『売ります・買います』量産型! 聖剣エクスカリバー!
俺は、今得意先であるアーノルド=ゴルボフさんの御宅で、納品作業をしていた。今回は、冒険者となる息子さんの『晴れ舞台を祝う装備を整えたい』と相談を受け、承った品を納品しに参った次第である。
「では、決済に進ませて頂きます」
「うむ。ところで、店主よ。前々から気になっていたんだが、その鉄板は如何に?」
「あぁ……これですか? どうお伝えしたらよいか分かりかねますが、簡単に言うと魔法板でしょうかね」
「ほう、貴殿が肌身離さず使用するもの。きっと、中々に面白いものに違いない。どれ、わたしにも一つ貰おうか?いくらする?」
「あァ……すみません」
「如何した? 何か問題でもあったか?」
「いや、まぁ残念ながら在庫はこれ一つでして……私の仕事柄上、これを手放す訳にはいかないのですよ」
「そうか……なら仕方がない。貴殿の仕事を奪うわけにもいかん。ここは我が、引こうではないか。すまなんだな。困らせてしまったようだ、先のは冗談として忘れてくれ」
『何でも買取り、改良し、販売する』をコンセプトにした我が店は、ご覧の通り、魔法板を介して営業を行なっている。
原理は、どうなっているのかわからないが、ずっと昔に冒険者として重宝していた──特等スキル『転成』を使って、改良したものをベースに利用している。
※特等スキル『転成』──凡ゆる物質は、更なる進化を糧にし、生まれ変わる。加えて、物質にスキル(適正なスキルをランダム選択)を付与する。
この魔法板は、所謂──異界の電脳書物。
名を『スマートフォン』。愛称として『スマホ』でよく知られるものらしい。
このスマホは、数年前に老いぼれた爺さんが、記念に取っておいた物を無理を言って譲ってもらい、使えるように改良したものだ。
このスマホを駆使していくうちに知れたことは、3点ある。
1点目、この携帯に内蔵される『アプリ』は、スキルにより使用が可能で、我が店への納品も一瞬にして可能。
使用方法としては、欲しい商品のサイトへ出向き、ショッピングカートに入れ、配達依頼を出し、日付等の日時も場所も指定する事で納品依頼が完了となる。
その受注に伴い、時間通りに馬車のような鉄箱──『クルマ』を利用する者達が、品を配達してくれるという手筈というわけだ。
以前、一度試したことがあるが、何処で何を注文しようが、1時間も経たずにこの手に渡る。何とも素晴らしきサービスなのだろう。
2点目、スキルにより、本来であれば繋がるはずもないネットワークを構築している(Wlk○pebla参照)。
我が店は、異界の知識をふんだんに使った商品が立ち並ぶ。今回の取引の商品もまた、その一つだ。
3点目、スキルにより魔力を内蔵するバッテリーを使用する事で、半永久的に動き続ける。
このスキルについては、説明がつかん。本来であれば、電力を有する属性魔力を専用プラグに注ぎ込むことで、使用できるもの。
それを改良した魔力変換機にて、只の無害な魔力で使用可能となる。まぁ、原理はどうであれ、使えれば、説明なんてどうでもよかろう。
詰まる所、差し詰め異界の電脳書物に刻まれた知識を合算、フル活用して、産まれた店というわけになる。その要となる一つを奪われては、仕事を失ったも同然。
かといって、面倒は嫌いだ。欲しけりゃ、ネットショップを介して同じ物を仕入れすれば良い。な〜に、簡単なことではある。
だがな、この商売は、誰にも譲れない独占商業! 相手が誰であろうと譲れるものかァ!!
