93話 明元ひなこの趣味
「そもそも、なんで岡谷は『美少女』を破滅させようとしてる?」
「それは、『世界美少女化計画』を阻止するため」
「知ってたのか、その計画のこと」
「岡谷太一から聞いた」
そこまで話しても大丈夫なようになっているのか。ここまでくると、むしろ何が話せないようにロックされているのやら。
「一つ聞きたいことが増えたんだが、『世界美少女化計画』の結果、研究所が得することってなんだと思う?」
「さあ。私には想像もできない」
「そのことで岡谷はなんか言ってなかったか?」
「そこについては全く。ただ、絶対に実現させてはいけない、とか」
これは優也の直感に過ぎないが、おそらく岡谷は何かを知っているのだろう。その上で、あの計画の阻止の為、シナプス計画を実行している。
「俺とひなこが女の子に襲われた日。あの時、お前が近くにいたのって……」
「結野こころの能力は、自身から『生力』を対象に注ぎ続ける必要がある。そして、『生力』には微弱ながら波を持ってる。そこで私は『生力』の波を読み取ることのできる機械を作った。それで、波の場所を探ってたら貴方たちに遭遇した、というわけ」
「そんじゃ、俺らを襲ったあの子は」
「結野こころに操られてる『美少女』。『迷い子』の一人。シナプス計画で岡谷太一に利用されてる子」
それが、あの日の謎の真相か。
つまり、あの時寺都は優也を見ていたのではなく、『生力』の波が集まる場所、あの女の子を見ていたということか。
「私は結野こころを探してる。彼女を見つけられれば、岡谷太一に辿り着けると思ってるから」
「確かに岡谷の足取りが全く分からない今、その『生力』の波を追って、結野こころを探し出す方が手っ取り早いだろうな。結野こころをこっちが確保しちまえば、岡谷だって動かざるを得なくなるはずだ」
そのためにも、結野こころについての情報が必要だ。
「結野こころは岡谷がレンタルしてるのか?」
「いいえ。そうじゃない」
「なら『原石』を使わせてるってことか」
「そうでもないと思う。『原石』には『美少女』を暴走させる副作用がある。結野こころが暴走すれば、その時点でシナプス計画は失敗に終わる。そんなリスクを負うとは考えづらい」
「ならどうやって結野こころに異能力を使わせてるんだ?」
「彼なら、それを実現する機械を作り出せる」
そんなことができるなら、結野こころを使わずとも『結晶』を制御できる機械を開発できたのではないかと考えてしまうのは、机上の空論なのか。
「結野こころを探すのに、なにか情報はないのか?」
「役に立つかは分からないけど、顔写真なら私が持ってる」
そう言って、寺都は一枚の写真を取り出し、それを優也に手渡した。
そこに写る少女は、顔の大半が写り込んでおらず、正直本人を特定するには難しかった。
しかし、優也はふと思い出す。
「なあ、ひなこ、この子って」
「?」
ひなこと共に、他の少女たちも、その写真を覗き込んだ。
「あっ、優也くん、この子!」
ひなこのこの反応。やはり優也の記憶に間違いはなかったようだ。
「ユウヤ、ひなこ、知ってるの?」
「前にな、ひなこが大切に持ってる写真を見せてもらって。そこに写ってる子に似てたんだ」
「この写真だよ」
敵のアジトに侵入し、命懸けで奪還に成功したひなこの宝写真と、寺都から受け取った写真を並べ、そこに写る二人の少女を見比べる。
髪色、髪質、目もと口もと、身長から体型。比較できる範囲で、全ての項目において、その二人の少女は特徴が同じであった。
「この子が、結野こころ……」
そう決めつけるには、証拠が十分なまでに揃っていた。
「ひなこの趣味が役に立ったということね」
ボソッと、ひなこ本人に聞こえないようにカメリアが呟いた。
