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後日談11話 「決戦! 光喰竜オルフェーシュチ」

 俺たちのクエスト2巻! 先日発売です!

 ブラックマリアさんの挿絵とかもあります。やったね。




 大変だ。


 前からは光喰竜オルフェーシュチが迫ってきているというのに、ナルは戦おうとしない。


 もういっそあの竜に婚姻届を引き裂いてもらって、その怒りによってナルにあいつをぶっ飛ばしてもらったほうがいいんじゃないだろうか。


 くそう、なんでこんなことになっちまったんだ。


 俺はただ、気楽で幸せで、俺にとってとても都合がいいハーレムを作りたかっただけなのに――。


 現実はどうだ? 浮気の代償で殺されかけるわ、なんか伝説のドラゴンをけしかけられるわ、散々なことになっている。許せねえよ、現実め……。


 そんなことを思っている間に、オルフェーシュチは大きく息を吸い込んだ。ブレスの発動だ。


「ちょ、マジかよ!」


 ええい、【イッス】のバリケードじゃ、盾にはならんか!


 だったら、ユズハからもらった(借りパクした)このカードで!


『ぶはー』


 オルフェーシュチのブレスが放たれる。黒い炎だ。中二的な意味ですごいかっこいいけど、ブレスを浴びた地面が次々と凍りついていくのを見ると、そんな悠長なことは言っていられない。


「オンリーカード・オープン! 【ブラスト】!」


 それは爆発を引き起こすカードだ。全身からぐぐぐっと力が吸い取られてゆく。これだからユズハのカードは!


 俺の覇業とオルフェーシュチのブレスが両者の間で衝突すると、たちどころに大爆発が巻き起こる。なんとかブレスの勢いは止めることができたようだ。辺りには霧が立ち込めた。


 くそう、ブレスを防ぐことには成功したが、何度も使えるような手じゃねえぞ、これは!


 凍った地面と霧の向こうから、フラメルの怒鳴り声がする。


「ちょっと! オルフェ! 真面目にやらなきゃ晩御飯抜きだからね!」

『えぇー、そいつはキツいですよー、食べなきゃ死んじゃいますってー』

「だったら全力で! 殺す気であのマサムネお兄ちゃんたちをやっつけちゃって!」

『僕が全力出したらどっちみち殺しちゃうと思うんですけど……』


 不穏な会話を続ける女神と伝説の竜。


 マジかよ、【ブラスト】一発で俺はガス欠寸前だってのに……。


 やっぱりこのままじゃダメだ。どうあがいても、ナルの力が必要だ。


「さあ、もう一発ー! 今度こそ魂を全部新生させるんだよ!」

『あいー』


 げ、早すぎる。


 さらに黒い炎が吐き出された。触れるものすべてを凍てつかせる氷の炎だ。まったくもってファンタジーだな!


「オンリーカード・オープン! 【ブラスト】! ともういっちょ、【キュマイラ】だ!」


 俺は二枚の大カードを場に放つ。重すぎる消費コストは覚悟していたが、カードを使用したそのときには、一瞬意識が遠ざかった。


 炎の勢いは先ほどの倍以上。【ブラスト】で弱めた火勢を、呼び出された【キュマイラ】が体を張って止めた。


 MPが空っぽになるほどのコストを使ったのに、ブレスを防ぐのが精一杯だ。俺は真っ向から戦うようなタイプではないとは言え、これはひどい。


 フラメルはクタクタの俺を眺めながら、頬に手を当てて笑う。


「どう? マサムネお兄ちゃん! やっぱりあたしを選んでおけばよかったって、今さら思ったって遅いんだからね!」

「お前の力じゃなくてそこのドラゴンの力だろうが!」

「ペットの力はご主人様の力でしょ!」

「都合のいい話だな!」


 ったく、このアマ……!


 俺が反抗的な目を向けているからか、フラメルは笑いながら竜に指示を下す。


「それじゃあオルフェ! トドメの一発をくれてあげて!」

『えー、これ以上やっちまうと、たぶん街も無事じゃ済まないと思うんですけど』

「やむなしだね!」


 おい愛の女神!


 ホープタウンの住人クズたちも一斉にブーイングをしていたが、しかしオルフェーシュチに睨まれるとまるで貝のように黙り込んだ。弱すぎる。最初から期待はしてなかったけどさあ!


 だめだ。これ以上俺の力ではもたない!


 俺はナルに向き直り、再び彼女に頼み込むことにした。


 結婚を回避する! ナルに戦わせる! そのふたつを両立させなければならない。


「もういいじゃない、結婚してあげれば……」


 キキレアが諦めたようにつぶやく。なんでお前そんなに他人ごとなんだよ!? 俺のことだよ!?


 つか、ナルと結婚して一生ナルに縛られるのはいやだ! 俺はもっともっと遊びたいんだ!


