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第92話 「神の戦い」


 俺がタン・ポ・ポゥと名乗った途端、見張りの魔物たちはゾッと顔色を変えた。


「ま、まさか、お前があの……」

「死を司る神、タン・ポ・ポゥ……!?」


 ……ん?


 なんだそれ、誰のことだ。


 三匹の見張りたちは青い顔でささやき合う。


「なあ、間違いないよな……、ギルドラドンさまも、ピガデスさまも、ドクターゴグさまも、さらにあのブラックマリアさままで……、死の寸前、いなくなる寸前にタン・ポ・ポゥに出会っていたという……!」

「ああ、その通りだ……。タンポポとはあの世に生者を送る花……! 皆はタンポポの船に乗って、冥界へと旅立っていったのだ……! それを行なっているのがこの神、タン・ポ・ポゥ!」

「ああっ、やめろっ、くるな! 俺たちはまだ死にたくないんだ!」


 お、おう。


 なんかものすごい扱いをされているな、俺。いつの間にこんなことになっちまったんだ。


 でもそうか、そうだよな。確かに七羅将って死ぬ寸前にみんな俺に会っているんだよな……。タン・ポ・ポゥにさ。だとしたらそんな噂がはびこるのも、無理からぬ話かもしれない。


 でもまあ、勘違いしてもらえるならいいか。白き衣をまとい、タンポポの冠を身に着けた俺は、素知らぬ顔で笑う。


「いったいお前たちがなにを言っているのかはわからぬな。それよりもきょうは、お前たち魔族に耳寄りな情報を持ってきてやったのだ」


 こんな口調だったかな。最近タン・ポ・ポゥやっていなかったからもう忘れているな。まあいいだろう。俺と直接会ったことのあるやつはいないんだし。


 俺が偉そうにそう言うと、見張りの魔物たちは怯えながら徐々に後ずさりしてゆく。


「み、耳寄りな情報だって……!? まさか『お前たちは今ここで死ぬ定めなのさー!』と言って、襲い掛かってくるんじゃ……!」

「ひい! こわい! もうこれからタンポポをみるたびに拝んでイイ水を注ぎますから! 許してください!」

「へへー! タン・ポ・ポゥさまぁ!」


 うるせえ。


 ガタガタと震える三匹の見張りたちに、俺は一喝する。


「ええい沈まれ! 【タンポポ】っ!」

『~~~~~~~~っ!?』


 するとポンッと見張りたちの前に一輪のタンポポが咲いた。見張りたちはその場にへたり込む。ビビリすぎだろう!


「私は決して争いに来たわけではない。ただ、お前たちの代表者と話がしたいのだ! いかがかな!」


 こんな夜中に騒いでいると、だ。のこのこと向こうからやってくれたものがいた。それは村の前でクルルをつるし上げていたあの狼男だ。


 ほう、向こうから大将が直々にやってきてくれるとはな。


「これはなんの騒ぎガル!?」


 狼男が辺りを睨みつけると、俺と目が合った。


 さて、こいつはどういう反応をするのか。先ほどのクルルの様子を見るだに、冷酷で残忍、人間には容赦しない性格だろうと思える。こいつをどうにかしなければ俺の作戦はうまくいかないだろう。だが大丈夫だ。そのための策は考えてきた。プランAを使うか、プランBを使うか、それともプランCか。


 さあ、どう出る? 狼男。


 緊張の一瞬だ。


 狼男は目を見開きながら、俺を指差した。そうして牙だらけの大口を開いて、叫ぶ。


「た、タンポポ神だぁああああああああああああ! うわあああああああああああああああ!」

「…………」


 腰を抜かしたようにその場にへたり込み、震える指先を俺に向けている。


 ……なんだこいつ……。


 俺はなるべく敵意がないことを証明するように、両手を広げながら穏やかな笑顔を浮かべて近づいてゆく。


「私は」

「タンポポ神だあああああああああ! 俺も殺されるんだああああああああああああ!」

「敵ではありません、あなたたちに」

「うわあああああああああ! いやだあああああああああああああ! 死にたくないいいいいいいいいいいいいい!」

「とっておきの情報を届けに」

「助けてえええええええええええ! オイラの命だけはお助けをおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「きてあげたのですよ――ってうるせえ! 【タンポポ】!」


 俺は狼男の前にポンッと花を咲かせる。するとそれを見た狼男は口から泡を吹きながら白目を剥いた。なんでだよ!


