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美少女はじめました  作者: 針山田
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53話 美少女の過去


 ひなこが作ったおかゆは、あの後、スタッフが美味しくいただきました。

 ……ではなく、責任を持って優也が完食いたしました。

 すべての食器を洗い終え、今は、三人が優也の部屋に集まっている。


「さて、本題、カメリアがここに来てもらった理由だが」

「えっ⁉︎ ここで話すの⁉︎ なにもここじゃなくても……」


 そんな反応を返すのはカメリアだ。彼女は部屋を見回して、なにやらモジモジとしている。


「当たり前だろ。ほかにどこで話すんだよ?」

「ひなこの部屋とかあるでしょ」

「わたしの部屋はないよ?」


 遠慮なんて全くなく、ひなこは言い切った。


「……え? じゃあ今までどこで寝てたの?」

「ここだよ?」

「ここ⁉︎ ここで寝てたって……」


 カメリアから向けられる冷たい眼差し。


「お前が疑ってるようなことはなんにもねぇよ。なあ、ひなこ?」

「ん? うん、ないよ、たぶん」

「なんで多分」

「わたしが寝てるときまではしらないから」

「いや、なんもしてねぇよ」

「だって優也くんは、服脱がし魔、だからね」

「おい!」


 まだ付けられたままなのか、その称号。いい加減返上したいものだ。


「服脱がし魔?」


 初めて耳にするワードに、カメリアが首をかしげる。


「ひなこに勝手に付けられた称号みたいなもんだ。ま、えん罪なんだけどな」

「ああ、理解したわ。あたしのときも服を脱がしたもんね。それを他の『美少女』でも、無差別に、無造作に、無理矢理に、服を脱がしてるってわけ。たいした変態ね、アンタ」

「だからえん罪だ!」


 服を脱がせたことを否定するわけではないが、優也の意思では決してない。


「話を戻すが、」

「ひなこを襲ったって話?」

「そこじゃねぇよ!そもそも俺は襲ってねぇ!」


 それについては無罪を主張する。


「カメリアが来てもらった理由だ」

「その前に、ひなこの部屋を決めなさいよ。そうじゃなきゃ、ひなこがかわいそうだわ」

「わたしは別にかまわないよ?」

「アンタはもっと自分が女の子であるという自覚を持ちなさいよ。こいつだってケモノなのよ。いつ襲ってくるかわかんないわ」

「だからなぁ」


 襲わねぇよ。……たぶん。


「………………」


 とはいえ、カメリアはすでに聞く耳持たずだ。


「はあ……。ひなこの部屋な、実はもう決めてるんだ」

「そうなの?」

「ああ」


 ずっとこのままではダメだと考えていたのは優也も同じ。理性があるから大丈夫といえど、年頃の男女二人が同じ部屋で寝るのは健全ではないだろう。


「前に寝かせた部屋があるだろ?」

「わたしが気を失ってたとき?」

「ああ。その部屋をひなこの部屋にしようと考えててな」

「でもいいの? かってに使っても」

「勝手ってことはねぇよ」


 現状家主と変わらない立場の優也が許可しているのだから。


「そもそも客人用の部屋だからな、あそこは。俺一人じゃ滅多に使う機会なんてねぇし。遠慮せず好きに使ってくれ」

「わかったよ。じゃあ、こんどからあの部屋を借りるね?」

「ああ、そうしてくれ」


 あの時、部屋の掃除は済ませてあるし、今にでも使える状態だ。


「それじゃ、ひなこの部屋も決まったことだし、話はその部屋でしましょう」


 パンッと、柏手を打って立ち上がるカメリア。


「それでもいいけど」

「……なによ」

「いや、俺の部屋がそんなに嫌なのかと思ってな」

「そっ、そういうわけじゃないけど……」

「ないけど?」


 一体なんだと言うのか。


「優也くん、わかってあげてよ」

「ひなこはわかってんのか?」

