後日談最終話 「フラメルの贈り物」
結局、うちに泊まったフラメルは対して問題を起こすことなく、その翌日に「泊めていただいてありがとうございました……、お世話になりました……」と丁寧にお礼を言って家を後にした。
俺は別にいくらでも泊まってもらってよかったのだが、まあ、あいつ的にキキレアと一緒に過ごすのは嫌だろう。
お笑いポンコツ女神姉妹の仲は多少改善したようだが、まだぎくしゃくしているみたいだしな。
ミエリは最後まで「あのフラメルがこれで諦めるとは思えませぇん……。第二第三のフラメルがいつかわたしたちの前に現れることでしょう……」と劇場版の前フリのようなことを言っていた。フラメルはお前と違って賢いから、一度キキレアにぎゃふんとさせられたらもう諦めると思うぞ。
ちなみに俺はその後、キキレアとナルからはそれなりに重いお仕置きを食らったのだが……、そのことについてはあまりコメントをしたくない。
忘れよう、過去は。
そんなことより、だ――。
「ま、今回のことは私たちも反省したわ」
「そうそう、ちゃんとマサムネくんのしたいことをさせてあげなきゃね♪」
「まったくもう、マサムネさんって本当にすけべなんですからー、もー」
これは夢だろうか。
俺の部屋の大きなベッドには、中身はともかく外見は絶世の美少女が三人、並んで座っていた。
どいつもこいつも、下着姿である。肌色面積が非常に広い。
普段はツインテールにしている赤い髪をほどいて、綺麗に伸ばしているキキレア。彼女は上下とも赤い下着を身につけていた。情熱の赤だ。セクシーである。
ナルはどこで買ってきたのかわからないが、ベビードールのような可愛らしい下着姿だ。身動ぎするたびに揺れるピンク色のフリルの奥の素肌が眩しかった。かわいい。
そしてミエリ。彼女が普段着ている女神の衣がなんだかミニスカートの丈になっていて、ところどころが透けている。下着仕様というよりも、むしろエロ仕様と言ったほうがいいぐらいの感じだ。そういうのすごくいいと思います。
三人はこれから食べられるのを待つフルーツのように、色とりどりの鮮やかさで俺のベッドの上にちょこんと腰掛けていた。
もうお分かりだろうか。
そう。
今から始まるのは、俺の夢。
いや、全人類の夢と言っても過言ではないだろう。
――4Pである。
今回の事件の発端となったこともあって、正直もう二度と実現はできないんじゃないかと思っていた行為だが。
なんか知らないけど、女性陣がこの期に及んで乗り気になってくれたのである。
やはりきっかけは間違いなく、例の浮気事件のせいだろう。俺を放し飼いにしておくとロクなことをしないから、適度にガス抜きをさせてあげよう、ということになったのだ。
ありがとうフラメル、ありがとう……。
なんやかんやあったけど、お前はやっぱり俺にとっての愛の女神だったよ。
俺は見知らぬどこかに拝んで、三人に顔を向ける。
さあ、ショータイムだ。
美味しくいただかれるのを待つカワイコチャンたちに歩み出る。この世の欲望がすべて詰め込まれたかのような桃色の光景を前に、すでに俺のリトルマサムネは臨戦態勢だぜ。
そう、今宵の俺は肉食獣。媚肉を貪り食うフードファイターである。
キキレアは恥ずかしそうに、ナルは嬉しそうに、そしてミエリは楽しそうに、それぞれ微笑んでいる。
「ほら、マサムネ、さっさと済ませるわよ……」
「えへへ、だーりんきてきてー♡」
「マサムネさん、あんまり待たせると寝ちゃいますよお」
なにを言う。
今夜は寝かせるものか。
俺は堂々たる笑みを浮かべながら、ハーレムメンバーたちのもとへと歩んでゆく。俺の愛を受け入れるように迎えてくれたナルに口づけをし、右手でキキレアを抱きしめると、擦り寄ってきたミエリを左手で撫で回す。
どの子も柔らかく、ふわふわしていて、抱き心地がいい。美少女の香りを胸いっぱいに吸い込みながら、俺は肉欲のるつぼに飲み込まれてゆく。
ここが桃源郷か。
まったく、本当に――。
――ヒュー! 異世界転生最高おおおおおおっ!!!!!!
