59話 二人目の
「氷銀は本当に強い『美少女』よ。それでも戦うって言うの?」
「愚問だ。言ったろ、ひなこを守るって。そう決めたあの日から、どんな強敵にも立ち向かおうって覚悟はできてんだ」
「そう。なら助けに行きましょう、あの子を」
決まれば速攻。
その勢いで、カメリアは歩み出す。
「なんか作戦でもあんのか?」
「作戦? 簡単なことよ。真正面から突っ込む、それだけ」
「それだけって……」
簡単に言ってるが、それは相当にリスクの高い手段ではないだろうか。
「そもそも、ひなこがどこにいるのか分かってるのか?」
「ええ。研究所でしょうね。研究所が氷銀を使ってひなこを捕まえさせたと考えるのが妥当だもの」
「それもそうだな」
しかし、元々作戦を思いつかなかった優也に、カメリアが言った以外の方法が思いつくはずもない。
「でも思えばカメリアはどうやって戦うんだ?」
再び『美少女』になったカメリア。しかし誰かと契約を交わしているというわけではない。つまるところ、異能力が使えない。
「『原石』があるじゃない。これがあれば、異能力を使えるわ」
言って見せるは、一つの石。
『原石』と呼ばれるそれは、『美少女』に埋め込まれた『結晶』の元となる石である。『原石』は『生力』を供給することができるため、契約を交わさずとも異能力を発動できる。
しかしその石は、一つの副作用がある。それは、制限なく『美少女』に『生力』を供給すること。その結果、
「ダメだ。ひなこから聞いた。あれのせいで前回は暴走したんだろ」
そう。供給され続けた『生力』は、『美少女』に蓄積され、やがて怪物へと変質させる。
「今回だってしないとは限らないだろ」
「それはそうだけど、だったら何か別の方法があるの?」
「それは……」
悩んで、疑問が浮上。
「俺と契約はできないのか?」
「はあ?」
まるで常識外れの馬鹿を見るような目で、カメリアは優也を見た。
「ひなこから聞いてないの?」
「いや……」
もしかしたら何か聞いたのかもしれないが、あの時は『美少女』のことなんてほとんど理解できていなかったし、よく覚えていない。
「まあ、あの子自身『美少女』というものを理解してないから。話してないのかもしれないわ」
「もしかして『美少女』と契約してれば、他の『美少女』とは契約できないのか?」
「そういうこと。『美少女レンタル』は、二人以上の『美少女』をレンタルすることはできないことになってるわ。つまり、ひなこと契約してるユウヤは、あたしと契約できないの」
「一番短いコースでもか?」
「例え一週間コースでも。代償となる寿命が関係してるんじゃないの」
詳しい理由はカメリアも知らないらしい。
「でもやってみなきゃ、わかんねぇだろ」
「アンタ、本気で言ってんの?」
「本気中の本気だ」
「どうしてそこまで? やっぱりひなこを助けたいから?」
「もちろんそれもあるが、お前に『原石』を使ってほしくないからだ」
「あたしのために……?」
「ああ。お前が心配なんだ」
「ーーーーっ⁉︎」
かあぁぁぁ、とカメリアの顔が赤く染まる。
「どうかしたのか?」
「なっ! なんでもないわよっ!」
「ぐふッ⁉︎」
ならどうして殴る?
「わ、わかったわよ! やってみるだけやればいいわ。どうせ何も起こらないでしょうけど」
投げやりだが、賛成してくれたようだ。
さっきまで反対していたというのに、こんな短時間で何が彼女を心変わりさせたのか。
「そんで、契約って、俺は目をつむってればいいんだよな?」
「当たり前でしょ!」
念のため確認しただけなんだが……。
優也は静かに目を閉じる。
「いいぞ」
「…………」
「どした?」
「目開けるなっ!」
「てぇ⁉︎」
容赦のない目潰し。一生目を開けれなくするつもりかこいつは⁉︎
「あたしがいいって言うまで絶対開けるんじゃないわよ」
「開けねぇよ」
「絶対よ。開けたら、その目、潰すから」
どちらかといや、すでに潰そうとしてたけどな。
優也はまぶたの裏を見ながら、さっきのカメリアの表情を思い出す。顔が真っ赤だったように感じたが、それはなぜだったのだろう。
「…………まだか?」
「う、うっさい! あ、あたしにも、こっ、こ心の準備ってものがあんの!」
心の準備?