「もちろん。カメリアちゃん、緊張してるんだよ」

「緊張?」

「なっ⁉︎ ひ、ひひひなこ!」

「んっ」


 とっさにひなこの口をふさぐカメリア。


「きっ、緊張なんかしてるわけないでしょこのあたしが!」

「いや、そもそも何に緊張」

「うっさい! 忘れろ!」


 飛んでくるは、床に敷かれていたクッション。優也は、それを眼前で受け止める。


「すぐに物を投げるな!」

「ふんっ」


 反省の色はなし。

 結局、カメリアが優也の部屋を嫌がる理由は不明のままだが、移りたいというのならば仕方がないだろう。


「まあ、ひなこの部屋に移動するか」

「もう別にいいわよ、ここで」

「は?」

「いいって言ってんの。この部屋で話しても」


 クッション返して、と優也の手から、それを奪い取る。そうして元の位置へと腰を下ろすカメリア。

 お前が投げたんだろ。てか、もういいって、どっちなんだよ。


「その代わり、先にあたしの質問に答えなさい」

「んだよ」


 そしてなぜに上から目線なんだよ。


「ひなこが研究所を抜け出したわけ」

「ああ、そうか」


 研究所が秘密裏に進める計画のことを彼女が知る由もない。ゆえに、ひなこが逃げている理由も知らないわけだ。


「研究所はね、おそろしい計画を実行しようとしてるんだよ」

「恐ろしい計画?」

「それについてはね、優也くんが説明してくれるよ」


 こいつ…………。


「それで、なんなの研究所が企んでる計画ってのは」

「『世界美少女化計画せかいびしょうじょかけいかく』つってな」

「アンタ、とうとう頭までおかしくなったのね……」


 安定のこの反応。だから言いたくなかったんだ。

 てか、


「んふふ……、ふふっ……」


 隣で笑いを押し殺しているひなこ。やっぱ完全にわざと言わせただろ。


「真面目な話だよ。研究所はこの世界を『美少女』で支配しようとしてるらしい。ひなこと俺は、この計画の阻止と、全『美少女』を人間に戻そうとしている。ちなみに、この話は、ひなこが研究所の人から聞いた話だ」

「そう。なら本当の話なのね」

「………………」


 なんで門番といいカメリアといい、優也なら信じず、ひなこなら信頼に値するのか。謎である。


「でも、何のために研究所はそんなことを」

「さあな。それが分かりゃ、もう少しは手が打てるかもしれないんだが。カメリアはなんか思い当たらねぇか?」

「残念だけど」

「そうか……」


 世界を『美少女』で埋め尽くし、研究所に一体なんの利益をもたらすというのか。

 目的不明なこの計画には、実は、一つの大きな欠点がある。


「でも、その『世界美少女化計画』とかいうの、本当に実現可能なの?」

「? でも、わたしはたしかにこの耳で聞いたよ?」


 どうやら、その欠点についてカメリアも気がついたらしい。


「いえ、ひなこのことを疑ってるんじゃないの。そうじゃなくて、計画自体に不備があるのよ」

「ああ、そうだな」

「優也くんもわかってるの?」

「実はな。気づいたのは、ごく最近になってからだが」


 ひなこは、この場で理解できていないのが自分一人というのに納得できない様子。


「えー、なんなの、その不備っていうの?」

「よく考えてみろ。『美少女』にとって必須なものってなんだ」

「? 『結晶』?」

「それももちろんだが、『美少女』として成り立つには必要なもんがあるだろ?」


 ひなこは未だ頭上にクエスチョンマークを浮かべたままだ。


「ほら、ひなこが本当の意味で『美少女』になれたのって、どうしてだ?」

「優也くんが、いたから?」

「そう、その通りだ」

「どういうこと?」

「『美少女』には人間との契約が必要だ。つまり、『美少女』には人間がセットになってくる。んじゃ、世界を『美少女』で支配するっていう『世界美少女化計画』にも人間という存在がいなきゃ成り立たねぇ。でもそれだと、『美少女』で世界を埋め尽くしたとはならねぇだろ」

