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美少女はじめました  作者: 針山田
46/154

46話 勝利を手にしたのは


 その血痕を辿って、カメリアが着いた場所は、


「屋上?」


 血の痕は、確かに屋上のそこまで続いていた。だが、そこに優也の姿はない。

 一体どこにーーーー


「ーーはあッ‼︎」


 突如感じた殺気。

 頭上に落ちてきた何かに反応できたカメリアは、それを剣で防御した。


「アンタ……」

「また会ったね、カメリアちゃん」


 その正体は、明元ひなこであった。

 キンッ! と金切り音を鳴らして、カメリアはひなこごと彼女の持つ刀をはじき返す。


「なんでアンタがここに……」


 この結界の中にいるのは、カメリアと優也だけのはず。それはさっき彼に確認したばかり。だからここにひなこがいるわけがない。


「まさかーー!」


 考えられるのは、ただ一つ。


「ご名答だ、カメリア」

「アンタ……」


 カメリアが入ってきたドアから現れるのは、口元に血を拭った痕が残る優也であった。


「あたしをはめたのね」

「おいおい、人聞き悪ぃな。俺が言ったのは、学校の中にはひなこを入れてないってだけだぜ。ひなこには、あらかじめ学校の近くでお前が結界を張るのを待っててもらってたんだ」


 話しながら、ひなこの隣へ並ぶ優也。


「学校だけに結界を張られるとは考えなかったのかしら」

「いいや。そら無理だからな」

「なぜ?」

「前回の結界の範囲を考えりゃあわかる話。前の奇襲では、ひなこを結界の中に入れない手筈だったはずだ。なのにひなこは結界の中にいた。答えは簡単。そんな小規模な結界を張ることができないからだ」

「アンタの推測力、たいしたものね」


 つまりは、正解だったということ。


「すごいね! 優也くん。そんなに頭よかったんだ!」


 そして、馬鹿にしてんのか、こいつは。


「でも一つ分からないことがあるわ。教えなさい」


 相変わらずの、その上から目線。嫌だと断ってやろうか。


「なんだ」

「階段の、あの血痕。誰のものかしら」

「ああ、あれか。おそらく予想ついてるだろうが、あれは俺の血じゃない。俺らが戦ってる間に、大急ぎでひなこが垂らしてくれてたニセモンの血だ」


 実を言えば、優也が壁に投げ飛ばされた時、その左側の階段にはひなこがいた。あの時はカメリアに見つかってしまわないかとヒヤヒヤしたものだ。

 傷だらけの優也の姿に、ひなこは大層心配そうな顔で見ていたが、何があっても計画を優先することを約束していたため、こうしてカメリアを屋上へ誘い出すことができたのである。


