72話 その話題に興味あるのは
「そういえば、みんな、名前はなんていうの? わたしは明元ひなこ」
「思えばバタバタとしたから自己紹介してなかったな。俺は石崎優也。つっても、俺ら二人のことは知ってるよな」
ここにいる全員が、優也とひなこの捕獲を研究所から命じられていたわけだし。
「あたしは、カメリア・フルウ。新鋭隊第一部隊の隊長よ」
「私は……必要?」
「一応な。頼むよ、姫」
「まあ貴方の頼みなら」
名前は知っているが、こうした形で挨拶をしたことはない。せっかくの機会である。
「私は、氷銀白雪。新鋭隊の第二部隊隊長。といっても、メンバーは私だけだから必然的に隊長になっただけだけど」
「カメリアちゃんに白雪ちゃん。わたしたちに協力してくれてありがと。これから仲良くしようね!」
「ま、まあ仕方ないわね」
「私は貴女に協力する気はないわ」
「?」
「まあそんなこと言わずに、仲良くしてやってくれよ、姫」
「……まあ、特別に。よろしくお願いするわね、明元さん」
「ひなこでいいよ」
握手を交わすひなこと白雪。
これから共に協力してゆく仲間だ。互いに信頼できる関係であった方がいいに決まってる。
「それじゃ、今回のメイン。私たちの自己紹介といくか!」
気合満タンで張り切っているのは、アンだ。
「またあの挨拶でいこうぜ」
「えっ? またやるの?」
「なんか一致団結感があっていいだろ、あれ」
「作戦時、真っ先に一致団結なんて忘れるようなヤツが考えた挨拶だけど」
「まあまあ。折角ですから」
そうは言いながらも、四人は一箇所へと集まる。
そして、
「第一部隊パワー担当! ヘリアンサス・アンヌス。風属性」
「第一部隊姉御専用。火野萌香。姉御と同じ、火属性」
「第一部隊前衛担当。水瀬湊。水属性」
「第一部隊後衛担当、土ノ宮薫です。地属性です」
戦隊モノのヒーローのように、ポーズを決めた。
「あ、私のことはヘリアンサス・アンヌスって呼びにくいから、アンでいいぜ。みんなそう呼んでるし」
「ああ、そうさせてもらうぜ」
少し呼びにくい名前であるのは事実だ。
「…………」
「どうかしたのか、ひなこ」
「ヘリアンサス・アンヌスって……」
「知ってるのか、アンのこと」
「ううん、そうじゃなくて。ひまわりの学名も、ヘリアンサス・アンヌスっていうんだよ」
「そうなのか?」
相変わらず、ひまわりについては詳しいな。普通知らないぞ、花の学名なんて。
「よく知ってるな。元気一杯だったからって、名付けてもらったんだ」
「親にか?」
「んいや。私は両親に捨てられて研究所に来たんだ。だから、本当の名前は知らない。この名前だって、研究所のやつらに付けてもらったからな。まっ、実は結構気に入ってたりするんだけど」
ふと、前にカメリアが言っていた、『美少女』は昔にトラウマを抱えた少女であるという話を思い出す。
アンにはそんな過去があるのか。
「いいなー。わたしも、そんな元気いっぱいな名前がよかったよ」
「おい、ひなこ、滅多なことを言うんじゃねぇよ。せっかく親に付けてもらった名前だろ」
「とはいっても、わたしも、これが本当の名前かわからないよ?」
「そうかもしれんがな……」
彼女の、こういうサバサバとしたところは、少しどうかと思ったりする。
それに、明元という苗字も、明るいや元気の元が入ってるし、ひなこだって、日向という言葉に似ている。ひまわりの学名ではないが、プラスな名前であると思うのだが。
「彼女、パワーでいえば、あたしたち第一部隊の中で一番よ。雪女の氷だって砕いてみせたぐらいだから」
場の空気が少し変わったことを察してか、カメリアが話題を変えた。
「あの氷をか?」
「ええ」
研究所の自爆すらも防いで見せた氷。あれを壊したといえば、単純にパワーは爆発以上ということか。
「大きな剣持ってるもんね。それだけでも強そうだよ」
「ルニルっていうんだぜ。私の相棒なんだ」
「あっ。名前つけてるんだね。わたしと一緒だあ」
「あんたの相棒はなんて言うんだ?」
「わたしのはね、七星っていうんだ」
七星を虚空から取り出して見せるひなこ。
「おっ、良い刀だな。それに、大切にしてるってのが見て分かるぜ」
「うん! わたしの大事な相棒だからねっ」
ひなこは、再び虚空へ七星をなおす。
「ルニルは、なおさないの? もしかしてなおせないとか?」
「いいや、そんなことはないぜ? けど、まだ敵がいるかもしれねえからな。武器持ってたら、すぐに反応できるだろ?」
「なるほどっ。あっでもでも! 重たくないの?」
「全然。むしろ軽いぞ? 持ってみるか?」
アンにひょいと持ち上げられたルニルを手渡しで受け取るひなこ。
