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美少女はじめました  作者: 針山田
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83話 素の彼女


「おい待て‼︎」


 細い路地を駆ける優也。

 彼が追いかける先には、白衣を身にまとった少女、寺都じと芽久実めぐみがいる。


「くっ!」


 寺都によって行く手を妨害されるダンボールの山を飛び越えて、追跡を続行する。

 優也は全力疾走だ。それでいて、未だ寺都には追いつけていない。


「足速ぇだろ、あいつ……」


 すでに、優也の体力はピンチを迎えはじめている。

 息を切らせながら追いかけっこはしばらく続いた。そんな時、優也にチャンスが訪れる。

 走る寺都の先が、行き止まりになったのだ。

 おかげで、彼女との距離を一気に詰めることができた。


「堪忍しろ、寺都」

「…………」


 寺都が優也の方を振り返る。

 言うことを聞いてくれたのかと、思った途端、


「なっ⁉︎」


 寺都のすぐ左側、身長ほどの高さの壁を乗り越えていったのだ。


「くそっ!」


 すかさず優也も彼女のあとを追って、壁を乗り越える。

 せっかく追いつめた距離を、これ以上離すわけにはいかない。

 壁を越えた少し先には明かりが差し込んでいる。どうやら、そこで表通りに出るらしい。


「逃すか!」


 ここで捕まえなければならない。

 残っていた全ての力を足に注ぎ込んで、優也は地を蹴った。

 そして手を伸ばす。


(届け——ッ‼︎)


 明かりの中へと消えつつある寺都の白衣に、優也の指が触れかけて————


「きゃあっ‼︎」

「ぐあっ‼︎」


 路地裏を飛び出た瞬間、優也は横合いから何かと衝突した。

 その反動で、優也は地に尻を落とす。


「いてて……」


 じゃない。苦痛に顔を歪ませている暇はない。


「あいつはッ——⁉︎」


 勢いよく立ち上がり、あたりを見回す。


「…………」


 が、すでに寺都の姿は見当たらなかった。


「逃しちまったか……」


 色々と聞き出せるチャンスだったのだが。

 いや、仕方ない。急に路地から飛び出してしまった優也にも非がある。というか、罪の大半は当方にある。


「悪かった。大丈夫か?」


 優也と同じように衝突の反動で地に尻をついてしまっていた相手方に手を差し伸べる。

 どうやら、女の子であったらしい。怪我などをしていなければいいのだが。

 制服を身につけているあたり、どこかの学生なのだろう。

 そんなことを考えながら、優也は、相手の少女の顔を見る。


「……んあ? もしかして姫?」


 そこにいたのは、まさかの氷銀ひがね白雪しらゆきだったのだ。

 ふと、優也は視線を少し下に移動させる。

 チェック柄のスカートの中、真っ白い布切れのすぐ近く、内腿の位置に、雪色をした石が


 ——バッ‼︎ と。


 白雪の手が、優也の視線の先を隠した。


「……変態」

「いや、あの……、悪い……」


 ただ一つ弁明させてほしい。

 本当に無意識だったんだ、と。


「姫の『結晶』って太も」

「それ以上思い出したら氷漬けにするから」

「すいません。今すぐ忘れます」


 彼女の目を見れば分かる。本気だ。


「ほら、立てるか?」

「……う、うん」


 優也が手を差し伸べれば、さっきまでの白雪の覇気は消え失せる。そしてどういうわけか、少し頬を染めて、その手を握り返した。

 白雪は立ち上がり、スカートについてしまった汚れを手で払いのけている。


「その制服……、駿華しゅんか学園のだよな?」

「ええ」


 駿華学園は、小中高を一貫した学校だ。そして、白雪が着用している制服は、その中等部の生徒らが着ている物だった。

 なんて、こんなことを優也が知っているのは、駿華学園が市内でも有数の名門校だからだ。基本的に小学校、中学校、高校とエスカレーター式に進学して行くが、学年が上がるごとに試験が行われ、合格ラインに達さなかった生徒には補習の嵐が待ち受けているのだとか。