「ったくよおぉ!!!」
その一週間後、俺は酒場のカウンター席で飲んだくれていた。
隣に座るゴルムの顔が引きつっているが、そんなことは関係ない。どうせ俺のオゴりだ。きょうも思いっきりグチを聞いてもらおう。嫌だと言っても聞いてもらうぞ。
俺はジョッキをテーブルに叩きつける。
「別にいいじゃねえかよ! メイド服を着てご奉仕してほしいっていう俺の願いなんて可愛いもんだろ! 誰に迷惑をかけているわけじゃないし! なのにそんなドン引きしなくたってさあ!」
「お、おう、お前飲むのはそれぐらいにしておけよ……」
「『マサムネ、あんただんだん嗜好がキモくなってるわよ……』って、あれ限りなく本気の声だったんだけど! 俺はハーレムの王さまだぞ! ちくしょう! 別にいいじゃねえかよ! ちょっとぐらい! 減るもんじゃねえしさあ!」
俺は再びエールをあおる。苦い。しかし最近はこれの味がなんだかわかってきた。強烈なアルコールの刺激で、胃の奥のムカムカを忘れられるような気がする。
確かにあの4Pの件以来、俺は浮かれていた。
調子に乗っていたと言っても過言ではないだろう。その自覚はあるのだ。
しかし言わせてもらうならば、俺を調子に乗らせたのはあの女性陣じゃないのか!?
女性陣が『マサムネが浮気しないようにするためには、私たちもちょっとはがんばってあげないとねー』とか言ってくれたから、俺は欲望の元栓をほんの少しだけオープンにしただけなのに!
それがさ! 俺がちょっとエスカレートした望みを言うと『うわぁ……』ってドン引きするんだぜ!? ひどくね!? 罠じゃね!?
「なあゴルム! お前ならわかるだろ! なあ! 同じ男としてさあ!」
「いいじゃねえか、マサムネはあんな美人な嫁さんが三人もいるんだから……」
「まだ嫁さんじゃねえよ! つか、確かに美人だが! それは自他ともに認めるところだが! しかし人間は中身も伴ってこそだろ!?」
「お前、いくらなんでも贅沢すぎじゃねえか? 人生は妥協も必要だろうよ」
「嫌だ! 俺はせっかくこの世界で成り上がったんだから、妥協なんてしたくない! エマ! エールもう一杯!」
「はーい♪」
ルンルンな足取りでやってきたエマにチップを渡す。
隣に座るゴルムは大きくため息をついた。きょうは逃げないようだな。感心だぞ。
「だったらさらに何人か娶るっていうのはどうだよ、マサムネ」
「はあ? そんなの無理に決まって……」
「浮気だから怒られるんだろ。ハーレムメンバーを増やすって言えば、嫁さんたちは不満を漏らすだろうが、大きく反対はできないだろ。自分たちもそうなんだから」
「……あいつらがそんなタマかな」
俺はぽりぽりと頬をかく。
するとエールを運んできたエマがそのまま俺の隣に座った。彼女は満面の笑みで元気よく手を挙げる。
「はいはーい! だったらあしが立候補しまーす!」
「はあ!?」
いきなりなに言い出してんだよお前!
エマはきゅるんと目を輝かせながら、両手を胸元で組んで空――ていうか天井――を見上げる。
「だってマサムネっちってけっこー払いがいいですし、しかも豪邸持ちじゃないっすか! お金だってがっぽり溜め込んでいるんでしょ? あしの夢を叶えてくれそうですし!」
「玉の輿か……」
チッチッチッとエマは指を振った。
「違いますよ、それはあくまでも当面の目標です。本当の夢は他にありますよ」
「へえ?」
エマは勝手に俺のエールに口をつける。まあ別にいいけどな。
酒に強いエマはジョッキをあおってから、ふっふっふと笑う。
「あしはもともとすっごい貧しい村で生まれたんですよ。だからいつか将来ビッグになって、そのお金で村を豊かにしてあげたいなーって思っているんす」
「へえ、それがお前の夢か」
意外だな。ちゃんとした夢じゃないか。
へへへ、とはにかむように笑って、エマは栗色の髪を揺らす。
「なので、マサムネさんが養ってくれるんだったら、万々歳っすよ。他の女の子たちと違って、あしには余計なプライドとか一切ないですから。生活費さえ工面してくれたら、ナニをやってもいいですよ」
「……なにをやってもいい、だって?」
俺はどきりとした。
なにをやってもいいって……、なにをやってもかよ……っ!
