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後日談9話 「第一次女神大戦」

 俺たちのクエスト2巻は明日6月10日発売です!

 ジャックが丸呑みされたり記憶を失ったりします。


 

 マサムネ討伐クエストが中止になったことで、ホープタウンの住人たちは帰ってゆく。


「ったく、無駄な時間を過ごしちまったなー!」

「ま、最初からマサムネが簡単にくたばるようなやつには思えなかったしな」

「このまま酒場いってパーッと飲むかー」

「だったらあしの店へどうぞ! チップは弾んでもらいまっすよ!」


 カラッと忘れて去ってゆく冒険者たちの後ろを姿を見送り、俺は思う。お前たちに追いかけ回された恨み、一生忘れねえぞ、と。


 ゼッテーいつか、密かに復讐してやる……。


 ま、とりあえず、今はいい。


 あちこち走り回って疲れたしな……。


「じゃあ、帰るか」

「はーい!」


 ナルがニッコリと手を挙げた。キキレアやミエリもうなずく。帰ったらお仕置きと称してなにをされるのかはわかんないけど、まあ命までは取られまい……。


 そんなことを思いながら、俺たちが背中を向けたところで。


 ――背後から、まるでこの世の闇を集めたかのような声が轟いてきた。


「なんで、こんな……、ありえない、ありえない、ありえないっ……!」


 ん、ん……?


 俺たちが振り向くと、そこには顔を俯かせたフラメルがいる。


 あれ、もう終わったものだと思っていたのに……。


 彼女はその両手に、野球ボールのような白い球体を握りしめていた。恐らくは魔力の塊だろう。


 ――なにか、嫌な予感がする。


「おい、待て、フラメル! 俺は別にお前のことが嫌いなわけじゃ! ただ、どちらかを選べと言われた以上、ミエリを取っただけで!」

「そ、そうよ! フラメル、落ち着いて!」


 俺に続いて、すべての魔力を失ったはずのキキレア(半年ぶり二回目!)が声をあげる。だがしかしその説得は彼女に届かない。


「落ち着いて、なんて、いられないよ……! だって、あたしが……! 昔から、なんでもお姉ちゃんに勝っていたあたしが……! 一度ならず、二度までも……! こんなの、こんなのってっ……!」


 フラメルが顔をあげると、彼女の目は屈辱に染まっていた。


 俺は何度もその目を見たことがある。『オンリーキングダム』のカード大会で俺に負けたやつらは、みんなそんな風に悔しがっていた。


 だが、今のフラメルは、俺が倒した連中よりもよっぽど昏く、深く、恐ろしい眼をしている。


 おそらく俺たちは、フラメルのアイデンティティに関わるようななにかを傷つけてしまったのだろう。


 こいつは――やばい。


 フラメルは新生と炎の女神。その火力はうちのポンコツ(ミエリ)の比ではない。彼女を敵に回したくなかった俺は、声を張り上げた。


「ま、待て! フラメル! 話せばわかる! そうだ話し合おう! 人と人は言葉を操ることによって文明を築き、発展を遂げてきたんだ! 文明の力を使おう!」

「でもお兄ちゃんは! あたしよりミエリお姉ちゃんを取ったんでしょ!」


 それはそうだけど!


「いや、ほら、それはただの結果論だろ!? 勝敗なんて時の運って言うじゃないか! 今はたまたまミエリだったけど、次に選んだときはフラメルになるかもしれないし! ふたりには大して差なんてなかったんだよ! ホントに! ミエリが90点だったとしたら、フラメルは89・998点ぐらいな感じで! フラメルは魅力的ですっごく可愛い女の子なんだから自信をもってほら! 胸を張ってくれ! キミにそんな顔は似合わない!」

「……っ、でも、負けたことには、代わりないしっ……!」


 フラメルがその両手に握っていた白い炎が少しずつ弱まってゆく。もしフラメルがミエリだったら怒りに任せてそのまま魔法をまき散らしていただろうが、フラメルはさすがフラメル。良識と常識を兼ね備えたポンコツじゃない女神だ。俺の説得で、少しずつ理性が戻ってきたらしい。


 よし、もう一息! 口先ひとつで女神を丸め込むとは、さすが女のことに詳しい手練手管プレイボーイの俺だ!


