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番外三話 二月二十五日

 二月二十五日。

 その日も、いつも通りアラームで起きた五奇(いつき)は、ゆっくりとベッドから上半身を起こして伸びをする。おおきな欠伸をすると、頭を掻いた。


(あぁ、もうそんな時期か……)


「……時の流れって、怖いな……」


 独り言を呟くと、五奇は着替えを始めた。今日は珍しく任務がない、オフの日なのだ。


「……いつもと、変わらない……か」


 少しだけ寂しげな声を漏らすと、着替えを終えて部屋を出た。


 ****


「五奇ちゃーん、ハピバっス~!」


 リビングに着くなり、等依(とうい)にそう声をかけられた。五奇の頬が少し赤く染まる。


「えっ? 等依先輩……いつの間に、俺の誕生日を? あ、いや、そうじゃないな。ありがとうございます!」


「いやいや~? いーんスよ! ま、祝い事は大事にねーん?」


 等依の言葉が胸に沁みる。


(嬉しいな……。うん、嬉しい。父さんがあんな事になってから……友達とは疎遠になったし)


「……おい。入口でんなことしてねぇーで、中にいれろや!」


 鬼神(おにがみ)の声で、等依が頬を搔きながら五奇を中へ通す。テーブルを見れば、「ハッピーバースデー五奇」と書かれた苺のホールケーキが置かれていた。

 すでに椅子に座っていた空飛(あきひ)が手招きをするのが見えた。


「五奇さん、五奇さん! こちらへお座りになってくださいませ! 今日の主役は五奇さんでございますゆえ!はい!」


 笑顔の空飛につられて五奇も思わず笑みがこぼれる。


「……はよ座れ。歌って、ロウソク吹き消して……そんで、最後はプレゼントまでが誕生日だろうが」


 態度こそ悪いが、言葉に棘がない。その事に気づいた五奇は、ますます嬉しくなった。


(あぁ……父さん、母さん。俺、いい仲間に巡り合えたよ)


 うっすらこぼれそうになる涙を抑え、五奇が席に座ると、等依、鬼神、空飛の三人が歌い出した。


 五奇の誕生日は始まったばかりだ。

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