隣に座るゴルムの目が『おいおい……』とでも言うようにキツくなったが、それはともかく。
「いや、でもほら、俺ってなんかそういうのに手慣れた子は苦手っぽいっていうか……、むしろ尻込みしちゃうっていうか……」
「大丈夫っすよ、あし処女っすから」
「えっ、そうなの!?」
「もちろんじゃないですかぁ」
エマは俺に見せつけるように下腹部を押さえながら、からからと笑う。
「処女は女の一生に一度の武器っすよ。一番高く売れるタイミングで使わなきゃ、もったいないじゃないっすか!」
「そんだけ徹底しているとか、お前すげえよ……」
うん、やっぱりエマはないな。
一度関係をもったが最後、干物になるまで搾り取られそうだ。こいつとはこういう風に、一緒に酒飲んだり話したりするぐらいで十分だよ。うん。
そう考えてぐったりとしてきた俺に、エマがしなだれかかってくる。
「ねえねえ、マサムネっち。なんだかあし、眠くなってきちゃったっすよ。お部屋にいきません?」
「待て待て待て。その手は食わんぞ! 俺には愛する女の子たちがいるんだ! 誰が見えているハニートラップにわざわざ引っかかるかよ!」
「ちっ」
「ふぁぁ……、つか、なんだか俺も眠くなってきたぜ、マサムネ」
「勝手に帰ってとっとと寝ろ!」
怒鳴るとゴルムは「呼んだのはてめえだろ……」とうめいた。まあ確かに。
そこで新たなエールが運ばれてきた。エマが勝手に頼んでいたのだ。
「ま、じゃあきょうはとことん飲みましょうか! 朝まで!」
「マジかよ」
「おれ明日も冒険行くんだけどな……」
俺たちの意見は無視された。まあたまにはいいか……。きょうは家に帰りたくない気分だったしな。
エマの音頭で、俺とゴルムもまたジョッキを持ち上げる。
「それでは、あしたちのこれからに!」
「これからに」
「これからにー」
やれやれ。
『乾杯――!』
翌日、俺は宿屋のベッドで目を覚ました。
嘘だろ。
倒れるまで飲んだつもりはなかったのに、いつの間にか意識を失ってしまったようだ。
やばい。
しかもなにがやばいって、ベッドに寝ている俺が全裸で、隣には誰かが眠っていることだ。
また繰り返したのか俺は。
嫌な汗がだらだらと流れる。
「う、うぅん……」
すぐ隣から寝言のようなものが聞こえてくる。
なんなんだ! 俺はまったく覚えていないのに! どうしてこうなってしまうんだ! もう二度と酒を飲まなければいいのか!? そうなんだな!
後悔だ。もう後悔しかない。
しかも考えてみろよ。隣にいるのがエマで、仮にエマの初めてを奪っていたとすればこれはもう絶対に責任を取らされる。財産はすべて狩り尽くされる。もうおしまいだ。
俺は顔を手で覆った。これから待っているのは敗北者としての人生なのか。つらい、つらたん。
今思えばそんなことを考えるより、さっさと『衝動的に』逃げておけばよかったんだ。
階段を登ってくる音がした。俺はふと顔をあげる。他の宿泊かと思えば、それらはまっすぐにこの部屋に向かってくる。しかも足音は三人分ぐらいある気がした。
ちょ、ま。
ドアが開け放たれた。
「マサムネ! ここにいるのはわかってんのよ! オラァ!」
「えへへー、だーりんー♪」
「御用です御用です!」
お笑いポンコツ三人娘……、もとい、俺の愛しの三人がそこにはいた。
彼女たちは半裸でベッドに眠る俺を見て、それぞれに目を見開いた。
時が止まった気がした。
ああ。
終わった。
浮気の現場に踏み込まれたのだ、これは終わった。
来世はもうちょっと酒に強く、誠実な人間に生まれ変わりたいな。
そう思っていたそのとき、タイミング悪く俺の隣に眠っていた人物が体を起こした。もちろん裸だった。オーマイガー。
って……。
「ん、んあ……、もう、朝かぁ」
そいつは髪を短く刈りこんでいた。ずいぶんと声が太くなったなエマ。しかも胸毛がそんなにびっしりと生えて……。
「ん? なんだ?」
そいつはゴルムだった。
待って。
「あ、マサムネ……? ああ、そうか昨夜は……」
ゴルムは目をこすりながら俺を見た。
そうして、すぐにまるでやましいことでもあるように目を逸らす。
「なんか、悪いな、マサムネ……、迷惑かけちまって……」
「待って!」
俺は全力で叫んだ。
なんなの!?