一体何に対するものなのだろうか。
「………………」
目を閉じている間に感じる時間というものはとても長く錯覚するもので、優也の体に変化が起きたのは、それからしばらくしてのことだった。
そっと、右手に感覚。カメリアが、優也の手を取ったらしい。
それから、手の甲に、ほんのりと確かな温もり。
そういえば、ひなことの契約の時も同じような感覚があったが、これはなんなのだろうか。
「…………もう、目を開けていいか?」
「……ええ、いいわよ」
優也は、そっと目を開ける。
そこには閉じる前と変わらない姿のカメリアがいて。
「……やっぱ、ダメだったか」
「いいえ、そうでもないみたいよ」
「え?」
そう言って、カメリアが取り出すは、一本の細身の剣。
「『原石』を使わずにこれがあるってことは、契約は成功したみたいね」
「本当か⁉︎」
思わず身を乗り出す。
「ちょ、近い!」
「危ねぇ⁉︎」
カメリアか反射的に振りかざした剣が、優也の目の前を横切る。避けていなければ、今ごろ顔面が真っ二つだったことだろう。
「殺す気か⁉︎」
「アンタが急に近づくからでしょ!」
それは、人を斬り殺していい理由になるのだろうか。
「そういや、ひなこん時と契約の仕方が違うんだな」
「契約の仕方?」
「ああ。ひなこは、なんか難しい、呪文みたいなんを唱えてたが、カメリアは言わなかったろ? なんか違うのか?」
汝とか契りとか。普段ひなこが言わない言葉を使っていたので、印象的に残っている。
「いいえ、違わないわよ。あれは契約の形式。別に言わなくても契約は交わせるわ」
「そうだったのか」
わざわざ言い慣れない言葉を使ってまで公式にのっとったあたり、真面目な彼女らしい。
「あと、ひなこと契約を交わした時も感じた、この手の甲の温もりってなんなんだ?」
「なあ⁉︎」
その質問に、途端顔を赤くするカメリア。
温もりを思い出すように、手の甲にもう片手を触れる優也。
「変態っ‼︎」
「なにが⁉︎」
暴力を振るわれる理由が分からないんだが⁉︎
しかし、カメリアは聞く耳を持たない様子。
「……一つ確認だが、俺が契約したのって、どのコースなんだ?」
『美少女レンタル』には全五コースがあり、それぞれの期間に応じた寿命が代価として支払われる仕組みとなっている。
五種類のレンタル期間と代価の寿命は、
一週間コースが寿命半年分
一年コースが寿命五年分
五年コースが寿命十年分
十年コースが寿命二十年分
一生コースが寿命四十年分
となっている。
ちなみに、ひなことの契約では一生コースを選択され、すでに寿命を四十年支払っている。
(あと何年生きれんだろうな、俺……)
しかも今回カメリアとの寿命で、さらに短くなっている。
まあ自分で望んだことだし、なによりひなこを助けるためだ。そう考えれば残りの全てを支払ったって安いもんだ。
「一週間よ」
「え? 一週間? 一生とかじゃないのか?」
「そりゃああたしとしてもその方がいいけど……」
「なんか言ったか?」
「なんでもない!」
ならなぜそんなに顔を赤くしているのか。
「大体、残りの寿命が、代価の寿命を超えてレンタルすることはできないの」
「それで一週間か?」
「そうよ」
ということは一番短いコースで、支払う代価も寿命半年だけ。
「アンタは、すでにひなこと契約してるんだし。ひなこを助け出すためだけなんだから、それでも多いぐらいよ」
「それはそうだが……」
「それに、あたしもアンタのことが心配なの……」
「心配?」
「なんでもないっ!」
ことあるごとに暴力を振るうカメリア。その大半が、理不尽なものであることを彼女は気づいているのだろうか。
「さあ! 契約も済んだことだし、行くわよ、ユウヤ!」
「行くって?」
「なに寝ぼけたこと言ってんの。ひなこを取り返しに、に決まってるじゃない!」
時は刻一刻を争う。
こうしている間にも、ひなこは苦しんでいるかもしれない。
そう考えると、優也は居ても立っても居られない気持ちになった。




