153話 度が過ぎたチャンバラ
早飲み対決でカメリアが168戦168勝となったまま、本日すべての授業が終わった。
そして今ここは、結界の中。
教室に立つ優也の前には、カメリアと凌霄葉蓮が睨み合っている。
もちろん三人以外の人は、ここにはいない。時刻的にも放課後である為、学校に残っていたとしても部活動に励む生徒ぐらいだろうか。とはいえ、彼らも結界の中では存在できないが。
対峙する彼女らの、一方の手には鋭く光る一本の剣が、もう一方の手には掃除用具のほうきが持たれていた。言うまでもなく、前者が凌霄葉蓮、後者がカメリア・フルウの持つ武器である。
なんともまあ不釣り合いな光景なのだろうか。
カメリアが『美少女』でない故の対処なのだろうが、戦うならもう少しまともな装備はなかったのだろうか。
(ま、凌霄葉蓮も本気でカメリアを殺しに来てるんじゃねぇし、これはこれでいいけどさ)
優也なりに感じ取れる範囲で、彼女から殺意は感じない。
彼女らにとって、言わばこの戦いは、男子中学生がマンガやアニメに憧れて友達とチャンバラしてるのと同じなのかもしれない。
「さあ、どっからでもかかってきなさい」
武器を構え、相手を挑発するカメリア。ほうきだけど。
「敵に情け無し」
最早一瞬のこと。凌霄葉蓮は、カメリアの目の前へと移動していた。
「もらった——ッ‼︎」
「甘いわね」
笑みを浮かべ、剣を振り上げる凌霄葉蓮の脇腹を、すでにカメリアの持つほうきの柄が射止めていた。
「甘いのは貴様だ、カメリア」
それを、器用に上半身を反らして、凌霄葉蓮は回避。そのままバク転の要領で、カメリアの顎を蹴り上げようとする。
「戦いは一手先の先を読むことが勝利に繋がるのよ」
カメリアは振り切っていた腕を、凌霄葉蓮の全体重を支えていた両腕に目掛け引き戻した。
「ならばこの勝負、余の勝利だ」
凌霄葉蓮は不敵に笑う。
それを見て、カメリアはあることに気がつく。それは凌霄葉蓮の手に、さっきまで持たれていた剣がないこと。バク転に紛れて、剣を仕舞っていたらしい。
つまりこれは凌霄葉蓮の罠。彼女の方が一手先を読んでいた。まんまとカメリアは引っ掛かってしまったのだ。
蹴り上げていた足の裏に、幾何学模様をした魔法陣が浮かび上がる。
「しまっ⁉︎」
このまま凌霄葉蓮の手を払い除け切ることも、だからといって避けるも間に合わない。
「くっ——」
最大限、防御に徹するが、
「——ァッ‼︎」
凌霄葉蓮の風属性の異能力をまともに喰らったカメリアは、大きく後方へ投げ飛ばされる。
足から放たれた異能力の反動で凌霄葉蓮の手が床にめり込んだことが、その威力を物語っていた。
「カメリア!」
「手助けは……不要よ」
ぶち壊された隣のクラスとの壁の奥から、砂埃を払い除け、カメリアが姿を見せる。
多少傷を負っているように見えるが、それほど負傷している様子はない。そしてその手には、壁のコンクリートを支えていた鉄の棒が握られていた。
「流石は余の宿敵。この程度でくたばられては拍子抜けというもの」
魔法陣の中から剣を取り出しながら、凌霄葉蓮は、そこに立つライバルと対峙する。
「少しは昔の感覚を取り戻したんじゃない」
「元より全力を出していなかっただけ。余の内に秘めし力を解放すれば、貴様など造作も無い」
「そう。なら、さっきので本気を出しているべきだったわねッ!」
その言葉の意味を理解させるより前に、カメリアは跳び、迎え討つ凌霄葉蓮に剣を構えさせた。
金属同士がぶつかり合い、甲高い音が鳴り響く。
「今さらこの程度で余を負かせると?」
凌霄葉蓮はカメリアの武器を弾き返すと、剣を虚空へ仕舞った。
「終わりだ、カメリア」
右手を突き出して、力を溜める。サッカーボールほどの風を纏った球体が出来上がり、その波動は優也のもとまで伝わっていた。
球体とカメリアとの距離、ほぼゼロ。
だというのに、それでもカメリアは余裕の笑みを浮かべていた。
「終わるのはあんたよ、凌霄葉蓮。言ったでしょ、先を読んだ人が勝つって」
瞬間、凌霄葉蓮の手元がブレる。否、軸としていた両足がブレたのだ。
「なっ——⁉︎」
あくまでも手には力を込めながら、凌霄葉蓮は足元に視線を落とせば、立っている場所を基点として半径三メートルほどに渡り床がひび割れていた。
先のカメリアへの一撃の際に、すでに床がもろくなっていたのだ。そこへ二度目の圧に耐えることができなかった。
決壊してしまう床。カメリアは間一髪地を蹴るが、その崩落から、凌霄葉蓮には抜け出す足場が残されていなかった。
崩れ落ちる瓦礫の中に飲み込まれていく凌霄葉蓮。
「けどやっぱり、まだまだ鈍ってるわね」
一フロア下へ消えていった彼女を見ながら、カメリアはそう呟いた。
「勝った……のか?」
恐る恐る穴から下を覗きみれば、そこには山のように積み上がる元床の残骸ばかりだった。
あの中に人がいると考えると、
「……死んでたり、しないよな……?」
「こんな程度でくたばるほどやわじゃないわよ、あいつは」
そう言うと、カメリアは穴から下の階へと飛び降りた。そして瓦礫に向かって手を差し伸べる。
「ほら、さっさと出てきなさいよ」
まるでその言葉を待っていたかのように、瓦礫を押しのけて現れるは一本の腕。カメリアはその手を掴み、引き上げた。
「流石は余の宿敵。見事であった」
「なんであんたが偉そうなのよ」
「あうっ!」
まるで弟子の成長を見た師匠の様。まあ、そんな弟子が師匠の頭にチョップを喰らわせていたが。
「けど、珍しく負けを認めるのね」
「否、此度の決闘で、余には勝機が見えた。故に170戦目は必ず勝つ」
「へえ、えらく自信あるじゃない。いつでもかかってきなさい。受けて立つわ」
169戦目も、カメリアの勝利。
二人の間には、ライバルの関係を超えた友情のようなものが見えた気がした。
(にしても……)
教室に残された争いの爪痕を見ながら、優也は思う。
チャンバラにしちゃ、度が過ぎるのではないだろうか……。




