95話 嫁ポイント
「そういえば、このことを寺都に話しておかねぇとな」
「なに?」
「俺たちがお前に頼みたいことなんだけどな、」
すべてを話し終える前に、寺都は優也の言葉に被せて話し出す。
「研究所の壊滅。いえ、世界中の『美少女』を人間に戻すこと。それに協力すればいい?」
彼女、そこまで知っていたのか。そういえば、研究所で色々と書類を読んだとか言っていた。そこの一枚に書かれていたのだろう。
「いや、寺都に手伝ってほしいことはそれじゃない。俺らが人間に戻した少女たちを、ここでかくまってほしいんだ」
「匿う?」
「ああ。『美少女』を人間に戻してすぐに生活できるわけじゃない。だから、ここでしばらくの間過ごさせて、それからのことを考える時間が欲しいんだ。寺都には、ここで彼女らの生活を支えてほしい。いわば、孤児院のような役割をしてほしいんだ」
「孤児院。私が……」
寺都は少しの間黙っていた。
「……わかった。でも私は岡谷発見までの協力。そのことは忘れないで」
「ああ。わかってる」
だから、ここで寺都が離れた後、院長の役割を引き受けてくれる人を、岡谷捜索と並行して探さなければならない。
「となると、名前を決めなきゃだめだね!」
「名前?」
そんなことを言い出したのは、ひなこ。なにやらやる気満々のご様子。
「うん! みんなをむかえ入れるときに、名前がなかったらわかりにくいでしょ? だから、みんなが住むここに名前を決めたいんだあ」
「なるほどな。けど、どんな名前にするよ?」
「うーんとね。『美少女』が暮らす場所だから……。『美少女』の館?」
「もう『美少女』じゃないでしょ」
「あ、そだね。それじゃあ……、少女の館?」
「んじゃ、少女館でいいんじゃないか」
「それいいね!」
アンのネーミングに、ひなこはいいねを押した。
「名前も決まったところで、その少女館を案内するわ」
「案内?」
カメリアのその発言に、優也とひなこは首を傾げた。その反応を見る限り、この場で彼女のセリフを理解できていなかったのは、どうやら二人だけのようだ。
「そ。さっき言ったでしょ、あたしたちが早くここに来た理由を話すって」
「ああ」
「それが、今から案内する場所。まあ、ついて来て」
第六研究室をあとにするカメリアたちに、優也とひなこは言われるまま、あとを追った。
そうして案内されたのが、研究所内で『美少女』が暮らしていたという居住区。その入り口前に優也たちは到着した。
「前にユウヤ言ってたでしょ、居住区を使うって。だから色々と準備しておいたのよ」
「準備?」
ふと、優也は居住区へのドアを見た。
「あれ? ここってこんなだったか?」
木のドア。それに周りの壁もガラス製ではなく、同じく木製に変わっていた。
「変えたのよ、あたしらで。さすがにあんな入り口じゃ、来た子が怖がっちゃうでしょ。ただでさえ、もともとは研究所の建物なんだから」
感謝の言葉を彼女に述べようと視線を動かした先で、またしても優也は違和感を覚えた。
「カメリア、そのドアは?」
居住区への入口を突き当たりとした廊下の側壁に一枚のドアを見つけた。前に来たときには、そんなドアはなかったと言い切れる。
「このドアは外と繋がってるのよ」
「外と?」
「そ」
そう言ってカメリアが戸を開く。その奥には距離を置いて、もう一枚のドア。
「見てきたら?」
彼女を疑っているわけではないが、確認のために、優也とひなこはそのドアへ歩み寄り、開いた。
「ここって——」
「外、だな」
戸を開けば、そこは裏路地に繋がっていた。優也たちが入ってきた場所からして、どの位置にあたるのかは分からないが、確かに外に出ることができる。
「ここも、カメリアたちが?」
みんなのもとへ戻って、真っ先に優也が問うは、それ。
「あたしら、というより、アンと萌香と薫ね」
「私がルニルで道を作って」
「私が砂で壁を作り」
「アタシがそれを火で焼き固めて舗装したってこと」
正直驚いた。異能力を建物のリフォームに利用するなんて。
ていうか、壁を剣で掘るアンは、どれだけ力技なんだよ。使い方間違えてるし。
「今後はここから出入りできるようになってるわ。いつもの入り口からじゃ、ここまで来るの遠いでしょ」
「ああ。まじで助かるよ」
続いて、新たに作られたドアから廊下へと戻るときに思った疑問を優也は投げかける。
「そこのドアは?」
それは出入り口のドアがある壁とは反対側に作られたドア。それも、前に来た時はなかった気がする。
「そこは私の研究部屋。わざわざ第六研究室へ行くより、出入り口に近いほうが助かるという私の意見を聞いてもらった」
なるほどな。こうして居住区と近いのも、なにかと安心であろう。
「居住区の中は? 何か変えたのか?」
「特に大きく変えた場所はないわ。おおよそはそのままよ」
一応見ておこうと、優也は居住区へのドアを開け中へ入る。
高そうな絨毯が敷かれた廊下。その両側には等間隔に設けられた部屋のドア。
部屋の中は、畳五畳ほどの広さにベッドが置かれ、まるで学生寮の一室のよう。
さらに廊下を少し進めば、テーブルがいつくも並べられた交流スペースがある。
前来た時と変わらない。暮らしやすそうな空間が広がっていた。
「掃除、したのか?」
「わかったの?」
「ああ」
根拠はなかったが、優也はその変化に気がついた。
「湊がしてくれたのよ」
「湊が?」
彼女の方を見やれば、なにやら恥ずかしそうに頬を染めて下をうつむいていた。
「この子、家事が得意なのよ。あたしたちも、ご飯作ってもらったり、色々と助けてもらってる」
「そ、そんな。私はできることをしてるだけですっ」
「てことで、嫁ポイント十ポイント追加だな」
「ちょっとアン! なによ嫁ポイントって」
「良い嫁ゲージのポイントだよ。それが溜まると理想の嫁になれるんだ」
「ばかにしてるでしょ!」
笑って誤魔化そうとするアン。その横で頬を膨らませている湊に、優也は話しかけた。
「いや、ほんと。いいお嫁さんになれると思うぜ」
「ゆ、優也さん……」
突然話しかけたからだろうか。まるで彼女は緊張しているように、優也を見た。
「……だ、だれのお嫁さんになれます、か?」
誰って……。
「それはわかんねぇけど。いずれ好きな人ができたらな。家事ができる女の人って、好印象だし」
「ゆ、優也さんにとって、好印象ですか?」
「ん? ああ。すげぇって思う」
「————」
なにやらあっちを向いてしまう湊。
その向こうでは、ひなこがカメリアに話しかけていた。声は優也まで届かなかったが、そのひなこの表情を見る限り、なにかからかっているのだろう。
「カメリアちゃん、優也くんはお料理ができる人がいいみたいだよ?」
「な、ななんでそんなことあたしに言うのよ」
「だって、カメリアちゃん、ご飯作るの上手でしょ? もっとアピールしなきゃ」
「——うううっさい! バカひよこ!」
「ひなこだよ!」
その恒例の漫才だけは、優也の耳まで届いたのであった。




