観戦者
ブルグンド王国軍と南方解放戦線の戦いは平野部での堂々たる会戦、などにはなりようがない。双方には正面戦力としては圧倒的な差があるからだ。
そもそも、南方解放戦線は昔からそんな戦い方はしていない。密林に覆われた南方ではその森をどれだけ活かせる戦いをするかが古来より重視されてきた、つまりはそういう戦い方に慣れている、という事でもある。もっとも、王国軍もそれは重々理解している。
となれば、双方共にどこかで折り合いをつけねばならない。
……双方が戦いを望んでいる現在では特に。
「さて、そういう訳で現状こうなっている訳だ」
「……あの、我々どうしてこんな状況になっているんでしょうか?」
「そりゃあ君達が見学しなくてどうするんだい?」
ただいま自分達は戦場を見ている。
空の上から。
現在位置はカノンの背中。
フレースヴェルグ、というのがカノンの種族な訳だがこのフレースヴェルグ、元となる北欧神話では世界樹ユグドラシルの頂きにいる鷲とも言われるが、れっきとした巨人種でもある。そもそも世界樹の頂点にとまっている時点で並大抵の大きさではない。
正体を明かせば巨大な鷲としての姿を現す。
その大きさは背中にこうして自分含めてエルフの中でも今後の指導層候補となる若手十人以上を悠々と載せられる程、なのだが。
「どうした、妙に怯えてるみたいだが」
「……空を一度も飛んだ事もない者がいきなり空を飛ぶ鳥の背に連れてこられたら当然だと思うのですが」
……一応、蔦で固定もしてやってるのだが。
もちろん、固定しているのは端から下を見させる為だ。泣きそうな奴が結構いるな。なお、現在話をしているのは最初の村の長の息子、ティグレさんにやられたあいつだ。こうして話をする事が出来ているだけ自分達に慣れたとも言える。
「それでも見てもらわないと困る」
「……分かってるから我慢してるんです」
下方には双方の戦力が展開している。
ブルグンド王国軍がおよそ三千、南方解放戦線側がおよそ千。
エルフに相対した時に比べると王国軍の数が少なく感じるだろうが、これは展開可能な戦力、南方解放戦線が戦いを挑める戦力を考慮した結果だ。伐採され、開墾され、平野部が広がる大森林地帯までの道と異なり、今回は峡谷地帯。
展開出来る兵力には限りがあるし、下手に大兵力を展開してもこの状況では却って動きを阻害し、マイナスになる可能性が高い。
「もっとも、相手側の兵力が自分達を上回る事はないという判断あっての事だけどね」
「なるほど」
大森林地帯のエルフは総戦力が不明だった。
大森林地帯には高位の魔獣達も複数生息しているのが確実だった。
だからこそ、地形もあって王国軍はあれだけの軍勢を動員した訳だが……長らく戦ってきた南方解放戦線相手なら相手側の動員可能兵力の予想もつく。もっとも……。
「さて、南方解放戦線は伏兵を用意し、王国軍は予備兵力を充実させているみたいだね」
これはホームグラウンドの南方解放戦線と、この地域を詳細に知らない者も多い王国軍の差だろう。
……それらを入れると実際の数は更に差が開くか。
それでも峡谷という地形を考えると一度に大量の兵力で押し切るという戦法は取りづらい。となれば……。
「君だったらどういう作戦を取る?どちらかの作戦を考えてみて欲しい」
「そうですね……同じく地元の利を利用するという事で解放戦線の側を考えるなら……やっぱり地形利用して時間稼ぎしてる間に後方、補給部隊なり将軍なりを回り込んだ伏兵で叩く、って所でしょうか」
「そうだね。一方王国軍側はそれを予想しているからそちらを守る予備兵力を充実させている。正面は……数を活かして交代で波状攻撃、って所かな」
そう大きく異なる展開にはならないだろう。
……よほど想定外のナニカがない限り。
(ここで王国軍に勝ってもらっては困るんだよ)
援軍、味方勢力からの増援。それもまた戦場の醍醐味って奴じゃないかね?
なあ?
観てるだけとは誰も言ってない