「お前にブレザーをかけた後、俺は血を垂らさねぇように、下の階に逃げたってわけ」

「とことんと舐めた真似をしてくれたわね」


 ここまでは優也の計画通り。そのまま何もなく事が進むことを祈るばかりだ。


「で、どうする。俺の偉大さを前に、観念する気にでもなったか?」

「偉大さ? それって、今にも気を失いそうなのを我慢して立ってることかしら?」

「え⁉︎ 優也くんそうなの⁉︎」

「大丈夫だ、ひなこ。俺のことは心配すんな」


 バレていても仕方ない。優也をこんな状態にしたのは、カメリア本人なのだから。


「それと一つ教えといてあげる。たかが一人増えたところで、あたしの勝利は決まってるのよ!」


 剣を振り上げるカメリア。そのターゲットは、優也だ。


「させないよ!」


 その間に割って入り、カメリアの攻撃を防ぐひなこ。


「優也くん」


 ひなこは目線を優也に合わせ、首を縦に振る。作戦開始の合図である。

 それに、同じく首を縦に振って、優也はその場から移動を始めた。


「面白いじゃない。アンタらの考えた作戦と、あたしの実力、どっちが上かしらね!」


 カメリアは剣をしまい、


「《火矢アロー》!」


 優也へ向けて火の矢を放つ。


「はっ!」


 すかさずひなこも刀をしまい、火の矢へ向けて炎の球を放つ。

 明らかに速度差はある……と思われたのだが。

 バァン! と。火の矢と炎の球がぶつかり合い、爆発を巻き起こした。


「あたしの異能力を……」

「カメリアちゃん。わたしを前のわたしとおんなじだと思ってもらっちゃ困るよ。一味も二味もちがうんだから。もしよかったら、試しになめてみる?」


 珍しくひなこが挑発めいたことを言う。後半のそれは本気のようにも感じたが。

 その意図は簡単。


「だったら、アンタから倒してあげるわ!」


 そして目論見通り、カメリアはひなこの挑発に乗ってきた。

 カメリアは剣を、ひなこは刀を虚空から取り出し、それらを衝突させた。

 キンッ‼︎

 甲高い音とともに、二人は武器越しににらみ合う。


「はあッ!」

「やッ!」


 カメリアの剣筋を、ひなこは全て防ぎ、ひなこの刀筋を、カメリアは全て防ぐ。


「だったらーー!」


 ひなこの攻撃をカメリアは防がなかった。

 それは前にカメリアがとった手法。カメリアを斬ることのできないひなこには、この後絶対的な隙が生まれてしまう。

 カメリアは、それを狙っているのだ。

 だから、


「っ⁉︎」


 ひなこの切先が、なんの躊躇もなく、カメリアの頬を斬ったことには、さすがのカメリアは驚きを隠せなかった。

 すかさずカメリアはバックステップで、ひなこと間合いを取る。

 手の甲で頬を拭い、カメリアはそこに血がついたことを確認。


「アンタ……」

「言ったでしょ、カメリアちゃん。今のわたしは、前のわたしとはちがうって」

「覚悟を決めたってことね」


 そう、ひなこは決心したのだ。

 夢を実現するために。

 そして、大切な人を守るために。


「だったらあたしもーー!」


 カメリアは剣をしまう。


「《炎柱コラム》!」


 ひなこの周囲から、コンクリートをぶち破り、炎の柱が噴き出した。


「逃げ場はないわよ」

「…………」


 合計六つの柱に囲まれたひなこ。その足元に、真っ赤な花の模様が描かれる。


「これで終わりよーー《業火の一輪リコリス》‼︎」


 ひなこは逃げることができないまま、炎の柱に包み込まれ、花の模様が轟音を立てて、エネルギーを大爆発させた。

 もくもくと立ち込める煙のあとに、ひなこの姿はない。

 前のものよりも威力は小さかったが、それでも二階部分まで破壊された屋上が、爆発の威力を物語っていた。


「……あたしの勝ちね」


 それに巻き込まれたひなこが生きているはずもなく。

 やり過ぎたかと少し後悔。研究所にはなんと報告したものか。


「ーーそれはどうかな?」


 背後からの声。そこには、


「なっ⁉︎」


 爆発にのみ込まれたはずの、ひなこの姿があった。しかも傷を負っている様子はない。


「どうやってーー⁉︎」

「優也くんに言われたとおりだったよ」

「言われた⁉︎」

「うん。実はね、わたしが立ってたあそこ、ちょっともろくなってたの。だから、簡単に下の階におりることができたよ」

「あの隙に逃げたっていうの……」


 炎の柱に包まれてから炎の花が爆発するまでの、ほんの少しのラグ。その間に、ひなこは床を破壊し、下の階に降りて、爆発から逃れたというのか。

 それも驚きだが、何よりも恐るべきことは、


「あたしがあそこで《業火の一輪リコリス》を使うことまで予想してたっていうの」


 そうでなければ、こうしてひなこが背後を取ることはできなかった。


「さあ、カメリアちゃん、終わりだよ」


 背後を取られた今、対抗する手段は残されていない。あとは、ひなこがカメリアへ刀を突き立てれば終わり。


「……どうかしらね?」

「カメリアちゃん⁉︎」


 真っ赤な花の模様が、辺り一帯に浮かび上がる。

 その範囲は、先のものとは比にならず、屋上どころか校庭も何もかも、学校の全てを巻き込んでいた。


「自爆する気なの⁉︎」

「自爆? それは違うわね。あたしには、攻撃を防ぐ異能力もある。巻き込まれるのはアンタたちだけよ!」


 彼女は本気だ。本気で全てもろとも優也とひなこを消し去るつもりだ。


「さあ! あたしを殺さないと全部終わるわよ!」


 いくらひなこが覚悟を決めたとしても、カメリアを殺すことはできない。例え、攻撃を与えてきたとしても、それを避ければいいだけの話。


「どうするの?」


 発動しようとしている異能力の威力はどうとでもできる。

 全てにおいて有利。だから、カメリアの勝利。


「っ! カメリアちゃん!」


 腕を振り上げるひなこ。

 結局、その刀をおろせるわけもないーー


「刀がーー⁉︎」


 その手に、七星が握られていなかった。


「はあぁぁあぁぁ!」


 声がしたのは頭上。給水塔の上から、こっち目掛けて飛び降りてくるのは、優也だ。その手には七星が。


「ッ!」


 彼が七星を持っているのは分が悪い。何が起きるかわかったものじゃない。

 即座に、カメリアは異能力の発動を抑える。代わりに、剣を、


「させねぇ!」


 視界に覆いかぶさってくるは、優也が投げたブレザー。


「同じ手にかかるとでも!」


 二度目になる前に、カメリアはブレザーを腕で払い退ける。そして剣を取り出し、


「終わりよ!」


 それを突き立てた。ーー誰もいない場所に。


「カメリアちゃん」


 声は後ろに立つひなこのもの。


「…………」


 首筋には、かすかに感じる違和感。

 視線を落として見れば、ひなこの七星が、カメリアの首へ当てられていた。


「これで、終わりだよ」

「…………」


 今気がついた。先ほどのブレザーは、優也の姿を消すためのものではなく、七星をひなこへと受け渡すための隙作りだったのだ、と。


「全部、アンタの計画通りだったってこと」

「ああ」


 少し離れた位置で、優也が立っていた。


「まあ、お前が、あの異能力を使ってくれるかは、正直賭けだったがな。そのおかげで、ひなこから七星を受け取ることができた」

「…………」


 たかだか戦いも知らないような人間の立てた作戦に乗せられ、負けたというのか。


「だとしても、あたしの方が実力は上よ!」

「そうだね。でも、それはわたしが一人だったらのはなしだよ」

「俺の作戦に、お前が負けたんじゃない。ひなこの実力に、お前が負けたんでもない。俺の作戦にひなこの実力が合わさって、お前は負けたんだ」

「あたしが……、負けた……」


 カメリアの、その手から剣がこぼれ落ちる。

 筋書き通りに事が運び、優也とひなこは勝利を収めた。


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