77話 服脱がし魔再来?
「おーいっ! 隊長と優也!」
「お二人ともお疲れさまです」
そこへ、二人分の声がやって来た。
そちらを見やれば、河原に降りてくるアンと湊の姿が。二人は新鋭隊第一部隊のメンバーである。
「あら、二人とも結界の中にいたの?」
「リーダーが、ここで訓練するって聞いてたので」
「私らもできることをしようと思ってな」
「ありがとうな、二人とも」
「気にすんなって」
「わ、私もお手伝いできることはしたいので……」
「助かるぜ」
新鋭隊といや、研究所本部から選りすぐられた『美少女』たちのグループ。カメリアも含め、そんな少女たち三人から教わるなんて、願っても無いことだ。
「そういや、ほかの二人は?」
「萌香と薫は、日本にあるもう一つの研究所の支部に偵察に行ってもらってるわ」
「二人で大丈夫なのか?」
「あの子らをなめないことね」
「カメリアの部隊だもんな」
「そういうことよ」
心配が少し残るが、彼女らのことを信じよう。
「…………」
ふと、優也は空を見上げる。
静寂。そんな言葉が当てはまるほど静か。まるで、この世界に、ここにいる四人しか存在していないかのような感覚。
……いや、あながち間違いでもないのか。
結界の中には優也たち以外誰一人いないわけなのだから。
「思ったんだが、結界の中にいりゃ、安全なんじゃ?」
「ま、外敵はいないからね」
「だろ?」
「でも、そうとも言い切れないわよ」
「どういうことだ?」
「結界の中に長時間いれば、人格が狂うと聞いたことがある。生きてるのか死んでるのかすらも分からなくなるってね」
「まじか……」
それはある意味、外の世界ーー現実世界より恐ろしい。
「でも、結界の中にいりゃ、研究所の計画も実現しないんだよな?」
「まあ、自分をそこまで犠牲にする覚悟があるならね」
「……それはねぇな」
それこそ、何のために結界の中に閉じこもったのかわからなくなる。
「にしても、こうして俺らが結界中にいるときって、外の世界はどうなってんだろうな」
「さあ。あたしたちには知るすべがないから」
現実世界との繋がりを断つ結界。つまるところは、結界が張られている間は、外の世界は時が止まっているということなのか。
では例えば、世界中のどこかで結界が二つ展開したとなれば、どうなるのか?
「結界って、二つ張られたりしないのか?」
「同時じゃないとだめだろうからね。そんなこと、まずあり得ないと思うけど」
「それもそうだよな」
それは奇跡とも呼べる確率か。
さてと、閑話休題。いくら結界の中といえど、無駄な時間を過ごすわけにはいかない。
「カメリアは剣術と異能力。アンと湊は何が得意なんだ?」
「私は剣しか使えないので」
「剣しか使えない? 確か前に水属性って」
一体どういうことなのか。
「あ、あの、それは……」
突然しどろもどろになる湊。
そんな彼女を見たカメリアが、割って入る。
「この子、昔にいろいろあって、異能力を使うのに抵抗があるのよ。あまり深く突っ込まないであげて」
「あ、そうだったのか。悪かった」
「い、いえ。優也さんが悪いわけではないので」
知らなかったとはいえ、湊に嫌な思いをさせてしまったと優也は後悔。
「アンは?」
「私はルニル一筋だぜ」
ルニルと名付けられた大型の剣を虚空から取り出すアン。軽々と、それを肩に担ぐ。
「もしかしてアンも?」
「ん? いや。私はそんなんじゃないぞ。ただ異能力みたいな細かいのが苦手ってだけだ」
「んじゃ、使おうと思えば使えるのか?」
「ああ」
「確か風属性だったか?」
「おう。いちおうな」
風属性か。
思えば風属性の『美少女』とは出会ったことがない。
ひなこ、カメリア、萌香は火属性。
門番、薫は地属性。
白雪は雪属性。
湊は水属性。
水属性も見たことがないが、湊が使えないというのだから仕方がない。
「見せてもらってもいいか?」
「別にいいけど、どうなってもしらないぞ」
「は?」
それが、どういう意味なのか聞き返す猶予もなく、アンは片手を前に差し出した。
その瞬間。フワァ……、とどこからともなく風が吹く。
その風は四人の間を通り抜けると、三人の視線を湊へ集めた。
「……へ?」
突然の注目に疑問。そして、両足に違和感を覚え、湊は皆の視線の先、下を見た。
「水玉……」
「きゃあ⁉︎」
慌てて湊がめくれ上がったスカートの裾を手で目一杯伸ばすのと、優也が視界に捉えたものを認識し目をそらすのは同時だった。
そして彼女は涙目で問うてくる。
「み、見ました⁉︎」
「み……、見てねえよ?」
「あれ? でも優也、水玉って言ってなかったか?」
「そ、それはだな……」
「————っ‼︎」
アンの余計な一言に、さらに湊の顔が赤く染まる。
そして彼女の余計な一言のおかげで、逃れようのない証拠を聞かれてしまった。
「アンタ、ついにこの子まで!」
「ちげぇよ!今のは俺なんもしてないだろ!」
「でも私は何が起きても知らないって言ったぞ」
「確かに聞いたけど、聞き返す暇もくれなかっただろ⁉︎」
「…………」
え、なに? 全部俺が悪いの?
「こいつ、服脱がし魔だから気をつけなさいよ」
「広めんなよ!」
「広めるなってことは認めたの?」
「ちげえ!無罪だ!」
その主張が、どこまで二人の心に届いたのか。優也との距離を見れば、それは一目瞭然だった。




