ポルトンの絶望9
今回は相手側視点です
「ほう?案外やるじゃねえか」
「いやいやいや、おたくおかしいでしょ!」
俺の名前はゴットフリート。
辺境伯の抱える私設騎士団の副団長。団長は名目として代々、辺境伯の次代が勤める事になってるんで実際は俺が騎士団内部ではトップだ。きちんと団長と関係を築いてりゃ、団長が次期当主様になった後、自分が騎士としては引退した後も安泰だから悪い立場じゃない。
団長との関係がイマイチだったとしても、副団長まで勤めたんだ。引退後もアホな贅沢しなけりゃ安泰だと言っていい。
(なのに、なんでこんな事になるかねえ!)
目の前のトラ獣人の剣を懸命に受け流す。
「あーもう。この剣だって結構な業物なんだよ!なのに、武器の質で明らかに負けてるってどうなのよ!!」
「そりゃ悪かったな」
膂力やスピードではあっちが上。
けど、剣技では俺が上。
冒険者とかでも普通にある事だけど、なまじ力と速度に優れてる奴はそれを活かした一撃を好む。細かい剣技とかを学ぶのは基本、そういう分野では勝てない奴で、つまる所獣人の大半とか、魔人族、ドワーフ族なんかに勝てない人族が選ぶ道なのよね。
これが更に膂力が劣るエルフ族とかになると完全に速度を活かした戦い方になってくらしいけどさ。
さて、そうなると問題があるのよね。
こっちの剣技と経験で、あっちの膂力と速度には対応出来る。
問題は武器と防具。
……こっちの武器も代々、ボルトン辺境伯に伝わる最高クラスの業物なんだけどねえ。個人と個人の性能が互角なら、後は道具の性能なんだが明らかにあっちの方が性能が上。こっちのが数打ちのナマクラなら、あっちは名工の業物ぐらいの差はありそうだわ、こりゃ。受け流す度に剣が軋みを上げてるよ、これ。
……うん、無理だな、こりゃ。
「あー君達」
ああ、待っててくれてるのが余計に情けない。
「はっ!」
「辺境伯様に降伏か、逃げるか考えるよう伝えてきてくれるかい?」
「はっ!……はっ?」
さすがに死を覚悟してとか、そういう事は言えないね。
「あ、あの、副団長それはどういう……」
「分かんないかな?勝てそうにない、って言ってんの。時間稼ぎが精一杯だよ、これ」
おうおう、若い連中の顔色変わったね。
ベテランは顔色変えないのはさすがというべきか。
「勝てませんか」
「無理だね。武器の性能が違いすぎる。私が勝てそうなのって剣の腕や駆け引きとか経験ぐらいだよ、この勝負」
おや、若い連中、これだけで不思議そうな顔してるね。
お生憎様。そんだけで勝てるなら誰も苦労しないんだよ。
剣の腕で勝ってても、力や速度で負けてたら受け流すのが精一杯。
経験や駆け引きで勝ってれば、隙をつくなり、相討ち狙うなりして一撃を与えるだけなら可能なんだろうけど……それやるには防具を突破しないとダメなのよね。さすがに顔だの喉だのは相手も警戒してるし、反射を考えると貫けそうにない。
かといって胴体の致命傷狙うにはこの武器じゃ相手の防具ぶち抜くのは無理なんだよね。
「間違いなく、叩きつけた瞬間に折れるよ、こっちの剣がね」
「………」
丁寧にそう説明してあげたら、顔色が白くなっちゃったね。
ベテランは一人が頷いて走ってったけど。さて。
「すまないね。待ってもらって」
「かまわねえよ。本当の話だろうしなあ」
……厄介だねえ。
こっちに対する自分の強みと、弱みをしっかり認識してるよ。敢えて隙を見せてみたんだけど、ゆったり構えて、こっちが好きに語るままにしてたし。
「せめてうちの伯爵様ご一家は助けてもらえないかねえ?」
「ああ、条件次第ではいいぜ」
おやあ?
こっちとしても恩義がある以上、ここに至ってはせめて助命をと思ったんだけどね?
「簡単さ。お前さんが負けて、まだ命があったら俺の部下になれ」
「……あらま」
これは……見込んでくれたと思っていいのかね?
「んでもって、伯爵様達が捕まった場合は、命が保障されてる限りは裏切る心配もないってかい?」
「さあな」
そんなら考えるまでもないねえ。
「いいでしょ、その提案飲みましょ」
「副団長っ!?」
「君達、悪い話じゃないでしょ。こっちが負けても、その条件飲めば辺境伯様達の命は助けてくれる、って言ってんだよ?」
「……………」
うん、黙るよね。
これで反対したら、「じゃあ俺達の誇りの為なら、辺境伯様達の命なんてどうでもいいのか?」って事になっちゃうからねえ。
さて、どういう思惑か……は大体想像つくけど。そんじゃ出来る所まで頑張りましょうかね。
何が絶望?と思うかもしれません
ただ、増援がくるとか、色々期待して、でも気づいてみれば飢えが間近に迫ってて、敵が攻めてくる
増援は来る気配もないって結構絶望だと思うんですけど、どうでしょうね?




