27話 称号を手に入れました
「しかし、くじを引くとなったら、まず抽選券を貰わねぇとな」
「千円で一枚っていってたよね?」
「ああ。ここの紙によりゃあ、税込千円みたいだな」
その点、抽選券は貰えやすいと言えるだろう。
そんなことを考えていると、横に立つひなこが小首を傾げた。
「ぜい、こみ?」
「…………」
まあ、考えてもみれば、ひなこが税込というものについて理解しているわけがなかった。
「税込なあ、税込……」
しかし困ったことに、優也も人に教えることができるほど、税込、というものについて理解していない。とくに、そういう政治経済とか社会科の授業は苦手だ。
「税金ってわかるか?」
「ううん。わかんない」
ですよね。
「買い物すると、消費税っつう税金を国に払わなきゃなんねぇんだ。それを計算してないが税抜金額、加えたのが税込金額だ」
「なんで国にお金を払うの?」
「税金にはたくさんの種類があるが、そんなんで納めた金で、国はいろんな政策をしてんだ」
「お金って、どこが作ってるの?」
「? よくは知らねぇけど、結局は国じゃねぇのか」
「だったら、作ったお金で、いろんなことしたらいいのにね。なにも、みんなからお金を集めなくても」
「ま、まあな」
その点については色々な問題があるのだ。金を作れば作るほど、逆に金の価値がなくなってしまうなど。しかし、これについては話さなくてもいいだろうし、なにより優也自身が説明できない。
「税金とかについちゃこの辺にして、話を戻すが、なにで抽選券を貰うか、だ」
「それだったら、わたしにいい考えがあるよ?」
「なんだ? ちなみに、飲食代は対象外らしいぞ?」
「………………」
胸を張った体勢のまま、無言になるひなこ。
「図星ってか」
「な、なんでわかったの⁉︎」
「なんで、つってもなぁ……」
ぐぅぅ…………、と。
誰の腹の虫が鳴いているのかは考えるまでもない。
「言わなかったが、さっきから何回か鳴ってるだろ」
「えへへ。ばれてた?」
「横にいるからな」
今ほど周りに聞こえるような音ではなかったが、隣に立つ優也には聞こえていた。
「抽選券は貰えんが、先になんか食うか?」
「ううん。さきに抽選券を貰うよ」
「いいのか?」
食うことが好きな彼女にしては珍しい。
「うん! 狙うは焼肉だよ!」
なるほど。そういうことか。
燃えたぎる炎を瞳に宿しているあたり、本気で彼女は三等のA5ランクの黒毛和牛焼肉セットを当てるつもりでいるらしい。
優也として当ててやりたい気持ちは山々だが、こればかりはどうしようもない。彼女が言う、強運というやつに頼るしかないのだろう。
「我慢すんのはいいが、途中で腹減ったから動けんとか言い出すなよ」
「大丈夫だよ。わたしはがまんできる子だからね」
「どの口が言うんだか」
「口じゃないよ。お腹が言ってるんだよ」
「そうだな。ひなこの腹の虫は正直だからな」
「そうだよ。わたしは正直者だからね」
なにやら勘違いをしているひなこは放っておいて、優也は話を戻す。
「まあ、なんか買わねえとな。なんか欲しいものはあるか?」
「わたし? わたしはないよ? 優也くんは?」
「俺もないな」
…………………………。
だったら抽選券も貰えないわけで。
「………………」
優也は、視線をひなこの下から上へ。
「な、なに優也くん? …………ま、まさか、わたしを脱がそうと⁉︎」
「なわけねぇだろ!」
とんでもな勘違いをするなよ!
「だって優也くんは、服脱がし魔、だから」
「変な称号を付けるなっ!」
いつまでそのネタを引きずるつもりなんだ。
「そういう意味で見てたんじゃねぇよ」
「違うの?」
あたかもそれが当たり前のように、どうして真顔でクエスチョンを浮かべるんだよ。
「ひなこの着てる服な」
「服?」
ひなこは視線を自身へと落とした。
少し幼い、可愛らしい服装。そんな、彼女が今着ている服は、優也が貸したものである。
勘違いされる前に言っておくが、決して優也の趣味ではない。昨日彼女に貸した寝間着と同じく、それは家にあったものだ。
「服がどうかしたの? やっぱり脱がそうと……」
「ちげぇよ!」
てか、しつこい。
「どうかしたっていうか、ひなこ、服持ってないだろ?」
「? 持ってるよ? ほら、優也くんが家で洗ってくれた服が」
それは、彼女と出会ったときに着用していた服だ。
「あれ以外で」
「うん。ないよ。研究所の部屋にはあるんだけど……」
「え……、じゃあ、なんでこの間持って帰らなかったんだ?」
「ん? ……たしかに! いわれてみればそうだね!」
「…………」
いや、その時に気付けよ。写真よりも重要だろ。
「……まあ、今はそれはいい。どうせなら、服買ったらどうだ? 俺だって貸せる服は限られてるんだしさ」
彼女の体格に合った服がたくさんあるわけではない。むしろ、合わない服の方が多いかったりする。
「でも、わたし、お金ないよ?」
「俺が払うから構わねえよ」
「え⁉︎ いいの⁉︎」
「いいよ」
彼女を誘ったのは自分なんだし。それに、ひなこが金を持っていないことぐらい、考えなくとも分かっていた。
「それじゃあ、目的地は服屋さんだね!」
「そうだな」
「れっつごー! だよ」
女性物の服を扱う専門店があるのは、二階と三階だ。
優也は、近くのエスカレーターへと足を向けた。
「ふふ〜ん。どんな服を買おうかなぁ〜」
その隣では、楽しそうに想像を膨らませるひなこがいた。