「お待たせしました。聖剣エクスカリバー改(スキル『パワー』付与)を一点、黒真珠の防具一式を一点の合計二点で宜しかったでしょうか?」
「うむ」
「合計、二〇銀貨頂きます」
※銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚。銅貨1枚で異界『ニ○ポン銀行』の100円に相当する。ワンランク上がる毎に価値は、10倍。
「済まん、生憎金貨しか持っておらん。お釣りを頂こうか」
「はい、金貨一枚を御預かりします。こちら、お釣りの八〇銀貨となります。そして、これが商品になります。又のご利用/来店、お待ちしておりますね」
「うむ、ところで店主。もう一つよいか?」
「はい、何でしょうか?」
「お前さんとこの営業娘達。私のスキル『予知』では、何やらやっておるようだぞ?」
「──なぁっ!?」
──時間は経過してのこと。中垣 クロナは、早急に仕事を切り上げその様子を目の当たりにした。そして、彼は防犯カメラの映像を確認していた。
中垣 クロナの店では、3人の従業員が切磋琢磨に営業を開始しようとしている。
「店長に任された以上! 私達の仕事ぶりを褒めてもらわなくちゃね」
「目標は、店長が戻るまでに金貨100枚ってどうかしら?」
「それぇ……賛成です。店も繁盛、私達の給料も上がる……万々歳です」
「よぉ〜しぃ!!! 私は客引き! 『先端』は、接客! 『成金』は、レジね!!」
「何を仕切っているのですか?」
「そうですぅ。『阿婆擦れ』が仕切るなんて聞いてないですから……!」
「この中で私が! 一番先輩なのよ! 当然じゃない! ほら、早く支度する」
「納得いかないですわ」
「納得いきませんねェ……」
彼女達成りに、店長不在の店を切り盛りする案を出し合う──此処までは、良かった。
あぁ……店内の監視カメラを見る限りではね。
「そんなまじまじと私達の仕事ぶりを見ないで下さい。いくら優秀だからって、一つ一つが未だ未熟なんですよー! 恥ずかしい」
「黙れ! お前らが起こした暴動だろうが!!? その有無を確認しているんだよ!!恥ずかしいのはお前のはだかだ!」
「えぇ……ちゃんと、絆創膏でポロリ対処しているのにぃ……」
「見せてくれるの?」
──時間は、遡ること30分。
クロナが、アーノルド=ゴルボフ宅から帰宅すると。頭を抱える自体に遭遇した。目に留まるのは、店舗の前にて大きな人だかりに大騒ぎする者たち。
耳を澄ませば、呆れた光景と共に飛び込む始末。
「ちょっと君! 猥褻行為で逮捕する!!」
「あら、私を逮捕するですって? この私を!?」
「そうだ!!! そんな裸体を晒して!!! 何の真似だ!」
「商売よ!!」
「責任者を呼べェええええ!!! こいつを止めろォおおお!!!」
「先端怖い!! 怖いです!!! 誰かァ!! この先端の付いたものを買い取って下さい!」
「分かったから!先ずは、聖剣を振り回すな!!──ッ殺される!!! 誰かァ!!」
「これおひとついかがです? 四金貨で。買わなきゃ死刑ね」
「えぇ!! 死刑!? 何の権限があってェ!?」
「私、この王都を治める王族、ヒルデガルド4世の1人娘と知っての狼藉ですの?」
「……!? そういや、何処かでみた覚えが……お前さんがあの?」
「如何にも。貴方が私に働いた無礼はよくってよ。さぁ、どれになさる? 貴方には特別破格で、ここに並ぶショーケース内をセットで、四〇金貨で譲りますわ!買わなきゃ、豚箱行きね?」
「どうしよう、全財産叩いても買えない金額だぞ……」
店は、繁盛! 大繁盛! 序でに炎上!
俺は、フラフラの足取りで、店に近づくと。
何処から引っ張り出したのか、我が店の18禁コーナー。
其れも知るも知らざるも秘蔵コレクションの一つ『マイクロビキニアーマー』で、公安の方に楯突く金髪碧眼エロバカ娘が1人。
店内の装備を揃えるコーナーでは、伝説の聖剣エクスカリバー(量産型)を振り回している頭のとち狂った黒髪童女が1人。
レジにて、笑顔で客に陳列する商品。其れも金額の数倍以上の値段を提示する、金銭狂おしい不器用娘が1人。
──と、各も然々。
頭のおかしい連中が、店外で公開猥褻行為による羞恥プレイをする事で、店の評価を下げ、おまけに公安管理の関係者に目を付けられる行為に走り、
店内では、店長の名を呼び続ける常連客が、悲痛に叫び、
レジでは、一介の冒険者が王族娘に盾ついている。
なんなんだ!? この店の状況は!!? どうやったらこうなる!?
「あっ! 店長!どうです? 私達の給料上げる気になりました?」
どうか、俺の名を呼ばないで下さい。
「あれ? 店長? 入らないのですか……?」
血塗れの聖剣を片手に如何して、冷静に居られるんだ。
「あらあら、店長さん。まだ目標金額までたっしていないのに。もうお帰りに?ちょっとお待ちになって、この方、残りの目標金額。金貨40枚を支払ってくださいますから」
──うん、頑張れ。
どうしよう。
状況を整理すると、店長の為にしてくれたことは、感謝する。
各も役割を担い、協力し合う。
目標金額を高めに設定し、努力する。
なんて、素晴らしきサービス魂。
だがな、
『お前ら炎上商法は、受け付けてないんだよ』
◇
「あれ? 金貨50枚以上あるぞ!?」
「残念ながら、目標金額には達成出来ませんでしたわ……」
どうやら、当初の予定通り繁盛していたことは間違いないようだ。
各個人として、優秀な連中。
社員になるのは、まだまだ早いぞアルバイト供。
売るも、買うも、注文/オーダーメイドも承ります中垣店!
何時からか営業開始した中垣店。寄って行って下さいね。




