アタシの濃いめの家族
「おっじゃましま~す!」
「あら、イケメン」
「アンタがカルー姉ちゃんの彼氏~?物好きだね~~」
「ひゅう♪すげぇ美人!」
「お前かぁ!ワシの可愛いカルーちゃんをたぶらかした不届き者はぁ!」
あああ、やっぱりだ‼
止める間もなく来てしまった!
突然その場に現れた、見馴れすぎた5つの顔に激しく脱力する。父ちゃんと母ちゃんと、まだまだヤンチャな三つ子の弟たちだった。
やっぱりね。父ちゃん達の事だから、飛び石くらい持ってるんじゃないかと思ったんだ。
父ちゃんも母ちゃんも、今はここにいないアタシの双子の兄ちゃんも、拠点は別々の街だけど結構名の知れた冒険者だ。お互いどこにいるのか定かじゃないからこそ、いつもおしゃべり石で連絡を取り合っていたりする。
アタシが結婚したいなんて言ったら、アタシを超可愛いがってる父ちゃんなんか絶対に飛び石使って、速攻で転移してきちゃうんじゃないかって予想はしてたけどさ……。
ああ!
ていうか父ちゃん!クラちゃんの胸ぐら掴むの止めて!
目を白黒させているクラちゃんから馬鹿オヤジを引き剥がし、クラちゃんを背中に隠してアタシは小さく唸り声を上げる。いくら父ちゃんだって、クラちゃんに乱暴なんかさせないんだから!
「か、カルーちゃんがワシに向かって牙をむいて唸った……」
父ちゃんは、糸が切れたようにヘナヘナとその場に座り込んでしまった。熊みたいにでっかくてゴッツイ身体が、なんだか小さく丸まって見える。あ、父ちゃんの剛毛しっぽでも、ちゃんとシュンとするんだなぁ。
「お前さんがカルーの大事な人に無体な事するからだよ、馬鹿だねぇ」
「やーいやーい」
「バーカバーカ」
「くーまくーま」
母ちゃんの容赦ないコメントにかぶせるように、息が合った様子で囃したてているのは年の離れた弟たちだ。父ちゃんだけでも充分めんどくさいのに、なんでアル、ルル、メルの三馬鹿まで連れて来ちゃったんだよ母ちゃん……!
あ、ほら、早速父ちゃんから三人揃ってきっついゲンコツ貰っちゃってるし。めっちゃ痛かったんだろうなぁ、今度は三人揃って大泣き、騒音レベルの泣き声が響き渡る。ああ、いきなり押し掛けて来てこのコンボは恥ずかしい。
アホっぽいが賑やかで底ぬけに明るいアタシの家族達は、慣れると楽しいと言って貰える自慢の家族ではあるんだけど、初対面では大概ヒかれる。前もって説明しててもヒかれるくらいなんだから、予備知識なしに会ったら絶対にドンビかれるんだ。
恐る恐るクラちゃんを見上げてみたら、案の定、無表情のままで固まっていた。
「クラちゃん、あの」
「……ああ、もしかして、カルーさんのご家族?」
「……うん。父ちゃんと母ちゃんと、弟たち」
恐縮のあまり、声にも力が入らない。うるさくって濃いけど、アタシにとっては大切で大好きな家族だ。クラちゃんに嫌な顔をされたら泣いてしまうかも知れない。
不安ですっかり元気を無くしたしっぽの先をいじいじと触っていたら、上からクラちゃんの「なるほど」と納得したような声が聞こえた。
あれ?何に納得したの?と不思議に思っていたら、その隙にクラちゃんはアタシの前にズイッと進み出てしまった。
「初めまして、クラウド・コールティアンと申します」
クラちゃんは、弟たちの泣き声をものともせず、折り目正しい挨拶をした。続いて泣きじゃくる弟たちに音もなく近寄るとあったかい塗れタオルで涙を拭きあげ、驚いてポカンとした顔で見上げるうちのヤンチャ達に、作りたてで甘ぁい幸せな匂いがするラスクをふるまって黙らせてしまった。
なんたる手腕。
あの騒ぐ事しか知らないヤンチャ達が、離れた椅子にちんまりと座り、大人しくラスクをはみはみしている!あり得ない!
「ふわぁ~、クラちゃん凄いね」
「何がです?」
ああ、通じてないっ!この事態の凄さ感が伝わらないのがもどかしい、あのヤンチャ達がいい子で座ってるなんて、超凄い事なのに!
クラちゃんにとってはどうでもいい事だったのか、すでにクラちゃんの身体はうちの父ちゃんと母ちゃんに向かっている。ちょっぴり手前で歩みを止めたクラちゃんは、おもむろに膝をついた。
「本来ならこちらから伺うべきでしたが、ご足労いただきましてありがとうございます。改めまして……」
うちのまわりじゃ滅多に聞かない丁寧な物言いに、父ちゃんは「うっ……」と呻いてちょっぴりのけぞっている。不思議、なんかクラちゃんの方がおしてる気がする。
頑張れ、クラちゃん!
アタシの心の声援が聞こえてしまったのだろうか。
「カルーさんのお父さん、お母さん。お願いします!カルーさんと結婚させてください!」
勢いよく土下座したクラちゃんは、ハッキリとそう言ってくれた。しかもクラちゃんから出たとは思えないでっかい声で。
思わず感動してから、ハッと我にかえる。
「クラちゃん!なにも土下座しなくても!」
拝み倒す勢いでプロポーズしたのはアタシなのに!
焦ってそう言えば「え?でもカルーさんも俺の養父母に土下座してくれたでしょう」と真顔で返された。
そりゃあそうだけど。
「じゃなくてクラちゃ……」
バキィィッッ
アタシの声を遮るように、不吉な音がした。
「今何つった……?てめえ……ワシの可愛いカルーちゃんに、土下座なんざさせやがったのか……?」
振り返ると、全身から湯気がでるほど怒りまくった父ちゃんが。表情が抜け落ちて眼だけが異様に光っている。ここまで怒った父ちゃんは、アタシでもなかなか見たことがない。
あまりの怒りオーラにアタシでも足が震える。
父ちゃんの目の前のテーブルは、無惨にも叩き折られていた。