「これ、ひなこの趣味なのか?」
「そう。幼い女の子の写真を集めてたのは知ってた。写真撮ってたの、あたしだから」
「カメリアだったのかよ」
「立場上自由に外に出ることができたから、あたしに頼んで来たんだと思うわ。あたしも断ろうとしたのよ。けど、あんな顔で頼まれたら断りづらくて」
なんだかその気持ち分からないでもない。彼女からの頼みというのは、不思議と断りにくい気持ちになる。
「集めてたってことは、何枚かあるのか?」
「今何枚持ってるかは知らないけど。あたしが記憶にある限りでも、数えるのが面倒になるほどはあるわ」
「そんなに……」
その写真を集めて何をするのかは、あえて知らないでおこう。
「なあ、カメリア」
「なにかしら」
「ひなこって、変態なのか?」
「さあ。でもま、ロリコンであることは確実でしょうね。研究所に幼い女の子が来るたんびに、あの子、真っ先に話しかけてたから」
もはや変態やロリコンを超越した域である。
「そんじゃひなこが会ったことないやつなんかいないんじゃないのか」
「さすがにいると思うわよ。あたしが知ってる限りでは一人だけだけど」
「誰なんだ?」
「紫雲れんげよ」
「会ったことあるのか? というか、紫雲れんげってそんな幼いのか?」
「あたしもないわ。けど書類で何歳ってなってるのを見たから」
「何歳なんだ?」
「十二歳らしいわよ」
というと中学生か。
「なんでひなこは紫雲れんげとは会えなかったんだ?」
「紫雲れんげは、研究所に来てすぐにレンタルされたから」
「すぐ?」
「レンタルが開始されたと同時に、契約者が見つかったわ。能力が特殊っていうのもあるんでしょうね」
「『石拾い』だったか」
「そ」
「借りてるのはどっかの芸術家なんだったよな」
「一生コースでね。噂では、だけど」
それにしても、ひなこが幼女好きである理由。いつか知る時が来るのだろうか……なんて。
そんなことを考えつつ、優也はその場を仕切る。
「岡谷捜索についてだが、まず結野こころの保護を最優先にしようと考えてる」
「あたしはそれでいいと思うわ」
「わたしもいいと思うよ」
異論を唱える人はいない。皆が首を縦に振っていた。
「それじゃ、役割分担だが、俺とひなこで結野こころの捜索にあたる。寺都と遥には、別視点から岡谷を探してほしい」
「別視点というのは?」
「結野こころ以外の線で、だ。さすがに全員で結野こころだけを探すのは効率が悪いだろ。具体的にと聞かれると何も思いつかないけど」
「確かにそれも一理ある。わかった。私と門番さんで、引き続き岡谷太一を探してみる」
「お願いする」
「それから、カメリアたち第一部隊だけど」
「今まで通り研究所の偵察をお願いしたい、でしょ?」
意地悪そうに笑みを浮かべるカメリア。しかし彼女の言った通りのことを優也は頼もうとしていた。
「悪い」
「別に謝らなくてもいいわよ。確かに岡谷の捜索で、本来の危機をないがしろにするわけにはいかないもの」
「そだぜ。私らにしかできないことだしな」
「研究所のことは私たち第一部隊に任せてください」
残り二人の萌香と薫も、それに賛成した様子。
「その代わりユウヤ、そっちは頼んだわよ」
「ああ、任せてくれ。必ず岡谷を見つけ出してやる」
「ユウヤのこと信じるから」
「あれ? カメリアちゃん。優也くんこと『信じる』じゃなくて『信じてる』でしょ?」
「なあ⁉︎ ううるさいひよこ‼︎」
「ひよこじゃなくてひなこだよ!」
始まった、二人の姉妹ゲンカ。
カメリアからだけではない。第一部隊のみんなから、信用されて、任されている。失敗することはできない。必ず岡谷を探し出し、計画を阻止しなければ。
優也の中に、そんな使命感が湧いて来た。