 見張りたちは俺がなにかをやったと思ったらしく――。


「あわあわあわあわガルヴォル副隊長がこんなに簡単に……」

「指一本すら触れていないのに……!」

「こわいこわいこわいこわいこわいこわい」


 三匹身を寄せ合いながら、ガタガタと震えていた。


「…………」


 なんかもう、全然計画と違うけど、このまま脅して退却させればいい気がしてきた。


「そうだ! 神殿! 神殿建てますから!」

「信仰を高めてタンポポ魔法覚えますから!」

「タン・ポ・ポゥさまが実は創造神ゼノスの現身というのは本当のことなんですよね!? なんですよね!? 俺、絶対逆らったりしませんから!」


 そんな話になってんの!?


 俺の動揺をよそに、三番目に喋った男は、ガルヴォルと呼ばれたあの狼男(急に意識を取り戻したようだ)にブン殴られていた。


「バカ野郎! タン・ポ・ポゥさまの正体を詮索しようなんて大それたこと考えているんじゃねえガル! もし機嫌を損ねたら俺たち全員生きたままタンポポに変えられるぞ!」


 なにそれこわい。


 すげえなタンポポ神、無敵じゃん……。なにその能力、俺もほしい……。


 顔には出さずに、俺はただ咳払いをした。見張り三人組+ガルヴォルは今にも土下座をしそうな勢いだ。


「とにかく、私はお前たちに忠告をしに来てやったのだ」


 いいからもういい加減に言わせろよな。イライラを胸に抑えながら静かにそう告げると、ガルヴォルが本陣を指差す。


「あっ、そ、そうです! あいつが! 俺たちの隊長がいるガル! あいつに話してやってくださいガル!」

「えっ、ガルヴォルさま、まさか隊長を身代わりに――」


 そう言った二人目の見張りもブン殴られる。


「俺はたかが下っ端の副隊長ガル! タン・ポ・ポゥさまと直接言葉を交わすだなんて恐れ多いガル! 今すぐに呼んでくるでガル!」

「ああっ、ガルヴォルさまだけ逃げる気だ! ずるい!」


 ついに三人目の見張りが殴り倒され、ガルヴォルはまるで脱兎のように逃げ出していった。


 俺はたんこぶを作ってその場にうずくまる不憫な見張り三人組を見下ろしながら、手を差し出した。


「……えと、パンでも食うか?」


 もちろん超怯えられた。俺は邪神かなにかか……。



 俺が無意味にそこらへんにタンポポを咲かせて待っていると、だ。(もちろん見張りから超怯えられている)


 のっしのっしと現れたのは、巨漢の男だった。


 いや、男と称すのは語弊があるかもしれない。なぜなら目の前の魔物もまた、半獣半人の怪物だったからだ。


 俺はこいつを知っている。また、こいつも俺を知っている。


「ほォ」


 ガルヴォルが連れてきた隊長は、長い舌をチロチロと動かしながら、俺を面白そうに見下ろしていた。


 忘れっぽい俺だが、こいつの顔を忘れたことは一度もない。


 まさか、こいつが出てくるとは……。完全に予想外だ。俺の背筋を冷たい汗が流れ落ちてゆく。


「こいつはこいつは、タンポポ神さまじゃねェか……。へェ、こんなところでお目にかかれるとはなァ」


 隊長の背に隠れながら、ガルヴォルが叫んでくる。


「た、隊長はタンポポ神さまを怒らせて、それで唯一殺されていないお方だガル! この方がいたら俺たちもなんとか生き延びれるかも……ガル!」


 ついでにガルヴォルは、クルルを連れていた。人質にできると思っているのかもしれない。意外と抜け目のない奴だ。


 クルルは俺を見てハッと目を見開いた。それでも余計なことを言わないようにと両手で口を押えていた。聡い少女である。待ってな、今助けてやるよ。


 ずん、と隊長は俺に向かって一歩足を進めてきた。こいつは俺の焦りを見抜いたような顔で、ニィッと笑った。


「お前を殺すために、俺は魔王軍に戻ったんだ。覚悟しろよ――、偽神タン・ポ・ポゥめ」


 そこにいたのは、魔王軍元見回り班長。


 俺が初めてこの異世界で出会った魔物――ドレイクであった。


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