78話 今この時を守るために
「ただいまー」
家へ戻ってきた優也は、心身ともに疲れ切っていた。とはいっても、今まで結界にいたので身体の方は見た目平常通りである。
「おかえり、優也くん」
「おう、ひなこ。ただいま」
こうして家に帰ってきて、出迎えてくれる人がいるというのは、どこか心が安らぐものである。あんなことがあった後でも、疲れなんて忘れてしまいそうだ。
「優也くん、おそかったね」
「? そうか?」
突然ひなこがそんなこと言い出した。
ふと気になって玄関に掛けてあった時計を見やれば、家を出てから経過した時間は一時間にも満たない。
なにせ結界の中にいたのだから。現実世界で費やした時間は、あの河原までの往復時間程度だ。
その一時間を彼女は長いと感じたのだろうか。……いや、そういう風には感じられなかった。まるで何時間も過ごしていたかのような。例えるなら、優也が何時間も結界の中でカメリアに特訓されていた間のように。
「もしかしてひなこ……」
「あれ? ごめんね、わたしの気のせいだったよ」
「俺のあとつけてたのか?」
「…………」
笑ってリビングへと向かいかけていたひなこの足取りが止まる。
どうやら図星だったらしい。
「ひなこ……」
「ごめんね、優也くん。ほんとはわたしもいやだったんだよ。なんだか優也くんを疑ってるみたいで。でも、優也くんが何かしようとしてるのはなんとなくわかっちゃって。それでわたし、優也くんをあとをついて行ったの」
「それで、結界の中に入ったわけか」
静かにひなこは首を縦に振る。つまりは、優也の特訓も全て見ていたというわけか。
「でもね、優也くん」
「ん?」
「わたしに隠しごとはしないでほしいな」
「…………」
そうだ。ひなこが悪いのではない。
そもそも、優也がひなこに黙ってカメリアに頼んだことがいけなかったのだ。同じことをカメリアに頼んだひなこは、自分へ話してくれたというのに。
「それは……、悪かった。でも、絶対反対されると思ってたから……」
カメリアにも言ったが、なにせ、本人には一度断られているのだから。
「反対なんてしないよ」
「え?」
「そこまで優也くんが本気だったなら、断らないよ」
「そう、なのか?」
「うん。むしろ、うれしいな。優也くんが、わたしのこと、そこまでおもっててくれてたなんて」
ひなこの顔は笑顔であった。
優也がカメリアに特訓を依頼した時、彼女が言っていた、ひなこに隠すことは変な心配だ、と。
その意味が、今ようやく理解できた。
「二人で強くなろうね、優也くん」
「ああ。これからもよろしくな、ひなこ」
二人で手を取り合う。そこには例え斧でも断ち切ることのできない、固い絆があった。
「ひなこ、今晩は焼肉にするか」
「いいの⁉︎」
「おう」
ひなこがステラの抽選会で引き当てた肉。前に作ると約束していた。
「やったあ! じゃあみんな呼ぼっ!」
「みんな?」
「カメリアちゃんに、アンちゃんに、萌香ちゃんに、湊ちゃん、薫さんと、白雪ちゃん、あと門番さんも!」
「門番は厳しいかな」
「そっか……」
なにせ、彼女は今どこにいるのかも分からない。
「あと、姫は来んのか?」
「いちおう呼んでみようよ!」
まあ試しに、呼ぶだけならいいか。カメリアならば連絡先を知ってるかもしれないし。果たして彼女が呼んでくれるのかは不明であるが。
「でもいいのか? こう言っちゃあれだが、人数呼ぶと自分の取り分が減るぞ?」
「みんなで食べたほうがおいしいもん」
「それもそうだな。さて、みんな呼ぶか」
「うん!」
思い返せば二人だけだった。たったの二人で成し遂げようとしていた。
それが、いつの間にか、時を同じく過ごせる仲間が、こんなにも増えていた。
「きっと楽しいよ!」
この、今この時を守るために戦う。
そう優也は、固く決意した。




