39話 非攻略キャラ
「やっと見つけれたからって、なにも着て帰らなくても……」
「また落としたらやだもん」
ステラから帰路。優也は、家に向かって歩いていた。その隣には、先ほど言ったように、買ってやったワンピースを着たひなこが歩いている。
ちなみに、それ以外の服が入った袋は優也が持っている。
「ひなこ、ちょっといいか?」
「どうしたの?」
「実はな……」
こちらを向くひなこの前へ、優也は買い物袋の中から取り出した可愛らしい小袋を差し出す。
「?」
どうしたらいいのか、といった様子で小首を傾げるひなこ。
無理もない。こんないきなり何かを見せられても、それがプレゼントだと気付ける方が凄い。
どんなサプライズで渡そうかと悩んでいたが、結局こういう形にすることにした。
「とりあえず、開けてみろ」
「うん、わかったよ」
小袋を受け取り、中を取り出す。
「これって……」
ひなこの手のひらには、ひまわりの装飾が付いたヘアゴムが。
「ほら、今のひなこって、髪下ろしたまんまだろ」
出会った当初は側頭部の一部を結っていたが、身につけていたヘアゴムが血で汚れてしまってからは、ずっと髪をストレートにしていた。
「なんつーか、結んでるほうがいいかなって……」
「いいって? 似合うってことかな?」
「いや、まあ……」
そういう意味ではあるが、わざわざ確認する必要があるだろうか。はっきりと返答してやれない優也も優也であるが。
「まあいいからつけてみろって」
「うん、つけてみるね」
と言ったものの、
「……やっぱつけて?」
「な、なんでだよ」
「うーん……、なんとなく?」
なんとなくですか。そうですか。
「どんなのにすんだ?」
「おまかせ」
「はいよ」
とはいえ、男の優也が女性向けの髪型なんて、すぐに思いつくはずもなく。
「前と同じ、ミサンガでいいか?」
「優也くんが、それがいいなら」
ここで変なチャレンジをして失敗してしまうなら、無難な選択をしよう。
優也はひなこを連れて、近くにあったバス停のベンチへと移動した。そこへ、ひなこを座らせる。
「じゃ、じゃあ……、触るぞ?」
「うん。いいよ」
きっと緊張しているのは、優也だけなのだろう。
「………………」
心臓の跳ね上がる音を自身で感じながら、優也は静かにひなこの髪の一部を取り、それを三本の束に分けて、それぞれを結い始める。
「どう? 感想は?」
「か、感想⁉︎」
「うん、感想。わたしの髪の毛をさわった感想」
「…………」
なんでわざわざ言わせたがるのか。嫌がらせか?
「ま、まあ……、柔らかくてふわふわしてんな。まるで、動物の毛に触れているみたいだ」
「それほめてるの?」
「褒めてるって」
「そう? ならいいよ」
なんといえば正解だったのか知らないけど、ひなこは嬉しそうな表情だ。
「そういえば、ひまわりにしてくれたんだね」
「ああ、これか? 前のやつもひまわりだったろ。大切にしてるし、好きなのかなって思ってな」
「うん、わたしの一番すきな花なの。ひまわりってね、お日さまのほうを向いて生長するんだよ。しってた?」
「知ってるよ」
わりと有名な話だ。原理はよく知らんが。
「明るいほうへ育つって大事なことだと思うんだよね。わたしも見ならわなきゃって」
「それなら大丈夫だろ」
十分見習えてる。そう言い切れる。むしろ、ひなこ自身が太陽のようだ。
「好きな花があるから、汚れても、あのヘアゴム、大切にしてんのな」
「それもあるけど、一番の理由はちがうかな」
「そうなのか?」
「あのヘアゴムはね、わたしの記憶がはじまったときから、ずっと身につけてたものなんだ。なんにも覚えてないけど、きっと大切なものなんだろうなって思って。それを思いだすまでなくさないようにしようって決めてるの」
「そうだったのか……。なんか悪いな」
「どうして優也くんがあやまるの?」
「いやだってな……。記憶がないって、きっと辛いことだと思うからな。それを思い出させちまったかなって」
「たしかにつらいことだよ。でも、優也くんがわるいんじゃないから」
「…………」
そうと言われればそうだが……。
何もしてやれない自分が情けなく思ってしまう。
「……記憶、戻したいか? ひなこ」
「きゅうにどうしたの?」
「ひなこは、研究所よりも前の思い出とか、思い出したいのかなって思ってな」
「戻したくないっていったらうそになるんだと思う。きっと思いだしたいだと思う」
「そうか」
「なにか方法があるの?」
「いや、特にこれといってないけどな」
「なにかあるのかと思っちゃったよ」
しかし、研究所を壊滅させれば、もしかしたら……。
「ほれ、完成だ」
そんな会話をしている間にも、優也作、ひなこのヘアースタイルが完成した。
「どれどれ?」
ひなこは、見たくて見たくてたまらないといった様子だが、近くに鏡や、それらしきものは、もちろんない。
「ちと待ってろ」
そうして優也が取り出すは、スマホである。
「こうして、こうすりゃ……」
カメラを起動し、インカメラへとモードを切り替える。
「……ほれ。どうだ?」
「おお……! すごいよ優也くん!」
「だろ?」
きっと恋愛ゲームなら、今ので好感度は上昇していたことだろう。
しかし、ひなこは非攻略キャラ。そもそも好感度ゲージが存在しない。
彼女の言う「すごい!」は、そのままの意味の「すごい!」であって、優也が期待する「すごい!」ではない。
「ありがと優也くん! 一生大切にするよ!」
ほんと勘違いさせてくれる美少女だ。




