24話 街案内という名の
門番遥と別れ、優也たちは自分の家へと戻ってきていた。
まずはじめに飛び出した話題は、もちろんこれである。
「でも、ほんとにびっくりだよ。優也くんに、そんな力があったなんて」
「『石裂き』っつう能力らしいぜ。研究所にあった書類によれば、『美少女』が持ってる異能力とは違うんだってよ」
「それじゃあ、優也くんは、きっすいの超能力者ってことなのかな?」
「まあ、そうなるわな」
人はよく、魔法だ超能力だと超常的な力を欲するが、それを手にしたらしたで、自分自身が恐ろしく感じてしまうものである。
ひなこの力になれる点を除けば、はっきり言って嬉しくない。
「そういや、書類で見たんだが、俺のこの能力みたく、『結晶』を『美少女』から取り外せる『石拾い』つう異能力を持った『美少女』がいるらしいぜ? 紫雲れんげ、とか書いてあったかな」
「紫雲れんげちゃん?」
「知ってるのか?」
「ううん。知らないよ。ただかわいい名前だなぁって思って」
なんじゃそりゃ。
「知らねぇか……。仲間にできりゃいいかなって考えてたんだが」
「今日行ったところにいればいいけど、他の場所に所属してる子かもしれないから」
「他の場所って……。研究所って支部みたいなのかあんのか?」
「うん、あるよ。日本にいくつか。今日行ったのが、研究所の本部だね。海外にもあるって聞いたことあるよ」
「おいおいマジか……」
そんな話は初耳だ。
つまり、優也が考えていた『石裂き』の力を使って『美少女』を次々と人間へ戻して計画を破綻させるという計画を実現させるには、海外の『美少女』にも会わないといけないということで。
「でも、これで、色々な謎に説明がつくな。研究所が笹木を使って俺に『美少女レンタル』のことを教えたのも、俺が笹木のことを覚えてるのも、俺がはなから結界に入れたのも」
「そうだね。ぜんぶ、最初から研究所が仕組んだことだったってことだね」
「ああ。……でも、ひなこと出会えたこと、これは運命だったんじゃねぇかな」
そんな気取ったセリフに、ひなこは小さく笑った。
「どうしたの、優也くん。らしくないよ?」
「うるせえ」
たまには格好付けさせろってんだ。
まあ、言った言葉を思い返せば、頬に熱を覚えてしまうのだが。
「というか、ここで、俺がひなこの『結晶』に触れりゃ、ひなこを人間に戻せるってことだよな」
「たしかにそうだね。でも、だめだよ?」
「なんでよ。人間に戻りたくねぇのか?」
「もちろん戻りたいよ。でも、わたしが今普通の人に戻っちゃったら、みんなを助けられなくなるもん。それはだめだよ。わたしが人間に戻るのは、『美少女』のみんなを人間に戻せたあとだよ」
「まあ、言われてみりゃな」
ここで、ひなこを人間に戻してしまえば、彼女は異能力を使えなくなる。げんに、『結晶』を失った門番遥は異能力を使えなくなっていた。そうなってしまえば、研究所に対抗する術すら失われてしまう。
しかし、ひなこの言う通り、『美少女』全員を人間に戻してからひなこを人間に戻すのだとして、それはいったい、どれだけ先のことになるのだろうか。
「ひなこは、ほんとにそれでいいのか?」
「うん? なにが?」
この質問は愚問だ。
彼女の答えはイエスだと、聞かずとも明瞭である。
「いや、なんでもねぇや」
どうして、そこまで、他人に対して本気になれるのか、優也は不思議で仕方がなかった。
だが、その答えを優也は聞こうとはしなかった。その答えもまた、明瞭であるからだ。
「しかし、また振り出しだな」
「振り出し?」
「『美少女』を人間に戻す方法だよ。研究所にあるかもしれねぇ『結晶』を管理してるシステムを破壊するって計画があったろ」
「うん。われながら名案だと思うんだよ」
「残念だが、今となっちゃ愚案だな」
「ええー! どうして?」
「どうしても、こうしても、今日、研究所に入れてすらなかったじゃねぇか。門番の話じゃ、俺らのいたとこは二重になってる結界の一つ目らしいしな。あそこじゃ、肝心なシステムなんて破壊できんだろ」
