73話 仲間は多い方がいい
優也にとって、研究所の外、現実世界は随分と久しぶりのように感じられた。
扉を出たそこは、まだ細い裏路地であるが、ビルの向こうの喧騒が、やけに大きく聞こえてくる。
「やっと外だぜ……」
「なんだか長かったね」
「そうだな。とくにひなこにとっちゃ、俺らより研究所にいた時間長いんだしな」
空をあおげば、陽はすでに落ち、夜空が広がっていた。
「今何時なんだ?」
「午後の九時よ」
「九時⁉︎ 俺らが研究所に入ったのって、そんなに遅かったか?」
今さっきまで結界の中にいたわけで、現実世界では時間は経過していないはず。
「あたしたちがいたのは二重結界。あの結界は、外の世界との時間のつながりがあるのよ。だから、あたしたちがここに来て数時間は経ってるわけ」
「とことんと変わってんだな、二重結界は。ほとんど結界があってないようなもんじゃないか」
「まあ、目的が部外者をシャットアウトするというものだから」
その実力は優也たちが身をもって体験したわけで。
「そういや、アン、火野、水瀬、土ノ宮の四人に確認しておきたいことがあるんだが」
「アタシのことは萌香でいいぜ。ってか、みんな、下の名前で構わねぇよ。な?」
「私は構いませんよ」
「あっ、えっ……、わ、私も大丈夫です……」
「そうか、なら遠慮なく。アンと萌香、湊と薫は、俺たちに協力する気があったりするか?」
「協力というのは、お二方が計画されている夢のお手伝いということですか?」
「その内容については?」
「大凡は研究所から聞いています」
誰にも話していないというのに。研究所からはなんでもお見通しというわけか。
「改めて話すと、この世界中にいる『美少女』を人間に戻すことだ。俺らのメインとなる夢はそれだ。その過程で、『世界美少女化計画』の阻止、その為には研究所の壊滅が必要だと考えてる」
「『世界美少女化計画』というのはカメリアさんから聞きました。なんとも恐ろしい計画ですよね」
「その計画のこと信じてくれるのか?」
「はい、もちろんです。カメリアさんが言うことですから」
「あ……、そうか。カメリアが言ったからな」
「正直この場で初めて優也から聞かされてたら信じてなかっただろうな」
「姉御が言うことに間違いはないっすからね」
「私たちのリーダーだから」
自分だったら信用に値しなかった、と。
これまでに『世界美少女化計画』のことを六人の少女に伝え、六人の少女から信じてもらえなかった。見事、全敗である。
……いや、この場で優也の言うことなら信じてくれそうな人物がいるではないか。
「姫、お前ならーー」
「私に振らないで頂戴」
優也から顔をそらしてしまう姫さま。
なんだか主人から見捨てられたような気分になる優也の肩を、ひなこはそっと叩いた。
「どんまいだよ」
落ち込む優也に代わって、ひなこが話を続きをする。
「それで、みんなはわたしたちの夢に協力してくれるのかな?」
「私はいつでも隊長について行くだけだ」
「姉御が協力するって言うなら、アタシも手伝うぜ」
「わ、私も協力しますっ」
「私も」
「ありがと、みんな!」
「これだけ仲間が増えりゃ、心強いぜ」
仲間は多い方がいい。それは当然のことだ。
「ユウヤ、もしかしてこの子たちの『結晶』を壊さないつもり?」
カメリアが、そんなことを尋ねる。
「まあな」
「あたしは反対よ」
「俺も不本意だが、みんなには『美少女』であってもらった方が助かるんだ」
別にカメリアのことを責めるつもりはない。優也としても、彼女のように、この四人には人間に戻ってもらいたい。だが、それだと協力者の中で『美少女』は、ひなこと白雪だけになってしまう。両者ともに力は確かなものだが、研究所本部が壊滅し所長が死に、これから何が起こるかわからない状態の今、『美少女』の仲間は少しでも多い方が心強いのも事実。
「ユウヤとひなこは知ってるんでしょ? 『原石』を使い続ければどうなるのか」
「まあ、それは……」
この目で確かに目の当たりにした。
「この子たちを『美少女』として戦わせることは、あの事態を繰り返すのと同じことなのよ。それをわかってる?」
「…………」
ならば『美少女レンタル』の契約を交わせばいい。二人の『美少女』をレンタルできた優也ならば、ここにいる四人とも契約を結べるだろう。
しかし、そんな案は即座に却下されることくらい予想できる。なぜなら、『美少女』との契約には寿命を代価とするのだから。四人なんかと契約すれば、優也に残される命はほとんどなくなってしまう。
「だからといって……」
人間に戻すのも。
第一、『美少女』ではない人間に協力してもらうのは危険すぎる。それならば、静かに平和に暮らしてもらった方が優也としてはありがたい。
「私らのことなら心配しないでくれ、隊長」
「アン。『原石』は危険なのよ?」
「わかってる。でも、それ以上に私らは隊長の役に立てない方が嫌だ。なあ、みんな」
「姉御。心配してくれる気持ちは嬉しいっすけど、アタシは姉御の力になりたいっす」
「私もです。今までリーダーには助けてもらってばかりでしたから。今度は私たちがリーダーを助ける番です」
「私もそう思います。満場一致ですね、カメリアさん」
「…………はあ」
メンバーに押し切られる形でカメリアは大きくため息を吐いた。
「わかったわ。あんたたちに任せる」
「そんじゃ、私らの『結晶』はこのままで!」
「ありがとうございます、リーダー」
あと一人、この場で確認を取っていない『美少女』に優也は話しかける。正直、返ってくる答えは予想できているが。
「姫はどうする。希望するんだったら『結晶』壊すけど」
「さっきも言ったでしょ。私の『結晶』は壊さなくていい」
「『原石』の危険性は知ってるんだよな」
「当然。でも私は大丈夫。そこの誰かさんと違って、『原石』に呑まれるほど脆弱でも貧弱でもないから」
「アンタねぇ!」
「まあまあ」
今すぐにでも言い争うになりそうな空気を優也は鎮め、白雪と向き直る。
「本当に大丈夫なんだな?」
「私を信じて」
「……わかった」
「『原石』に呑まれてもあたしは助けないから」
「例えそうなったとしても、貴女にだけは助けられたくないわね」
この選択を今も悩み続けている優也は心配性なのかもしれないが、こればかりは彼女らのことを信じてやるしか方法はないのだろう。




