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美少女はじめました  作者: 針山田
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86話 二人の共通点


「この店でいいのか……?」


 スマホの画面を見て、メッセージに書かれた店名と同一であることを確認する。

 メッセージを送ってきた相手は、姫、という人物。説明するまでもなく、氷銀ひがね白雪しらゆきだ。

 ちなみに、登録名が氷銀白雪ではなく姫となっているのは、本人の希望である。

 呼び出された内容は書かれていなかったが、おそらく彼女に調査を頼んでいた寺都芽久実じとめぐみのことだろう。

 そしてなぜか優也一人で来ることを指示された。

 ひなこはといえば、自宅で待機をしている。

 てっきり自分も付いて行く言い出すと思っていたのだが、これまたどういうわけか快く受け入れて、見送りまでしてくれた。もっと言えば、応援までされた。あれは一体何に対するものであったのか。


「あ、優也、こっち」

「おう、姫」


 優也の入店に気がついた白雪が、テーブル席から手を振っている。そこへ移動し、彼女と向かい合う形で着席した。


「待たせたな」

「ううん。急に呼び出したんはウチやから」


 彼女からのメッセージがきたのは、優也が学校から帰宅して間もなくのことだった。そのまま家を出た優也は制服のままで、おそらく学校から直接来たのであろう、白雪も制服を着用していた。


