21話 彼女の役に立てる喜び
危険から遠ざけるために逃がした優也が、今どうしてここにいるのか。
「捕まりに戻ってきた、というわけではありませんよね?」
「あいにくだが、俺は捕まる気はねぇし、ひなこも捕まえさせねぇよ」
「とはいっても、どうするのですか? 石崎優也さん、あなたでも私は倒せませんよ?」
「確かにな。俺ら一人一人じゃ、あんたは倒せない。それに、なにも倒さなくたって、他にも方法はあんだろ」
そうこう話している間に、ひなこが優也のそばへ駆け寄ってくる。
「なにか策があるの? 優也くん」
「まあな。つっても、確実かどうかはわかんねぇが」
なんせ、敵である研究所から得た情報。しかし、本来優也に見られるはずのない書類であったこと、そこに書かれていたことに心当たりがあったから、優也はそれを信じることにした。
もしも、この方法が失敗した時、ひなこが『美少女』を相手にできない以上、優也とひなこは研究所に捕まってしまうだろう。
「どんな方法なの?」
「あんま詳しくは話してられねぇが。ひなこにも手伝ってほしいことがあんだ」
「なに?」
「門番の動きを止めてほしい。少しでいいんだ。できるか?」
「うん。なんとかやってみるよ」
「あと、門番の『結晶』ってどこにあるか知ってるか?」
「『結晶』?」
この計画で、最も重要となってくる情報だ。これがあるかないかで、ずいぶんと遂行までに手間がかかってしまう。
「たしか、わたしと一緒で胸元だったと思うよ」
「胸元、か…………」
それはそれで想定外。
悪影響なく『結晶』を破壊できる能力『石裂き』を優也が持つという研究所の情報を信じて、門番の『結晶』に触れて破壊する計画を立てていたが、門番の『結晶』が胸元にあるという現実を前に、優也は一瞬、計画の実行を迷ってしまう。
「優也くん? どうかしたの?」
「……い、いいや。なんでもねぇ。さっき言った通り、ひなこは門番の動きを止めてくれ」
しかし、これも彼女の力になるためだ。
「悪りいな、門番、待たせちまって」
「いいえ。私も有効活用させていただきましたから」
「有効活用?」
それに答えたのは門番ではなく、優也の前に現れたゴーレムの姿だった。前だけではない。後ろにも。合計五体のゴーレムが優也たちを取り囲んでいた。
なるほど。有効活用とは、このことか。
「まずは、このゴーレムを片づけるね。優也くんは…………って優也くん⁉︎」
戦闘態勢に入ろうとしていたひなこが驚くのも当然。なぜならば、優也もひなこと並んでゴーレムと対峙していたからだ。しかも、その手には、まるで警棒のような鉄製の棒が握られている。
「ゆ、優也くん、なにする気なの⁉︎」
「なにする気って、見てわかんないか? 俺も戦うんだよ」
「そんな、無茶だよ!」
「無茶でもな、男にはやらなきゃならねぇ時ってのがあんだよ。それになーー」
これが最も優也を決意させた気持ちだ。
「もう、しくじらねぇって決めたんだ。今度こそ、ちゃんと守り抜くってな」
「優也くん……」
その言葉の意味は、きっと、ひなこには理解できなかっただろう。でも、優也の固く決められた心は伝わったらしい。
「そんなわけだ。まあ、足手まといにならねぇよう頑張るさ」
「危なくなったら叫んでね。助けにいくから」
「そん時は頼むわ」
努力するだけで、正直足手まといになるだろう。ひなこ一人で倒したほうが効率がいいに決まっている。
それでも、なにもせずに後ろでただ見ているだけなのは嫌だった。
優也が担当するは、門番とは反対側に現れた二体のゴーレムだ。
「さあ、どっからでもかかって来やがれ。さっきまでの俺とは一味も二味も違うぜ?」
そんな挑発をしたからか、ゴーレムは咆哮をあげると、二体同時に突っ込んできた。
「おい待て待てそれは聞いてねぇぞ⁉︎」
こうなれば、やけくそに。
優也は、手に装備していた鉄の棒を横一直線に払った。
すると、不思議なことに、棒はゴーレムの体をすり抜ける形で通過した。そして、棒が通り抜けた二体ともが、その動きを止め、瞬間、岩や砂へ、元の姿へと崩れ去った。
「? なにが起こったんだ?」
突然の出来事に、張本人の優也は戸惑いを隠せない。
それは、背を任せていたひなこも同じらしく、刀を構えながら、驚きを表情に浮かべていた。
「す、すごいね、優也くん。なにをしたの?」
「さあ……。俺にもさっぱりだ」
一つ言えることは、襲いかかってきたゴーレムは倒せたということだ。
「そっか。じゃあわたしも頑張らないとね!」
ひなこは七星を握り直し、三体のゴーレムも対峙する。
そして、静かに一息深呼吸。
「てやッ! はあッ! たあッ‼︎」
すべて一斬りで、三体とも、真っ二つに斬り去った。
「ひなこ……。お前、普通に戦えば、門番に勝てんじゃないのか?」
「それはないよ。でも、なんでだろうね。優也くんと一緒だと、もっと強くなれる気がするよ!」
「そうか」
ならば、それはとても嬉しいことである。ひなこの隣に立つには、きっとまだまだ時間がかかるだろう。でも、それは、少しでも、彼女の力になれているということなのだから。