「うんーー」
ドスンッ‼︎
「指ッ⁉︎指が⁉︎ゆびがあぁああ⁉︎ねえ優也くん!指っ‼︎指とれてない⁉︎」
「大丈夫だ。取れてない」
少し赤く腫れている程度だ。
それにしても、アンはあれほど軽々しく持ち上げていたというのに、なぜひなこは落としてしまったのか。
「そんなに重たいのか?」
「重たいとかそういう次元のはなしじゃないよ。人間が持てる代物じゃないよ」
「いや、アンは持ってたろ」
「んじゃ優也くんも持ってみてよ」
「俺も持っていいか?」
「全然いいけど、ルニルは『創器』だぜ?」
「ユウヤは『創器』でも持てるのよ。げんに、あたしは七星を手にした彼と戦ったもの」
「へー。そんな人間もいるんだな」
「まあ、俺には『石裂き』とかいう力があるからな」
「それもそうだな。優也がいいなら構わないぜ、持ってくれても」
「そんじゃ、お言葉に甘えて」
優也は床に横たわるルニルへと手を伸ばしかけたところで、ふと、
「ちなみに、『創器』ってのは?」
「『美少女』が創り出した武器のこと。ひなこでいう七星、アンでいうルニルね。あたしは、この剣」
「全員持ってるものなのか?」
「いいえ、そういうわけでもないわ。このメンバーの中でいえば、薫は持ってないわね。……ああ、それと、そこの雪女も」
白雪も嫌味っぽいことを言うが、カメリアからも大概である。
「あれ? 姫の武器って、その扇子じゃないのか?」
「違うわよ。あれはただ持ってるだけ。何の意味もない。ね、雪女」
「そうね。確かにこれは『創器』ではないわ。そこの爆発女が言うように、攻撃手段として考えるのなら意味のない物よ。でもまあ、『創器』を持ってても役に立たせれない『美少女』もいるみたいだし、それよりはマシかしら。ね、爆発女」
口を開けば、口論のタネになりそうなことばかり。
「頼むから二人とも仲良くしてくれよ」
「それはユウヤの頼みでも無理」
「いくら貴方のお願いでも駄目」
同じようなことを同じタイミングで言う二人。
実は仲良いだろ、お前ら。
そんなことを思いながら、優也は、ルニルへと伸ばしかけていた手を再び動かす。
そしてそれを掴む。
「ーー? ……っ⁉︎ ッ! フンンッーーッ‼︎」
どれだけ腕に力を込めても、せいぜい数センチ浮く程度。当然持ち上げるなんて程遠い。
「ねっ? 信じてくれた? わたしの言ったこと、ほんとだったでしょ?」
「あ、ああ……」
信じたし、本当だったけど、そのドヤ顔はなんだかむかつく。
「二人とも大袈裟だなあ。こんなに軽いのに。本気でやってないだろ?」
床から、まるで中身の入ってないビニール袋を持ち上げるように、軽々しくルニルを肩に担ぐアン。
いや、本気中の本気だよ。全力でやった結果だ。
「ところで、火野か? さっき言ってた、姉御専用ってのは?」
「文字通りの意味。アタシは姉御専用だからな」
「?」
姉御とは、おそらくカメリアのことだろう。彼女の専用とは?
「優也、この子の言うことは気にしないでいいから」
「お、おう。わかった」
きっと優也には理解できないことなのだろう。
一通り自己紹介が軽く終わったところで、八人は再び出口へと向けて歩き出す。
「ところで優也はさ、好きな人とかいるのか?」
何の前触れもない、唐突なアンからの質問に、耳を傾けたのは優也だけではなかった。
「いきなりどうしたんだ?」
「いいや、なんとなく気になってさ。もし私らの隊長が好きだってんなら、相思相」
「アン、それ以上言ったら、分かってるわよね?」
「お……、おう……」
何かを言いかけたアンを強制的に黙らせるカメリア。
「それで? 結局誰が好きなんだ?」
「いや、話したってな。てか、誰も興味ないだろ、そんなこと」
誰得なのか。
「私は隊長に一票」
「答えように……いや、アンタはアタシのライバル。絶対に認めないし、負けない」
「わっ、私も少し興味あったり、なかったり……」
「王子は姫を妻に迎え入れると決まってるわ。だから私は興味ない。……けど、聞いてて損はない」
「優也くん、好きな人いたの? わたし、興味あるなあ」
結局興味あるんだかないんだか。はっきりあると分かったのは、ひなこぐらいか。
「好きな人、な。お前らが考えてるような人は、俺にはいない」
「? どういうこと?」
「好きにもいろんな種類があるってことだ」
「??」
ひなこは、頭上にクエスチョンマークを大量に浮かべている。
さて、今のでどれだけの人が本当の意味を理解したか。もしかしたら、カメリアぐらいかもしれない。
「さ、出口を目指すぞ!」
こんな話題はさて置き。先陣を切って、優也は歩き出した。




