92話 岡谷太一とある計画
「そんで、寺都さんよ。これで全員揃ったぜ。話、聞かせてくれんだろ?」
「ええ。約束は約束。でも貴方たちも、条件は守ってもらう。岡谷太一を見つけ出して」
「ああ」
そのためにも、彼女から岡谷のことを聞き出す必要がある。
「貴方たちが何を知りたいのか、私には分からない。だから質問してくれると助かる。それに答えるから」
「そうか」
優也が周りを見やれば、それに異論を唱える者はいなかった。ついで、その質問権は満場一致で優也に委ねられた。
「とりあえずは、お前の正体からだ。お前は何者なんだ?」
「『美少女』かと思った?」
「正直な」
「でも私は見ての通りのただの人間。『美少女』のような異能力もなければ、貴方のように『石裂き』なんて力もない。どこにでもいる普通の女子高生」
「そんなお前が、そんなもんまで知ってるのは、やっぱり岡谷からか?」
「貴方達が調べた通り、私と岡谷太一は昔からの知り合い。岡谷太一が研究所なんかで働き始めるよりも前からの。色々と話は聞いてた」
なるほど、と納得しかけたところで、カメリアが口を挟んだ。
「でも、『美少女レンタル』のことは無関係な第三者へ口外することを禁止されてる。なのに、どうやって岡谷はあんたに話したの?」
「確かに制約第三番で禁じられてる。けど、岡谷太一は研究所第六研究室室長。彼らに制約を破ったことによる存在抹消は行われない」
「つまり、なんでもアンタには話せた、ということ?」
「それも違う。彼らには話せる内容の一部にロックが掛けられてる」
「ロック?」
「その機密事項については話せないようにされてる。制約のように話したら消されるわけじゃなく、そもそも話すことができない」
研究所の所員である岡谷と関係のあった寺都も、なんでもは知り得ないということ。
研究所が岡谷に掛けたロックというのが、どこからどこまでかは分からないが、彼女が聞き得た範囲で情報を聞き出すとしよう。
「寺都は、たしか孤児院出身なんだよな?」
「そう。そこで私は岡谷太一に育てられた。私にとって彼は親同然の存在」
「これは答えたくなかったら答えなくてもいいんだが、寺都が孤児院に入らなきゃいけなかった理由ってのはなんでなんだ?」
「私の父は多額の借金を背負っていた。毎晩のように借金取りが家に来て——、私たちは、そんな生活を送ってた。その生活から私を遠ざけるために、父と母は、私を孤児院に入れたんだと思う」
「そうだったのか。悪いな、辛い記憶を思い出させちまって」
「別に。私は孤児院での暮らしに満足してた。あそこで過ごした時間が、何よりの幸せだったから」
「寺都……」
遠く儚げな瞳。その日の思い出を思い返しているのだろうか。
「寺都がいた孤児院が閉鎖されてからは、岡谷が開いた岡谷サイエンス研究室という団体に所属したっていうので合ってるか?」
「合ってる」
「そこまでに、岡谷は研究所と繋がりはなかったんだよな?」
「なかった。一番彼のそばにいた私が言うのだから間違いない」
「岡谷が研究所と関係を持ちはじめたのはいつ頃なんだ?」
「サイエンス研究室を閉める少し前、研究所が彼を所員にした。その後、岡谷太一は研究所へ、私は彼の計らいで駿華学園の中等部に入学できた」
「岡谷が研究所に指名されたのって、研究能力を買われたからなのか?」
「岡谷太一は昔から研究が好きだった。孤児院のみんなが眠った後、毎晩隠れて、好きな実験を行ってたのを私は知ってる。そんな時、自然と美少女レンタルのことを知ったんだと思う。それが岡谷太一が研究所に入った理由」
「そんじゃ、凄腕って理由なんじゃなく、ただの口止め……?」
「研究能力が凄いのは確か。けど、その程度で研究所は一般人を招き入れたりしない」
『美少女レンタル』なんてビジネスをしているだけに、内部の人間は信頼できる方がいいということだろう。