 この調子で声を張り上げようとしてところで、余計な奴が俺の邪魔をした。


「そうですよねえ~~~~~? 負けは負けですよね~~~~~~~~~~?」


 満面の笑みを浮かべたミエリである。


 こ、こいつ……!


 ミエリは笑顔を隠すことなく下から覗き込むようにしてフラメルに近づいてゆく。


「お姉ちゃんに勝てると思ってのこのこやってきたんですよねー!? でも残念でしたー! マサムネさんが好きなのはわたしでしたからねー!? フラメルなんて、お姉ちゃんの足元にも及ばないんですよー!? ぷぷぷー! ちょううけるー!」


 ミエリは両手をひらひらと振りながら、フラメルの周りをくるくると回る。


 う、うぜえ……!


「ねえねえ! 今どんなきもち、今どんなきもちですかー!? こんなポンコツお姉ちゃん相手なら余裕だしーって思いながら体を張ったのに、結局マサムネさんに選んでもらえなかったってのってどんなきもちー!? うぷぷー! フラメルってばちょうみじめー! かわいそうなんですけどー! ぷぷぷー!」

「……………………っ!」


 フラメルは俯きながらぷるぷるとしていた。


 これが屍を鞭打つというやつか。


「はーおかしい! いつもいつもわたしに上から目線で説教していたフラメルが、まさか女子としてわたしに負けるなんて! ざまぁ、ざまぁですよ! ざまぁー! ざまぁー!!」


 次の瞬間である。フラメルがミエリの顔面に手のひらを突き出した。「ふぇ?」と首を傾げたミエリの頭部を光が包み込む。


 ゼロ距離で放たれたなんらかの魔法はミエリの後頭部から抜けて衝撃波を辺りにまき散らした。


 ミエリはそのままぴーんとなって地面にこてんと倒れる。その様子に同情したものは誰ひとりいなかった。小悪党の哀れな末路である。


 一撃でミエリを気絶させたフラメルは、ぐぐぐと拳を握る。


「……て、ないし……!」


 え?


 フラメルは奥歯を噛み締めていた。


 その顔は恥辱と屈辱となんかもう様々な感情が集まって真っ赤になっている。


 こちらを睨みつけながら、フラメルは恐るべき事実を口にした。


「ヤッて、ないし……!」

『えっ?』


 俺とナルとキキレアが同時に聞き返す。


 フラメルは弾かれたように叫んだ。


「あたし! マサムネさんと朝まで飲んでたけど! マサムネさんを酔い潰しただけで! ――結局ヤッてないし!!!!」


 え、えええええええええええええ!?


 マジで!?


「だって、お互い裸で寝てたじゃん!」

「直前で脱いだだけだよ! 勘違いしないでよね!」


 えー……。


 そうか、そうだったのか……。フラメルと体の関係はなかったのか……。


 いくら俺が酒に弱いからといって、すべての記憶を失うなんてことはないもんな……。


 全身から力が抜けてゆく。複雑な気持ちだ……。


 フラメルは地団太を踏む。


「だから! 別に! ぜんぜん! 悔しく! ないし! マサムネさんなんて口先だけでどうにでもなるって思って、舐めてたから失敗しただけだし! あたしまだぜんぜん本気出してなかったし!」


 それからビシリと俺を指差す。


 フラメルの瞳には悔し涙が浮かんでいた。どこからどう見ても死ぬほど悔しそうである。


「だいたい、こんな人ぜんぜんあたしの好みじゃないし!」

「えっ」


 ちょっと待って、愛の女神さま。今それ言う?


