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美少女はじめました  作者: 針山田
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37話 昔の自分と今の自分


「ゆーくん、おはよ」

「おう、珠音、おはよう」


 ひなこの初ステラから一日経った翌日。

 優也は学校への行き道、いつものように待ち合わせをしていた珠音に挨拶を交わした。


「昨日はありがとな。助かったぜ」

「気にしないで。それで、連絡はあった?」

「いいや、まだないな」

「そう……」


 ひなこには申し訳ないが、実のところ優也は、見つからないと諦めている。あれほど探して無かったのだから、今ごろ拾った誰かが持ち帰っているだろう。そう考えるのが妥当だ。


「それで、ひなこちゃんは?」

「まあ、諦めてないだろうな」


 当の本人は未だ元気なく、今は家で留守番をしているけど。


「そうだよね。大切なものだもんね」

「おんなじ物買ってやるって言ったのに断るんだぜ? あれじゃないと嫌だってさ」

「そりゃそうだよ。私は、ひなこちゃんの意見に味方だな」

「分かるのか? あいつの気持ち」

「まあね。そこは、私も同じだから」

「同じ? なにがだ?」

「教えなーい」

「なんだよそれ。そこまで言ったんなら、最後まで話してくれよ。気になるじゃねぇか」

「ゆーくんが気になるのは、ひなこちゃんの気持ちでしょ。私とは違うから言わない」


 同じとか違うとか。どっちなんだか。


「そういや、昨日言いそびれた、俺へのお願いってなんなんだ?」


 ひなこの探し物を手伝ってもらったお返しに、何か一つお願いを聞くと言った。しかし、それを聞く前に、昨日珠音は帰ってしまった。


「その前にね、確認しときたいことがあるんだ」

「確認?」

「八月の五日と六日ってあいてる?」

「その日はたしか……」


 何か聞き覚えのある日付けだと思い、記憶をたどってみれば、その日は、ひなこが抽選で当てた一等の温泉旅行の日程であることを思い出す。

 その二日間は、彼女と温泉旅行に行くことを約束している。


「何か用事?」

「まあ……」


 珠音には言ってもいいか。


「実はな、昨日、ひなこが抽選で一等を当ててな」

「一等⁉︎ すごいね、ひなこちゃん」

「まあな」


 さらに言えば、二等から五等も当て、景品をコンプリートしている。


「一等って、カップル温泉旅行だよね?」

「ああ。その日程が、八月五日、六日なんだ。それに行く約束をしててな」


 驚くことに、珠音が確認してきた日付けと、ちょうど同じ日である。


「ゆーくんとひなこちゃんってそんな関係だったの⁉︎」

「驚くとこそこかよ!」


 日付けが同じことに驚くだろ、普通。


「確かに景品はカップル温泉旅行だが、カップルじゃなくとも行けるんだよ」

「知ってるよ。ちょっと聞いてみただけ」

「…………なんで知ってるんだ?」

「へ?」

「いや、一等がカップルじゃなくても行けるって、どこで聞いたんだ?」


 ふと疑問。そのことは景品の一覧にも書かれていなかった。旅行券を貰って、初めて知ったことだ。そのことを一等を当てていない珠音が知っているはずがない。


「えと……、実はね、私も一等を当てたんだ」

「珠音もか⁉︎」


 そういえば、優也たちが抽選に挑んだ時に、一等と二等が一枚ずつ減っていると店員が言っていた。

 どうやら、その一等を当てた人物というのが、珠音だったらしい。


「んじゃ、俺の予定を聞いたのって……」

「ううん、別にいいの。せっかく貰ったんだし、あいてたらゆーくんと行こうかなーって思っただけだから」

「悪いな、せっかく誘ってくれたのに」

「気にしないで」


 二名一組でなければ、珠音も連れて行くことができるのに。


「……けど、よかった」


 息を吐くように出た、珠音のそんな言葉。


「なにがよかったんだ?」


 もちろん、ひなこが服を無くしたこと、温泉旅行の誘いを断られたことでないのは分かっている。


「ん? ゆーくんが、昔のゆーくんに戻ってくれたみたいだから」

「昔の俺? どういうことだ?」


 ここにいるのは、まぎれもない今の優也。


「ひなこちゃんと一緒にいたってことは、ゆーくん、その頼みごとを聞き入れてあげたってことでしょ?」

「まあ……」


 そうなるまでには色々あったし、聞き入れなければならない状況に追い込まれたというのも要因の一つである。

 だが結果的に、優也はひなこと契約を交わし、彼女の目的、つまりは研究所を破壊し、『美少女』となった人たちを救うこと、を手伝うことになった。


「昔のゆーくん、覚えてる? 困ってる人がいたら放っておけなくて、いつも誰かに手を差し伸べてた、あの頃のゆーくん」

「覚えてるっちゃあ、覚えてるがな……」


 どちらかといえば、記憶から消し去っていたという方が正しい。

 彼女の言う通り、優也は小学校高学年から中学二年生の時まで、そういう性格であった。優しい性格、と言われればそうなのかもしれないが、今思い返せば、実のところ、そうやって誰かを助けられる自分がかっこいいと思っていたから常に周りに手を差し伸べていた。

 しかしある時を境に、そんな性格も一八〇度ひっくり返り、困っている人がいても見て見ぬ振りをする、誰にも手を差し伸べない性格が出来上がった。


「あの一件以来、ゆーくん、すっかり別人みたいに、誰も助けようとしなかったから。今のゆーくん、まるで昔のゆーくんに戻ったみたいで、私、嬉しいんだ」

「つっても、一人に手を差し伸べたくらいだろ。昔の俺からすりゃ、全然比べもんになんねぇって」

「それじゃ、今のゆーくんだから聞くけど、もし私が困ってたら見て見ぬ振りするの?」

「それは……」


 おそらく、……いや、確実に断らない。


「だから嬉しいんだよ」


 百歩譲って昔の性格に戻ったとして、それの何が珠音を喜ばせることに繋がるのだろうか。


「でも、無茶はしちゃダメだよ?」

「ああ、それは分かってる」


 彼女の言う、無茶、には二つの意味が含まれている。

 一つ、優也自身が無茶をしないこと。

 二つ、無茶な判断をしないこと。

 とくに二つ目は、優也が身をもって体験したことだ。重々承知している。


「けど、これでいいのかな……」

「後悔してるの?」

「後悔とは少し違うな。俺が人助けをしなくなったのは、自分への戒めってのもあるが、第一にあいつへの償いなんだからさ。こんなことしていいのかなって」

「それなら大丈夫。あの子も喜んでるよ」

「なんで言い切れんだよ」

「ゆーくんは知らないだろうけど、私には自慢してたんだよ?」

「俺が人助けしてたことをか?」

「うん」


 珠音は嘘を言う性格ではない。だから、そのことは本当なのだろう。

 優也は、雲一つない空を見上げ、彼女の喜んでいる顔を思い浮かべた。


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