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美少女はじめました  作者: 針山田
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48話 まさか実現するとは思っていませんでした


「……だからって、怖くないってのとは話が違うんだよなぁ……」


 屋上へたどり着いた優也。その縁から下を見下ろして、足がすくむ。

 下のグラウンドでは指示した通りに、ひなこが校舎の近くで化け物を足止めしていた。


「あれだって長く持つわけじゃねぇんだ……」


 ここで覚悟を決めなければ、負けるのは自分たちだ。今度の相手は自我がない。カメリアの時と違い、本気で殺しにくる。


「なあ石崎優也。お前は何のためにここに来た? 誰のために、ここに来たんだ?」


 優也は、再び、屋上の縁に立つ。


「明元ひなこを笑顔にするために決まってんだろ! いっちょやってやらぁ!」


 全てを勢いに任せ、優也は縁から飛び出した。


「らぁぁあぁぁぁぁあ当たれぇぇえぇぇぇえええッ‼︎」


 狙いは化け物の背中にある『結晶』。それに向けて優也は手を伸ばす。

 いくら『石裂き』なんて力があれど、所詮普通の人間と同じ。宙に身を任せる優也は、軌道を変えることはできない。落ちるがままに任せるしかないのだ。

 その軌道上に、カメリアの『結晶』は、


「なっ⁉︎」


 途端、化け物が体の向きを変える。

 このままいけば、優也の手は『結晶』に届かない。


「そうはさせないよ!」


 この場面で最も諦めの悪いだろう人物は、やはり諦めてはいなかった。

 ひなこは刀をしまうと、


「はあッ!」


 化け物へ向けて炎の球を放つ。

 しかし化け物は、それを食らってももろともしない。


「だったらーー!」


 次に炎の球で狙ったのは、


「ぐあッ⁉︎」


 優也の近く、炎の球は校舎の壁に当たった。その反動で、優也の体が飛ばされた。


(これならーー‼︎)


 優也は手を伸ばす。


「当たってくれぇぇええぇぇぇえッ‼︎」


 指先が、カメリアの『結晶』に触れる。

 途端。パリンッ! と。赤い石は粉々に砕け散った。


「優也くん!」


 ひなこにキャッチされ、優也は地に足を下ろす。


「やったかーー?」


 振り返ると優也。

 さっきまで襲いかかっていた化け物は、音にならない咆哮を上げると、次第にその巨体を縮小してゆき、やがて、


「カメリアちゃん⁉︎」


 金髪碧眼ツインテール少女、カメリア・フルウへと戻った。

 地面に両足をつけて座り込むカメリア。その隣へ、ひなこは大層心配そうに走り寄る。


「な、なに……、あたし、どうなって……」

「カメリアちゃん! 大丈夫⁉︎」

「ひなこ? 大丈夫って……。あたし、アンタたちに負けて……、あの後……」

「あの後、お前はバケモンに姿を変えたんだ。『原石』の暴走だってな」

「『原石』が……?」


 カメリアは石を取り出す。白く濁った汚らしい石。

 『原石』。これがそれである。いや、正確にはそうであったもの。この濁りは、『原石』が蓄積した『生力』を使い果たした証だ。

 カメリアが負けた時、『原石』はまだ使えた状態だった。なのに、今はこうなってしまったということは、彼の話は真実なのだろう。


「それにしたって化け物って……」


 ふと、カメリアは視線を落とした。

 そこには、心配を具現化させたひなこが。そして、自分の全裸姿が。


「な、なな、なあーーーーっ⁉︎」


 すぐに服が破れてしまったのだろうと推測。いやそんなことは今関係ない今ここで最も重要なのは


「こっち見んなえっち!」

「ぐはあッ⁉︎」


 手元にあったちょうどいいサイズの石を投擲。標的は優也だ。


「痛ぇな!見てねぇよ!目ぇそらしてただろ!」

「目そらしたってことはあたしが裸なのを知ってるってことでしょ⁉︎」

「そ、それはだな……」

「変態!えっち!スケベ!」

「わあーった! 悪かったって。だから石投げんのやめてくれ!」


 手当たり次第攻撃してくるカメリアをなだめるため、優也は彼女に手を差し出す。

 瞬間、カメリアの手が止まる。

 

「これって……」

「とりあえずこれ着ろ……。なんもないよりマシだろ……」


 それはブレザー。あの時目くらましで投げつけられたものである。どうやら拾っていたらしい。


「…………」


 カメリアは、最初驚いた風に優也を見上げていたが、やがて諦めたらしく、


「ま、まあ、どうしてもっていうなら仕方ないわね着てあげる。感謝なさい!」


 むしろ感謝してほしいものだ。

 優也からブレザーを受け取ると、カメリアはそれを羽織い、裸体を隠した。

 裸にブレザー。

 冗談で言っていたあれが、まさかこういう形で実現することになろうとは。


「ねえ、一つ聞いていいかしら」

「な、なんだ?」


 ブレザーに身を包んで立ち上がるカメリア。

 頼むからやめてくれないだろうか。ワンピースじゃないんだ。ただでさえ丈の短いブレザーで立ち上がったりなんかしたら……。


「どうしてあたしを助けたりなんかしたの?」

「あ? それはひなこが助けたいって言うから」

「それは少しちがうよ?」


 否定してきたのは、まさかのひなこだった。


「違うって何が」

「たしかにわたしもカメリアちゃんを助けたいって思ってたよ? でも最初にわたしに助けようっていったのは優也くんだよ?」

「そうだったか?」


 完全に無意識だ。しかしひなこの顔を見ていれば、それが事実なのだろう。


「『美少女』のままだったらまだしも、化け物に変わったあたしまで、そんなボロボロの体で……」


 命をかけてまで彼女を助けた理由、か。

 ひなこが救いたいと願ったからというのが最大の理由だが、カメリアが変異したという絶望的な状況でも諦めなかったのは、きっとーー


「……あんなとこで死なれたら、まるで俺が悪いみたいだろ。それが嫌だっただけだ」

「ふっ……」


 そんな理由に、思わず吹き出したのはひなこだ。


「なんで笑ってんだよ」

「あはははっ。ごめんね? ただ、わたしを助けてくれたときもおんなじこと言ってたのを思いだして。『別に、そんなんじゃねぇよ。ただ、あのままお前になんかあったら、俺が悪いみたくなるだろ。それが嫌だっただけだ』って」

「ま、真似してんじゃねぇよ」


 しかも全然似てねぇし。てかよく一言一句忘れずに覚えてたな。


「え? じゃあ今のあたしを助けたって理由も……」

「本当だ。ひなこん時も本心だ」

「カメリアちゃん、そういうことにしといてあげて?」


 ひなこ、こいつ……。


「わ、わかったわ! そういうことにしといてあげるっ!」


 そう言ったカメリアは、頬を赤く染め、優也のブレザーに、より一層体を包み込んだ。


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