「ちゃんと関西弁、使ってんだな」

「優也が二人の時は関西弁使っていいうたから」

「ああ、その方がいいと思う」

「————!」


 なにやら白雪は下を向いたまま小さく口を動かしている。

 何をしているのか疑問に思ったが、優也から特に問いかけるようなことはしなかった。

 それから少しして、落ち着いたのか、白雪は持っていたスクールバッグからいくつかの紙を取り出し、それらをテーブルの上に置いた。


「出来る範囲で色々と調べてみたんやけどな。優也に、一つ確認しときたいことがあんねん」

「確認したいこと? なんだ?」

「優也たちが研究所第六研究室で見た寺都芽久実って、この人で間違いない?」


 重なった紙の中から一枚取り出して、それを優也の前に置いた。

 一人の少女が写された画像のコピー。背景が青色であるあたり、学生証か何かの証明写真の類であろう。

 そこに写った少女は、半開きのまま閉じたまぶたに、色むらのできた金髪を持ち、薄汚れた白衣をまとい、口には棒付きのキャンディがくわえられている。

 何から何まで優也とひなこが遭遇した寺都芽久実と一致していた。

 てか、そんな写真を撮る時くらいキャンディは舐めるなよ。


「ああ。間違いない。俺らが見たのはこいつだ」

「この写真の人物、ウチの高等部におる寺都芽久実ちゅう人やねん」

「それじゃあ——」

「同一人物で間違いない」

「他には? こいつは研究所の所員なのか?」

「ウチもその線疑って調べてみたけどな。普通の学生と変わりない。特におかしなことはなかったわ」

「そうか……」


 しかし、正直たったこれだけの情報すらも、優也らにとっては大きな進歩だ。なにせ、名前以外何も分からない少女から、彼女が通う学校を調べ出せたのだから。


「けどな。この寺都ゆう人の過去を調べてみたら興味深いことが出てきたんよ」

「なんだ?」

「彼女、幼い頃に両親から捨てられたみたいでな。孤児院で暮らしてたみたいやねん」


 白雪から渡される紙には、孤児院のことが書かれていた。その孤児の中に寺都芽久実の名も確かにある。


「捨てられたって?」

「詳しいことはわからへん。けど、虐待とかそういうのではなかったみたい」


 白雪の言う、そういうの、には『美少女』になる条件の、過去のトラウマを含めているのだろう。

 つまりは寺都芽久実は『美少女』ではない、と。


「それで。寺都が暮らしてた孤児院ってのは今もあるのか?」

「残念やけど、もう昔に取り壊されてもうたみたい」


 手元の紙を確認しても、数年前に建物が解体されたことが記されていた。理由は、近隣の土地開発のためとなっている。

 これで、孤児院の関係者に話を聞くって手段はなくなった。


「その後、孤児院の院長やってた人が、学校とか子供向けの科学研究室を開いたみたいやねん」

「科学研究室?」

「授業で実験するやろ? あんなんを学校とか児童館で披露して、来た人たちにも体験させたりして科学の楽しさを教える団体みたい」


 白雪から渡される一枚の紙。そこには、その団体の詳細と、彼女が説明したようなことが書かれている。


「寺都との関係は?」

「大あり。その一員の中に、寺都芽久実もおってん」

「おった、ってことは……」

「これも、今は解体されてなくなってる」


 またしてもか。


「次から次へと。なくなってばっかだな」

「せやけど、こっから本番。この団体、解体されたのには理由があってん」

「理由?」

「どうやら、その研究室の室長、つまりは寺都のおった孤児院の院長やな、この人の研究能力が買われて、研究所に引き抜かれたみたいやねん」

「研究所? ——研究所ってあの⁉︎」

「そう」

「待て待て。孤児院の院長だった人が研究所に? それだけすごい人だったのか?」

「その時から、孤児院の子どもの面倒みるかたわら、研究してたみたいやで」

「その研究って……」

「優也が考えてるようなことやないから安心して。あくまでも個人の趣味でやってたみたい」


 それはよかった。研究所の研究員であるという事実だけで、まともな研究をしているようには思えなくなってしまう。


「それで、その引き抜かれた人は、今も研究所に?」

「うん」

「名前はなんていうんだ?」

「その人物こそ、岡谷おかや太一たいち。研究所第六研究室の室長や」

「そういうことか——!」


 すべてが繋がったように感じられた。

 要するに、寺都と岡谷は昔からの知り合いだったのだ。


「てか、優也気づかんかったん?」

「なにがだ?」

「さっき渡した書類の中に、岡谷の名前、あってんで?」

「まじか」


 再び見てみれば、孤児院の院長の名は岡谷太一であるし、その後に開いた科学研究室の室長としても名前が書かれており、その研究室の名は『岡谷サイエンス研究室』となっていた。


「それじゃあ、寺都も研究所の所員だったってことか?」

「いや、そこはちゃうみたい。岡谷サイエンス研究室が潰れた時期と寺都が学園ウチの中等部に入学した時期がおんなじやねん」

「つまり、寺都は研究所と関係ないということか?」

「岡谷がいる限り無関係とは言えへんけど。少なくとも何かしら岡谷から情報はあったんやと思う」

「でないと、第六研究室どころか、研究所の本部すらも見つけられないはずだもんな」

「そゆこと」


 一体寺都はなぜ岡谷を探すのか。それがわかれば、全ての謎が解決するというのに。


「ほかには? なにかわかったか?」

「ウチが調べれたんはそこまで。岡谷の足取りもわからんかったし」

「そんなとこまで調べてくれてたのか。助かったぜ」

「でも結局重要なことは不明なままや。役立たずやった?」

「何言ってんだよ。お前なら、『あの爆発女より役に立ったでしょ?』くらい言うだろ」

「……ふっ! 全然似てへん」

「似てただろ」

「似てへんよ。今のウチやったら、あの爆発女より役立ったやろ? ってうもん」

「方言の話かよ」

「でもウチにとっては重要なこと」

「そうか」


 それは、関西弁の白雪も、素の彼女であるからだろうか。


「まあ、色々と調べてくれたお礼になるかわかんねえけど、なんか飯おごるよ。好きなん頼んでいいぜ?」

「お金はウチも払う」

「そう言わずに」

「その代わり、一つお願いがあんねん……」

「?」


 白雪の視線の先、そこには一人の女性と子どもがテーブル席に座っていた。


「お母さん、ぼく、ちゃんと注文できた!」

「偉いわね。よしよし」

「ふふーん」


 会話の内容からして、男の子が一人で注文をできたことに対し、母親が褒めているのだろう。


「…………もしかして、頭なでてほしいのか?」

「………………」


 実際に口から言われて、白雪の顔が真っ赤に染まる。それでも、小さく白雪は首を縦に振った。

 普段の彼女からは想像もできない頼み。


(そうか)


 もしかしたら、これが自分に素直な白雪の姿なのかもしれない。


「ありがとな、姫」

「————」


 頭に手を置いて、それをゆっくりと動かす。

 細く柔らかな髪質。撫で心地が良い、といえば変態チックに聞こえてしまうかもしれないが、その言葉が正直な感想だった。


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