149話 またしても、転入生
本日のホームルームは、担任からの思わぬ言葉から始まった。
「今日は、正確には今日も、転入生を紹介します」
教室がざわめき始める。
「はい! みんな静かに! 正直、先生も驚いていますが、新しいクラスメイトを不安にさせないように、笑顔で迎えましょう」
担任からのその一言に、全員とは言わないが、ざわついていた教室が、少し静かになった。
そんな中、冬野が控えめに後ろを振り返る。
「優也君」
「なんだ?」
「二日続いて転入生なんて。珍しいこともあるんだね」
「そうだな」
まあ、そのうち前者は、転入生を装った、別の目的で入学してきた生徒であるが。
「あと冬野」
「ん?」
「私語してっと、あの担任の獲物になんぞ」
「そっ、そうだよねっ。前向いてよ……」
と、視線を変えた先に、
「冬野くん」
「ひぃっ⁉︎」
冬野を見下ろす担任の姿があった。
さすがは彼女。普通ならば気が付くはずなのに、優也の視界に入っていながら、彼にそれを気付かせなかった。
今まさに、担任が銃の引き金に指をかけて、
「た、食べないでくださいぃ!」
「な、なんの話をしているんですか⁉︎」
「……あれ? 食べないんですか……?」
「食べないですよっ!」
獲物を仕留めるはずだったのだが、思ったより担任の表情は、冬野の意味不明な発言に戸惑いの色こそあるものの、穏やかであった。
「優也君?」
「おい俺を見るなよ」
話が違うってか?
獲物になるとは言ったが、なにも担任のことを狩人とまでは言ってないぞ。そもそも、このタイミングで見られたらまるで諸悪の根源が俺にあるみた
「石崎くん……」
「はいぃっ⁉︎」
「先生のこと、どう思っているんですか?」
「もうそれはそれは美人でスタイル良いし人当たりも良くて内面的にも最高だなって何よりどの生徒からも慕われているというのが教師の鏡であり世の全ての教師は貴女様の事を見習うべきだと思いますッッッ‼︎‼︎‼︎」
「…………」
ねえ、なんか言って? 無言怖い。せめてなんか言って?
「……冬野君」
冬野じゃなくて、俺になんか言って?
「小坂井先生が呼んでいましたよ。ホームルーム始まる前に伝えるはずだったんですが、すっかり忘れてしまっていて」
「あ、それじゃあ……」
「今から行ってきてください。転入生のことは、後からカメリアさんにでも」
……ねえ、俺は?
「わかりました。すいません、先生」
「いえ、こちらこそ。遅くなってすみません」
慌てた様子で教室を出てゆく冬野を見送って、担任は教卓の定位置へと戻った。
なにか間違えたことでも言ってしまっただろうか。まあ少し脚色して言ったことは事実だが、全部嘘ではない。
それはそうとして。
「なあ、カメリア」
「…………」
「カメリア?」
聞こえてなかったのか、返事が返ってこなかったので後ろを見てみれば、なにやら不機嫌そうな顔をしてカメリアも優也を見て、いや睨んでいた。
「な、なんだよ?」
「別に。なんでも」
「なんでもないことないだろ。明らかに機嫌悪いじゃねぇか」
「なんでもないったらなんでもないの。それで、なんか用?」
なんか納得いかないが、まあいいか。
「まさか、転入生って、カメリアの差し金じゃないよな?」
「あたしはなんにもしてないわよ。あと、差し金って言うのやめなさいよ。まるであたしが悪人みたいじゃない」
「悪かった」
正当な理由なく、不当な手続きで入学するのは、十分悪人であると思うんだが。
それにしても、連続で転入生が来るっていうのは大した確率である。
「それでは入ってきてください!」
担任の合図とともに、
——バンッ! と
一気に、教室のドアが開け放たれる。
「えらく乱暴な開け方だな」
思わず漏れ出た心の声。
相当小声だったから誰にも聞こえていないだろうが、念のため何気なく周りの様子を伺って、
「……あれ?」
そこには誰もいなかった。