せめてエマだろうが!
なんで隣に寝てんのがゴルムのオッサンなんだよ!!!
おい!!!!
頭がどうにかなりそうだよ!
そんなときである。固まっていたナルが、その場でぺこりと頭を下げた。彼女は無表情で小さくつぶやく。
「実家に帰らせていただきます」
「待って!!!」
俺は慌てて手を伸ばす。だがナルは待ってくれなかった。
あのナルが! 一発で去ってゆく!? 俺になんでもしてくれたあのかわいいナルが! 夢なら覚めてくれよ!
すると次に、キキレアが俺をゴミでも見るような目で。
「さすがにドン引きだわ」
「違うんだ! これは誤解だ!」
「ドン引きだわ」
「話を聞いてくれ!」
まったく聞いてくれそうになかった。
そこで思わぬ助太刀が来た。ゴルムが叫ぶ。
「そ、そうだ! 俺とマサムネは、な、なんにもねえよ! これは、その! た、たまたまで!」
「なんで頬赤く染めて口ごもってんだよテメェ!」
俺のアッパーカットがゴルムの顎を撃ち抜いた。ひっくり返って倒れるゴルム。気分的にはそのままトドメを刺してやりたかったが、それはこいつが俺になにをしたかを聞き出してからだ。汚されてしまったのか、どうなのか。そのことを問い詰めてからゆっくりと殺そう。
と、そうこうしている間にキキレアも去っていってしまった。あ、ああ……。
嘘だろう! こんなことってないだろう! 俺が魔王を倒したことによって築いたすべての幸せが指の間からこぼれ落ちてゆく!
ハッ、そうだ、みえ、ミエリ!
彼女だけはこの場に残っていてくれた! やった! さすがミエリだ! 腐れ縁でどんなときにも俺のそばにいてくれたミエリ!
「なあミエリ! お前なら、お前ならわかってくれるはずだ! これが、誤解だって!」
ミエリはニッコリと笑う。
「ぺっ!」
「――!?」
そうして俺につばを吐きかけてきた。
「おいお前!」
「ないわー」
「いやだから誤解なんだって!」
「ぺっ!」
二度も!
そのままミエリは「ないわー」とつぶやきながら部屋を出てゆく。
誰もかもがいなくなった宿屋にて、俺は呆然と佇んでいた。
どうして、こんなことに……。
ゴルムが俺の肩を叩いてきた。
「……酒ならいつでも付き合うからよ」
俺は全力でゴルムの首を絞めながら叫ぶ。
「うおおおおおおおおおおお! お前は俺のすべてを奪う気か、ゴルムうううううううううううう!」
俺は泣いた。ミエリに吐きかけられたツバを拭うこともなく泣いた。
いったい俺がなにをしたんだ。そして俺はなにをされたんだ! なぜこんなことに、なぜこんな、こんな……。
ハメられたんだ……。俺はきっと、絶対、エマを金で買収した何者かに……! 黒幕に、ハメられたんだ……!
あああああああああ……! うああああああああああああああああん!
ひたすら泣いた俺が、気力を振り絞って家に帰ると、だ。
閑静な高級住宅地がきょうはやけに騒がしいなと思ったら、文字通り家が燃え盛っている現場に遭遇した。
天高く登る黒煙を仰ぎ見ながら、俺は野次馬たちに囲まれて、為すすべもなくその場に崩れ落ちることになった。
ハンニバルにもらった家が焼け落ちてゆく。
キキレアかナルか、あるいはミエリが置き土産のように家を燃やしていったのだろう。これが二度目の罪の重さか。
そうか、今夜から野宿か。
夏でよかったな、はは。
頼むから、夢なら覚めてくれ。
その後、俺はきょうからエマが桃色の髪の美女とふたりで南の島へとバカンスに行ったことを知った。
俺は自身の復讐のために。そして女達の誤解を解いて彼女たちを取り戻すために。エマと桃色の髪の美女を追いかけて南のジャングラ王国へと向かうことになるのだが。
それはまた違う物語である――。
俺たちのクエスト後日談
『ドン引き編』 完
俺たちのクエスト書籍版2巻発売記念の後日談でした!
読んでいただいて、ありがとうございます!
ハッピーエンド!




