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ポルトンの絶望6

一日遅れですが

 城壁での戦闘はほとんど眺めているだけだった。

 一応、ゴーレムの操作もあるからある程度意識を繋げてはいたけれど……本命はそっちじゃない。だからこそ、自律行動可能な桜華をあちらに回しておいたんだ。


 「よし、ここまでは順調だな」


 ティグレさんがそう呟く。

 現在、自分こと常葉はこうして、ティグレさん達で構成される隠密行動隊と共に動いている。

 今回は陽動を担う桜華達、上空から周辺警戒をしてくれているカノン、そして自分達という三つの部隊で行動している。主力はあくまでこちらだ。

 裏道に詳しいスラム街の住人に道案内をしてもらい、上空から万が一に備えて兵士の移動経路をチェック。

 敢えて、街の大門を制圧した後、一部開けた段階で敵部隊が到着するようにして、膠着状態を構築。少し開けた門で睨み合いをしているという状況を作った。この際、二度に渡って攻め寄せるも門が完全に開いていない為に撃退され、睨み合いとなった、という風を装っている。

 お陰で、相手側は城に一部兵力を残して、城門近辺に戦力を集中させている。

 敵側とて無能じゃない。少数で城を狙ってくる可能性ぐらい考えているだろう。だが、城塞都市の大門は無視出来ない。そちらが陥落すればこちらは主力を送り込めるからだ。そして。


 「やってくれ」


 城の横手、門も何もない場所から我々は侵入を行う。

 通常ならば無理だろうが、植物の精霊王である自分ならそれを可能とする事が出来る。

 蔓橋かずらばし、というものを知っているだろうか?蔦類を用いて作られた原始的な吊り橋で、これで案外馬鹿にならない強度を持つ。

 もちろん、普通なら色々と必要なものがあるが自分ならそれを全て無視出来る。

 まず、両岸に二本ずつの木を生やし、そこから蔦を双方から伸ばし、絡め、橋を構築してゆく。本来の蔓橋は足場は木の板を用いるがそれも蔦を編んで組み上げてゆく。重装鎧で身を固めた人族の騎士にははっきり言うがお勧めしない。重量もあるが、明かりを使えない為に星明りに頼っている、この暗闇の中では足を踏み外す危険性も高いからだ。

 だが、今回こちら側はエルフ族のみ。

 いずれも夜目が利くし、元々彼らは軽装だ。ま、もし鎧があったとしても隠密行動必須な状況でガチャガチャ音がするようなもの使わないけど。

 

 「よし、常葉から頼む。俺が殿だ」


 先に行って、やる事があるからね。

 さっさと渡り、そこから更に城壁の上へと蔦を伸ばす。

 本来なら見張りがいるだろうし、巡回もいるはずだが現在は城壁上に見張りは皆無。多くの兵を大門に送ってしまった為に警備を門や領主の傍など一部に絞らざるをえなくなっている。

 こうした蔦で出来た縄を昇るなんて、前の世界じゃ訓練を積んだ兵士でも危険だろうが、そこは森で暮らすエルフ。蔦をロープ代わりに使うような事に慣れてる上、今回は強度も万全だと分かっているものだからスルスルと昇っていく。

 と、こちらも急がなくては。

 

 するすると袖から蔦を伸ばして、自身の体を引き上げる。

 

 「よし、全員地図は頭に入っているな」


 声を出さずに全員頷く。

 つくづく反則だが、領主の館内部はカノンの風で確認済だ。

 問題は現時点で領主がどこにいるかは分からないという事。

 風による調査では、人それぞれの区別はつけられない。どこに人がいる、ここの間取りはこう、というのは認識出来るし、声も聞く事が出来るが姿形は見えないし、間取り自体も閉め切られた場所は探れないと弱点は存在する。

 そして、それ故に領主の場所が今、分からないでいる。だから。


 「こっからは手分けして探す事になる。巡回の見回りなり、召使いなりがいたら……殺せ」

 「ティグレさん!?」


 ちょっ!一体何を!?


 「無論、見つかる可能性が高い場合だ。可能なら気づかれる事なくやり過ごせ。だが、見つかった、或いは見つかると思ったなら躊躇うな」


 それは……。

 反論しづらい。

 殺せ、と命じた理由も分かる。指揮官が曖昧あいまいな指示を出してはならない。

 もし、見つかった時、見つかりそうになった時、どう対応するのか、一瞬の判断の遅れが致命的な結果を招きかねない。「殺せ」と明確に指示されていたならば、どちらか分からない時はそれに従えばいいが、「状況によって判断しろ」では個人の裁量による部分が大きすぎる。女性の召使いとばったり遭遇してしまったとして、その時に殺すべきか、捕らえて押し込めておくべきか。迷った結果、悲鳴を上げられて全員が危険に晒されるかもしれない。それが分かるからこそ、何も言えない。

 

 「………」

 「理解してくれ。今回は俺達だけじゃない。エルフ達は個人で多数を圧倒出来るだけの力はないんだ」

 「そう、ですね」

 

 釈然としない気持ちと当然だと納得する気持ち双方が自分の中にある。

 けど……。


 (ティグレさん、前から考えていたにせよ躊躇いがなさすぎないか?)

 「ああ、常葉なら無力化も簡単だろ?むしろ情報引き出してくれると有難い」

 「あ、分かりました」


 何時しか釈然としない気持ちは消えていた。

 

昨日、どうも熱中症なりかけてたみたいです

皆さんも調子悪いと思ったら、早めの対処を!

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