番外三話 二月二十五日
二月二十五日。
その日も、いつも通りアラームで起きた五奇は、ゆっくりとベッドから上半身を起こして伸びをする。おおきな欠伸をすると、頭を掻いた。
(あぁ、もうそんな時期か……)
「……時の流れって、怖いな……」
独り言を呟くと、五奇は着替えを始めた。今日は珍しく任務がない、オフの日なのだ。
「……いつもと、変わらない……か」
少しだけ寂しげな声を漏らすと、着替えを終えて部屋を出た。
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「五奇ちゃーん、ハピバっス~!」
リビングに着くなり、等依にそう声をかけられた。五奇の頬が少し赤く染まる。
「えっ? 等依先輩……いつの間に、俺の誕生日を? あ、いや、そうじゃないな。ありがとうございます!」
「いやいや~? いーんスよ! ま、祝い事は大事にねーん?」
等依の言葉が胸に沁みる。
(嬉しいな……。うん、嬉しい。父さんがあんな事になってから……友達とは疎遠になったし)
「……おい。入口でんなことしてねぇーで、中にいれろや!」
鬼神の声で、等依が頬を搔きながら五奇を中へ通す。テーブルを見れば、「ハッピーバースデー五奇」と書かれた苺のホールケーキが置かれていた。
すでに椅子に座っていた空飛が手招きをするのが見えた。
「五奇さん、五奇さん! こちらへお座りになってくださいませ! 今日の主役は五奇さんでございますゆえ!はい!」
笑顔の空飛につられて五奇も思わず笑みがこぼれる。
「……はよ座れ。歌って、ロウソク吹き消して……そんで、最後はプレゼントまでが誕生日だろうが」
態度こそ悪いが、言葉に棘がない。その事に気づいた五奇は、ますます嬉しくなった。
(あぁ……父さん、母さん。俺、いい仲間に巡り合えたよ)
うっすらこぼれそうになる涙を抑え、五奇が席に座ると、等依、鬼神、空飛の三人が歌い出した。
五奇の誕生日は始まったばかりだ。