 また、外部からの受験も受け入れてはいるが、その合格率はごくわずかだと聞く。


「学校、通ってたのか?」

「最近通い始めた」

「やっぱり通ってみたいものなのか? 学校って」

「別に。ただ高校に通おうと思ったら学力足りてても駄目かなと思って」

「つっても、あそこは進学って基本的にエスカレーターだろ。そんなに勉強に不安なのか?」

「『美少女』に知識を問うのが間違えてる」

「どういうことだ?」

「知ってると思うけど、『美少女レンタル』の利用者の目的は多種多様。生涯学校に通えない子も少なくない。だから『美少女』は、『結晶』を埋め込まれる前に高校卒業までの知識をインプットされるようになってる」

「そうだったのか」

「そ。今の私は、貴方より賢いってこと」

「っ……」


 絶対最後の一言は余計だったろ。

 嫌味か、嫌味だろ絶対。お前の通ってる高校ぐらいなら楽勝で入学できるんだよ。むしろ、今からでもな、的な。

 というか、高校卒業程度の知識をあらかじめ『美少女』が有しているというのならば、優也が契約している明元あかりもとひなこ、彼女にも言えるということで…………。

 いや、それ以上は考えないでおこう。知識をインプットされているとしても、それを活用できるかどうかは個人の問題だ。

 ……これでフォローできただろうか。


「大体、私が心配してるのはそこじゃない。それに、あの学園の高等部に進学するつもりはない」

「そんじゃ、高校は別のところに通うのか?」

「そのつもり」

「ちなみに、どの高校なんだ?」

「優也には関係ない」


 なんで、と問おうとしたが、聞き返すなという彼女のオーラを感じ取った優也は口を閉じた。

 ところで、天才が通うようなあんな学校に、彼女が通っているとは……。あえて、どうやって入学したのかは問わないでおこう。本当に実力で入学試験に合格したのかもしれないし。


「……それにしても、姫、中学生だったのか」


 いつも冷静沈着というか、クールな態度をしているから、自分より幼いという印象はなかった。よくよく彼女のことを見てみれば、確かに幼さの残る容姿をしているか。


「な、なに、人のことじろじろ見て」

「あ、いや。なんでも」

「なんでもって……」


 どうやら彼女の機嫌が傾きかけているようだ。ここは何かフォローを入れておかないと……。


「その制服、似合ってんなと思ってな」

「ーー⁉︎ そ、そう……?」

「ああ。かわいいと思うぞ」

「かわっ——⁉︎かわいないわっ!」

「……? かわいないわ?」


 その独特ななまり方に、優也は聞き覚えがあった。最近は聞かなくなった、けど一度耳にしたら離れない方言。


「姫、もしかして関西人か?」

「——ちゃ、ちゃう!」


 もはやそれは墓穴でしかなかった。


「標準語で話してるから気付かなかったぜ」

「…………普段はそうしてるから。でも、気が抜けた時は、ああいう風に関西弁が出てくる」

「別に関西弁、使えばいいじゃねぇか」

「嫌」

「なんでだよ。気ぃ使って話すのなんてしんどいだろ」

「別に。もう慣れた」


 少しの沈黙。再び口を開くは、白雪。


「……それに周りには絶対に知られたくないから。とくに、あの爆発女には」

「どうして?」

「弱みを握られたくない。それに、お調子者と思われるから」

「そんなことはねえだろ。確かに関西人ってそういうイメージはあるかもしれねぇが、全員が全員そうじゃねえってことくらい、カメリアだって分かってるだろ」


 優也が知るもう一人の関西人は完全にお調子者であったが。性格なんて十人十色に決まってる。


「えらくあの女のことを庇うのね」

「そんなことはねぇよ。俺がそう思ってるから言っただけだ。だいたい、俺は姫のその方言、似合ってると思うぜ」

「………………ほんまに?」

「ああ。だから、これからは関西弁で喋れよ」

「…………」


 少し難しそうな表情を浮かべる白雪。今まで積み上げてきたプライドというものがあるのだろう。


「だったらこうしないか?」

「どうするの?」

「俺と二人っきりん時は、姫が素の関西弁で喋るってのは? どうせ俺にはバレちまったんだしよ。これだったら姫もありのままで話せるだろ。俺だって、姫に気ぃ使いながら話してほしくないしよ」

「……わかった」

「んじゃこのことは、俺と姫の秘密ってことで」

「うん……」


 優也と白雪は、約束の指切りを交えた。

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