「それからも岡谷との関係は続き、彼から研究所のことを聞いてた、と」
「会える時間はずいぶんと減ったけど。私をここまで育ててくれた恩もあるし、私にとって岡谷太一は家族だから」
白雪が調べてくれた情報と、寺都が証言する内容に相違はない。彼女の言っていることは事実として聞き入れていいだろう。
「これから聞くことが、俺らが一番知りたかったこと。なぜ、お前は岡谷を探してる?」
「それは…………岡谷太一が心配なだけ」
「本当にそれだけか? 嘘をつくのはお前の自由かもしれないが、これから協力しようっていう俺らに嘘つかれると、俺らだってお前のことを信用できなくなる。それでもいいのか?」
「私が嘘をついているという根拠は?」
「確かにお前が岡谷を探す理由は、昔からの知り合いだからというだけで十分かもしれない」
彼女が彼のことをどれほど想っているかなど、先ほどの寺都の岡谷に対する反応を見ていれば痛いほどに分かった。
「でも、それだと説明がつかないことが二つある。一つ、岡谷が研究所から逃げた理由だ。あいつは別に研究所に囚われてるんじゃないんだ。お前と連絡を取り合ってた今までのように、自由に外出すりゃいい。岡谷が黙って研究所から逃げたのは、言えなかった理由があるからだ。お前が岡谷を探すのは、それをお前が知ってるから」
「二つ目は?」
「俺とひなこが謎の女の子に襲われた後の話だ。結界から出た俺は、真っ先にお前と目が合った。まるで俺らがそこにいたことを、初めから分かってたように。単に岡谷が心配で探してたってんなら、あんな状況、不自然だ。あそこで俺らが戦ってたことを、お前は知ってたんじゃないか?」
そんな二つの根拠以前の話もある。
「だいたい、なぜお前が調べてるのは岡谷の研究内容ばかりなんだ?」
「なぜそれを」
「前にお前に会った時、散らかってた書類を見た。そしたら、岡谷が担当してた研究のことばかりなことに気がついた」
「ただ単に、そこから岡谷太一の足取りを辿れると思ってるから」
「じゃあ、研究所ばかりを調べるのはなんでだ? 足取りなら他のところもあるだろ。なにも研究所に限定して探さなくてもいいはずだ」
「…………」
しばらく寺都は黙っていたが、やがてその重い口を開いた。
「……シナプス計画」
「シナプス計画?」
「昔に岡谷太一が一度だけ私に話したことがある」
その計画の概要を、寺都は語り出す。
「結局のところ、『美少女』というシステムを構築しているのは『結晶』。そしてその『結晶』の制御は研究所が行なっている。つまりは、研究所が『結晶』を介し『美少女』を操ってる。でも言いかえれば、『結晶』を制御できれば、誰だって自由に『美少女』を操ることができるということ。岡谷太一はその権限を手にし、『美少女』を破滅に導こうとしてる」
「たとえ第六研究室の室長でも、そんなこと可能なのか?」
「不可能。でも、『美少女』の異能力を利用すれば」
「『美少女』を操れる異能力を持った『美少女』がいるってことか?」
「正確には違う。自分の意識と他人の意識をリンクさせることのできる異能力『通心』を持った『美少女』が一人いる。それを岡谷太一が応用して完成させたのが『結晶』を介し『美少女』を操ることのできる異能力」
「誰なんだ、そいつは?」
「結野こころという『美少女』。その子の能力を利用して岡谷太一は何人もの幼い『美少女』たち、『迷い子』を操ってる」
『通心』という異能力を保有する結野こころを使い、『迷い子』を操り、『美少女』を破滅に導く計画。
それが、寺都の口から明かされた岡谷太一が企てるシナプス計画。
「でもどうやって、『美少女』を破滅させるんだ?」
「それは知らない。岡谷太一もそこまでは話してくれなかったから」
例えば、『美少女』を操って、その少女を狂わせるというのならば、もっと他の方法があるだろう。
その計画の意図が、いまいち理解できなかった。