「うぅ……、名案だったのにな……」
「言っとくが、それを台無しにしたのは、ひなこ自身だからな」
「うっ、それを言われると……」
内側の結界に入るためのカードキーさえ無くさなければ、実現も夢ではなかったのだから。
「つっても、そのおかげで『石裂き』つう能力に気づけたわけだし。まあ、結果オーライなんじゃねぇか」
「そ、そうだよ! それがあるよ!」
「なんだよ急に」
「優也くんの『石裂き』の力を使えば、『美少女』のみんなを人間に戻せるよ! これこそ名案だね!」
「残念だが、それこそ愚案だな」
「ええー‼︎ なんで? どうして?」
その案ならば、とうの前に優也が思いついていた。しかし、それを叶えるには、難点が一つある。
「『美少女』は外国にもいるんだろ。こう言っちゃなんだが、さすがにそこまでは俺も付き合えんぞ」
「そっか……」
彼女の残念がる顔を見たくはなかったが、こればかりは譲れないことだ。
「ひなこが落としたっつうカードキー、どこで失くしたか覚えてないのか?」
「わかんない。でも、優也くんと初めて会ったときは、まだ持ってた気がするよ?」
「あん時か」
それは、優也がひなこのことを泥棒だと疑っていた頃だ。いや、正確には泥棒で間違いない。人ん家の冷蔵庫をあさって、無断で食料を食べたのだから。
もうずいぶんと前のことのように感じられるが、あれは、まだ一昨日の出来事なのだ。あの時は、まさか今のような状況になるとは考えもしなかった。
「俺から逃げた後、どこ行ったか思い出してみろよ」
「そんなのムリだよ。だって、追っ手から逃げるのに必死だったもん。どこ通ったなんか覚えてないよ」
「それもそうだよな……」
特に、ひなこはこの街に住んでいたといえど、研究所の中で暮らしていたという。土地勘はないと言っていいだろう。
「……街の案内でもするか」
「いきなりどうしたの?」
「いや。これから何をするにも、この街のことを知らねぇのは困るだろうと思ってな」
「たしかに。でも、この街って広いんじゃないの?」
「まあ、それなりにはな」
なんて言ったが、市内全部を見て回ろうと思えば、一日、二日じゃ全然時間が足らないだろう。
「だから、ひなこが行きたいとことかないのか? 明日は、そこを案内するって感じでどうだ?」
「それでいいよ?」
「じゃあ決まりだな。あんま気にしてなかったかもしれんが、どっか気になった場所とかあるか?」
「あるよ」
「即答だな」
「一回近くを通って、ずっと行ってみたいって思ってたからね」
「どこだ?」
「うーん。場所はわかんないけど、おっきい建物だよ?」
「大きい建物て……」
思いつくだけでも、いくつあるだろうか。
「他に特徴とかないのか? 何色の建物だった、とか」
「色はね、覚えてないけど、いっぱい人が入っていってたよ。なにかのお店なのかな?」
「店?」
この街で、大きな店といえば、何店舗かあるが、一番有名で大型なのは、
「もしかして、ステラか?」
「すてら?」
「ああ。この街じゃ知らねぇ人はいないってぐらい知られてるショッピングモールだな」
「しょっぴんぐもーる?」
そこからの説明でしたか……。
「……簡単に言やあ、いろんな店が集合した建物ってことだ」
「へー、はじめて知ったよ。でもたしかに、そのステラっていうところで合ってるのかわからないけど、一つのお店って感じではなかったよ」
「なら可能性はあるな」
とはいっても、この街にショッピングモールは複数店存在する。ステラではない可能性も、十分にあり得るわけで。
「まあ、行ってみるかステラに。間違ってても、街案内の一つにはなるだろ」
「そうだね。わたしも、そのショッピングモールっていうのが、どんなとこなのか気になるし」
「ま、明日のお楽しみだな」
間違っていても問題ない。彼女が楽しんでくれれば、それだけで、優也は満足であるのだから。