「たしかに。でも、それをふまえて『世界美少女化計画』なのかもしれないよ?」

「かもしれねぇけど、『美少女』がいて人間がいるっていうなら今の世界と大差ないだろ。『美少女』の数が多いか少ないかの違いだけだ。それだと、もっと計画の目的が分からなくなる」

「それもそうだね」


 三人がそろって頭を悩ませる。

 研究所は何を考え、こんな計画を実現しようとしているのだろうか。


「ねえ、優也くん」

「ん? なんだ」


 なにか思いついたとでもいうのか。


「お手洗い、かりてもいい?」

「? ……あ、ああ。別にいいぞ」

「ありがと」


 タタタタッ、と急ぎ足で部屋を飛び出していくひなこ。

 どうやら今まで我慢していたようだ。

 そういうところ彼女らしいが、なにより、このタイミングで言いだすのが彼女らしい。


「それにしても、『世界美少女化計画』なんて。あの研究所が、ねぇ……」

(あの?)


 独り言をつぶやくように、カメリアはそう言った。


「なんかあんのか?」

「いえ。ただ研究所は、この世界に生きる希望を失った子たちを集めた施設だから。『美少女』なんて存在がいるけど、そういうことをするっていうイメージがなかったのよね」

「この世界に生きる希望を失った?」

「簡単なことよ。例えば、親からの虐待や抑圧、学校でのイジメ、他にも、大切な人を失ったというのもあるわね。そういう子たちを見つけて保護してるのが研究所なの」


 つまりは、過去になんらかのトラウマを抱えた子どもたちということか。


「その子どもたちが『美少女』ってわけか?」

「ええ、そういうこと。といっても、『美少女』にも適正というものがあるから、全員が全員、『美少女』になるということではないけど」

「でもそれだと『美少女』には男も含まれるってことか?」

「いないわよ。『美少女』はその名の通り女の子だけ。女の子のほうが『美少女』というシステムに馴染みやすいという理由だったかしらね」

「………………」


 では、この世に生きる希望を失った男の子は……。

 だとしても、研究所で見た『美少女』の暮らしといい、『美少女レンタル』という目的のためといえど子どもを保護したり、と。

 優也の中にある悪の組織という印象から、研究所は少しずれているような感覚になることが多々ある。

 それとも、それはただの優也個人の印象に過ぎないのだろうか。


「だったらカメリアも昔に何かあったのか?」

「あたし? ……さあ、忘れたわね、昔のことなんて」

「もしかしてカメリアも記憶喪失だったりするのか?」

「いいえ、そういうことじゃないわ。ちゃんと覚えてるわよ。ただ絶対にアンタにだけは言わないわ」

「なんでだよ」

「なんでもよ」


 トラウマだけに、無理に聞き出そうとは思わないが、自分にだけは教えてくれないというのは何故なのだろうか。


「ひなこにも、昔になにかあったんだよな」

「ええ。でも、あの子の場合、昔の記憶がないっていうから。本人には何があったのかは覚えてないでしょうね」

「…………」


 あの笑顔の裏には、一体どんな残酷で悲惨な過去が隠されているというのか……。


「ごめんね、まった?」


 ドアを開けて部屋へ戻ってくるひなこ。


「いいや、カメリアと少し話してただけだ」

「おはなし? どんな?」

「気にすんな。説明するようなことじゃねぇよ」


 少なくともひなこに話せるような内容ではない。彼女自身のことも含まれているのだから。


「えー! そんなこといわれるとますます気になるよ?」

「がまんだな」

「えー。優也くんのケチ。優也くんはケチ〜、どケチ〜。優也くんなのにどどどケチ〜」

「だから変な歌を歌うなっ」


 あの時みたく頭にツッコミをいれれたならば、間違いなくやっていたことだろう。


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