「あたしはもっと浮気とかしない誠実な人が好きだし! ちゃんと定職について真面目で勤勉で人に気を遣えて目立たないけれど素朴で暖かい心をもった優しい人が好きだし! マサムネさんとか、ありえないしっ!」


 え、ちょ、やめてよ。なんでこんなつらい時間を味わわなきゃなんないの。


 俺が頭を抱えていると、横から赤髪と緑髪の女の子が歩み出た。


「ちょっとあんた、黙って聞いてりゃ好き勝手なことを言って! ムカつくのよ!」

「人のだーりんを誘惑しておいてその口ぶり、許せないねっ!」


 キキレアとナルは怒っていた。


 そんな彼女たちを挑発するように、フラメルは鼻で笑う。


「ふんっ、あなたたちもそんな浮気なんかするようなクズ、やめたほうがいいよっ! そんなやつはお姉ちゃん程度がお似合いだよ!」

「うっさいわね、バカ女神! 誰を好きになるかは私たちが決めるっつーの! あんたなんてそんなクズにすら選んでもらえなかった程度の愛の女神のくせに、人の恋愛に口出してこないでよ! この性悪クソ女神!」

「なっ」


 キキレアの口撃を食らい、フラメルはわずかにのけぞった。さすがのキキレアである。もともと信仰していた女神相手にあれだけ好き勝手言えるとは。キキレア、イズ、ロック。


「だいたい、本気出していなかったから失敗したって、あんたは相手の力量も見極められない程度の女ってことでしょ! 本気を出して失敗するより百万倍以上恥ずかしいことを、よくそんな大声で言えるわね! 恥ずかしすぎてマサムネとヤるよりよっぽど恥ずかしいわよ!」


 ちょっと最後のだけ気になります、キキレアさん。


 そしてついにフラメルがブチキレた。


「あああああもう! みんなみんな、もう、許さないから!」


 フラメルは両手に集めた魔力を一気に開放し、こちらに放り投げてきた。白いファイアーボールだ。


 ったく、頭に血がのぼりやがって、これだから衝動的に動くやつはよ!


 俺はバインダを開き、叫ぶ。


「オンリーカード・オープン! 【ディベスト】!」

「えっ!?」


 するとファイアーボールは目標を変え、俺たちの後方をゆうゆうと歩いていたホープタウンの冒険者クズどもに直撃した。


「ぎゃー!?」

「なんだこのファイアーボール!」

「どこからきたんだー!」


 悲鳴が響き渡る。さすが俺だ。狙いを逸らしつつ、復讐も果たす一挙両得の妙手である。


「ま、マサムネさん……!」


 キッとこちらを涙目で睨んでくるフラメルは、その大人の女性の美しさもあって正直たまらないものがあったけれど、それは胸に秘めつつ。


「悪いな、フラメル。お前は俺と彼女たちとの仲を引き裂こうとした。その上で俺たちに危害を加えようっていうなら、ここからは容赦しないぜ」

「あたしがあんたたち人間に負けるわけないし!」

「はっ、この俺を誰だと思ってんだよ」


 俺は口元を吊り上げる。


 ようやく俺のカッコイイ見せ場がやってきたな。


「浮気者でしょ、原因の半分はあんたなのに、なに他人みたいな顔してんのよ」

「あたしのだーりん!」

「人間のクズ」

「……」


 三者三様から飛んできた言葉に沈黙する。


 俺はバインダを片手に、髪をかきあげた。


「……そう! 俺は魔王を倒した魔典の賢者、マサムネ! 今ここでお前をお仕置きしてやるぜ、フラメル!」


 フラメルが目を尖らせた。


「ふんっ! やれるもんならやってみるといいし!」


 先制攻撃にと【ホール】のカードを引き抜いた俺は、カードを天に掲げようとするその直前に気が付いた。


 えっ、これ、【セプク】じゃん! なんですり替わってんだよ!? あぶねえ!


 慌ててバインダにカードを戻そうとする俺の耳元に、ゼノスの舌打ちが聞こえてきたような気がした。


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