 もうどうすれば説得できるのか、この明晰な頭脳をもつ俺ですらよくわからないが、とにかく必死に訴えかける。


 時として情熱は策略を上回ると言うからな!


「なあ、頼む、ナル! あいつを倒すためにはお前の力が必要なんだ! お前のその、スーパーアーチャーとしての弓術がさ!」


 俺は魂を売り払った。


 生き残るためには、これぐらいのことは言ってやろうじゃないか……!


 そうさ、すべては生き残るためだ!


「えっ」


 その瞬間だ。ナルの目がきゅるんと光を取り戻した。


 色ボケポンコツ貧乳エルフは我を取り戻したのだ。ナルは頬を赤らめながら、俺の勢いに負けたように目を逸らす。


「で、でも、そんな、あたしは確かにエルフ族一の弓使いだけど……、だ、だからって、そんな、まだ婚姻届にもサインをもらっていないのに……」

「そんなのいつだってできる! 頼む、ナル! エルフ族一の弓使いとしてのお前の力が、必要なんだ!」

「……っっっ!」


 ナルが感極まったように震えた。


 その頬がどんどん赤みを増してゆく。


「た、確かにあたしは! 全世界のすべてのエルフの弓使いの中で、もっともすごく強いスペシャルハイパーアーチャーだけど! とびきりの凄腕だけど! まさかマサムネくんにそんな風に言ってもらえる日が来るなんて!」


 ナルの瞳は涙で潤んで、顔色は耳まで真っ赤、はぁはぁと荒い息をついている。まるで発情しているかのようだ。


「なんなのよこの茶番……」


 キキレアがぼそっとつぶやいた。全力で同意したいのだが、俺は魂を売り払ってしまったので、もうキキレアのように真人間を気取ることはできない。


 俺にできることはアホのようにナルを褒め称えて、その気にさせることぐらいだ。


「そうさ! 昔からずっとナルはすごいアーチャーだったじゃないか! ギガントドラゴンを一撃で仕留めたのもナルだし! 七羅将たちとの戦いでもお前の弓は十分すぎるほど役に立った! 魔王城での戦いだってお前の弓がなければ俺たちは今こうしてここに立っていることもできなかった! ナルの弓で俺たちは何度も何度も救われてきたんだ!」

「その百倍ぐらいピンチに陥っていたけどね」


 ひとり冷静なキキレアがうめく。屈辱だ。ンなことわかってんだよ……。


 ナルは背中からぐるりと弓を取ると、婚姻届を雑に懐にしまって顔を輝かせた。


「じゃ、じゃあやっちゃおうかなー! あたし弓でやっちゃおうかなー! 竜を穿っちゃおうかなー!」

「よし来た! ナル、さあ来い!」

「はーい!」


 こうして俺とナルは熱い口づけを交わした。ナルには【シューター】の力が宿る。


 この瞬間だけは、ナルは間違いなくエルフの中で特筆すべき才能をもったアーチャーに生まれ変わるのだ。


 ナルはその場に竜穿を突き刺すと、体全体でめいっぱい弦を引いた。するとそこに銀の矢が出現する。世界四大至宝のひとつ『竜穿』。それは竜族に対して特別な威力を発揮する。


 何十回と見たその構えだが、唯一違うものがあるとすれば、その矢は間違いなく相手を穿つということだ。


 ナルの弓を見たオルフェーシュチは、明らかに動揺をしていた。


『げげげ、ちょっとご主人様、あの弓は』

「なんでもいいから、やっちゃいなさいよ!」

『いやまずいですってあれ。やばいですって』


 めちゃくちゃフランクにうろたえるオルフェーシュチめがけて、ナルは輝く右手で矢を解き放つ。


「天下無双! 一撃必殺!」


 そのときになってようやくフラメルも気づいたようだ。ハッとした彼女は慌てて呪文を唱える。


 だが遅い。


「乾坤一擲の――『ドラゴンブレイクショット』! 我が弓に貫けぬものなし!」


 オルフェーシュチが大きく開いた口めがけて、矢が飛んだ。


 巨大な矢はブレスを引き裂き、その頭部を間違いなく貫く。


 射ち抜かれたオルフェーシュチは黒い光となって霧散した。伝説の竜はこうしてまた竜穿に敗北を喫したのだ。それはおそらくとてつもなくすごい光景だったのだろうが、女神の姉妹が痴話喧嘩をしている現場にいる身としては、なんかもう、どうでもいい。


