ。だが、今回はブルグンド王国としては内乱として処理したい事だからこそ厄介だった。

 結果、一応名目上だけでも予定されていた、先に損害を受けた騎士団責任者らへの処罰は軒並み中止になった。


 『今回エルフ達が騎士団一つを殲滅するだけの戦力を有していると判明した。ならば、半個騎士団でありながら、ある程度の損害で撤退を成功させた事はむしろ功とすべき事である』


 というのが表向きの発表だった。

 もちろん、我が子を失った領主からの不満がない訳ではなかったが、「なら代わりに戦力を出せ」と言われると尻込みせざるをえなかった。もしかしたら騎士団を壊滅させたのはエルフ達にとっても秘密兵器で数はない、という可能性もあったが、そんな可能性にかけて自分達が壊滅的な被害を受けるのは誰もが避けたい話だったからだ。

 これによって見習いの引き上げなどで緊急に戦力の回復を急ぐ王国であったが、結果として南方は完全に放置される事になった。


 ――――――――

 

 次に南方解放戦線。

 こちらはエルフ達の持つ戦力が自分達を大きく上回るものだと判断して揺れていた。

 もちろん、彼らも「エルフ達が今回用いたのが回数限定の秘密兵器」という事は考えた。だが、自分達はそんなものを用意する事すら出来ない、というのは大きかった。

 それに、こうしたものは回数限定でもいいのだ。「そうした物を持っている」「それが使われるかもしれない」、それだけで相手側はその存在を考慮して動かねばならず、動きを制限される事になる。

 誰だって、死にたくはない。騎士達だって確実に死ぬと分かっている所に行きたくはない。死ぬ可能性が高いと分かっていてもそうしなければいけないという場面はあるし、それなら騎士や兵士達とてまだ覚悟を決めて動く事も出来るだろうが、エルフ達を相手にした場合、何時皆殺しにされるか分からない、となれば……。

 はっきり言うが、常に緊張を強いられては体がもたない。

 と、まあ、色々言ってはいるが、要は南方解放戦線は割かし素直に。


 「エルフ側の方が力が上」


 だと認めた訳だ。

 普通は組織として「相手の方が上」だと認めるのは難しい所だが、南方解放戦線の場合は実質的に小さな組織の寄り集まりという面が大きいのが幸いした。彼らにとって「自分達より大きくて力がある組織」というのは常に傍にある当り前の存在であり、時に自分達が上になり、時に自分達が下になるのも至極当り前の話だった。相手が強大なだけにそうしなければ生き残れなかったとも言う。

 結果、南方解放戦線はエルフ側を立てつつ、共同組織の中で南方人や獣人の立場を確立するという方向に動いていく事になる。

 片方の勢力が下につく事を即時決定した結果、エルフ側と南方解放戦線による合併は極めて順調に進んでいく事になった。


 ――――――――


 最後に今回の一件に瞠目したのは周辺各国だった。

 国家を相手取って、このような事が出来る勢力が出現するという事はどこも想定外だったからだ。

 ブルグンド王国北のアルシュ皇国、南方の諸島連合、共に対峙し、一度ならず交戦しているブルグンド王国の力自体は認めていた。だからこそ、今回王都に駐留する事が認められるレベルの騎士団があっさりと壊滅した事に対して、激震が走った。

 もちろん、ブルグンド王国側は隠蔽を図ったが、被害が巨大なだけに隠し通す事は困難だった。

 アルシュ皇国も諸島連合もはっきり言ってしまえば、上層部は頭を抱えた。

 

 「全滅した理由が分からん」


 理由はこれに尽きる。

 いかなる手段でもって騎士団一つを全滅に追いやったのか。

 それは誰にでも扱える手段なのか、それともエルフなら使えるのか、あるいはエルフでも限られた者にしか扱えないのか。そして何より重大なのは。


 『まだそれは使えるのか』


 という事だ。

 使えるとしたら、それは回数限定なのか、季節や年数の縛りがあるのか、それとも……。

 もしも、反乱を起こそうとする者などがそれを手に入れたら大変な事になる。だが、逆にそれをこちらが手に入れる事が出来たなら……。 

   

 「調べろ。何としてでも!」


 もし、個人の魔法などによるものであれば取り込むか、それとも最悪暗殺するか……。せめて友好的な関係を結ぶ事を狙う必要がある。

 かくして、周辺各国も動き出す。

今年は果たしてどんな年になるのやら

一つだけ分かってるのは年号が変わるって事ぐらいですからねえ

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