 一応は召喚獣という扱いだから、死ぬわけではないようだが。


 また、それと同時に――。


「地よりい出し神の咆哮。地底より滾りし、幾万幾億の激流。震え、震え、砕き、震え、因果応報!」


 すでにフラメルの呪文は完成していた。


「――イラプション!」


 地面から出現した白い溶岩流は、瞬く間にナルを飲み込む。


「ナル!」


 叫びながらも俺は楽観視していた。あのナルだ。彼女の防御力は異常だし、別にどうなるわけでもないだろう、と。


 だが溶岩流が去っていったその場を見て、俺は驚いた。ナルが地面に倒れてぴくぴくと痙攣しているのだ。


「マジか!?」


 なんてこったい。まさかあいつの防御力を上回る魔法とは……。


 さすがフラメル、とんでもねえ相手だ。


 俺はナルに駆け寄って抱き起こしたい衝動――あわよくば懐の婚姻届をビリビリに引き裂いてやりたい――を抑えつつ、キッとフラメルを睨んだ。


「お前、よくも俺のハーレムメンバーをふたりも……!」


 ミエリはいまだに地面に倒れている。あいつなにでやられたんだっけ。まあいいや。


「ゆるさねえぞ、フラメル! 俺の純情も弄びやがって!」

「はんっ」


 フラメルが俺の言葉を鼻で笑った。


「許さないってどうするつもりなの? お兄ちゃんはもうMP切れでボロボロ。ナルルースさんとお姉ちゃんは気絶して、街の人たちは別に助けに来てくれるわけでもないし。ねえねえ、どうするつもりなの? どうするつもりなのー!?」

「くっ……、だが、フラメル、これだけは言っておかなければならない!」

「なになに? 負け惜しみ? いいよいいよ、そういうの聞くの嫌いじゃないからいいよ!」


 ニコニコと笑うフラメルに対し、俺は慎重で冷静に告げた。


「お前のその煽り顔、ミエリのバカっぽい顔にそっくりだぞ」

「――っ!!!」


 余裕たっぷりで笑っていたフラメルの顔が、一瞬で真っ赤に染まった。


 愛の女神サマはぷるぷると震え、頭のてっぺんまで怒りと屈辱に染まった顔で叫ぶ。


「だ、だ、だ……、だ、誰があんなポンコツお姉ちゃんとそっくりなのさー!!!!」


 その叫びで辺りに白い炎が放たれる。


「なんなの!? なんでそういうこと言うの!? ひどくない!? だってあたしずっとがんばっているのに! がんばっているのにさあ! そんなひどいことパパにもママにも言われたくないよ!? なんなの!? お兄ちゃんってどれだけ性格ねじ曲がっているの!? ホンット信じらんない!!」


 地を舐めるように広がった衝撃は、土をえぐり、フラメルを中心とした小さなクレーターを作り出した。女神の激怒、恐るべし。


「もう! 絶対に! 許さない! その汚れた魂、徹底的に磨いてあげるんだから!」


 俺は手のひらを突き出す。


「待て! ミエリはああ見えてもたまにかわいいところもあるんだ! 煽り顔は本当にバカ丸出しで品性の欠片もないような下劣な顔だが!」

「それとそっくりってつまりそういうことを言いたいんでしょ!? ひどすぎるよ! どういうことなの!」

「えー、やっぱり姉妹だなー、って」

「むきー!!」


 フラメルは目にいっぱいの涙をためて、怒り肩でのっしのっしとこちらに迫ってくる。リアルに『むきー』とか言うやつ二人目だ。


 まあ、さんざん挑発してフラメルを半泣きにさせておいてなんだが、俺は先ほどのMP消費が激しくて、まともに歩くことすらできなさそうだ。


 溜飲は少し下がったが、ただそれだけだ。まずいな。


 いよいよ今世とのお別れが近づいているのかもしれない。


「その減らず口を! 今すぐ! 叩けなく! してあげるんだから!」

「あ、ていうかお前、ミエリに負けているところはなにもないみたいなこと言っていたけど、やっぱりなんだかんだいってミエリのほうが可愛いと思うぞ。お前なんかちょっと、自意識過剰っていうか、プライド高すぎっていうか……、ぶっちゃけちょっと引くわ……」

「むきいいいいいいいい!」


 フラメルは叫び声をあげながら襲いかかってきた。その手にはいつの間にか、ちゃっかりナイフを持っている。おい女神。最後にはお前、物理攻撃なのかよ。


 このままじゃ奇しくも人の手で切腹を受けることになりそうだ。くそう。


 こんなことだったら、最後にナルと結婚しておいてもよかったかもしれない。せめての思い出作りに……、いや、ダメか。その場合ナルも後追いで死んじまうみたいだし。


 と、女神を前にまだ打てる手はなにかないかと、思考を巡らせていたところで――。


「……あんたねえ、いい加減にしなさいよ」


 突如横から現れた女が、フラメルの頬を張り倒した。


 それはキキレアだった。


「もうあんたたちの痴話喧嘩に巻き込まれるのは、ホントうんざりだわ……」


 キキレアの目は据わっていた。


 あれはマジギレ直前の顔だ。


 そのとき俺は、ナイフを持って突っ込んできたフラメルを見たとき以上に、恐怖を感じてしまった――。


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