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後日談8話 「切腹回避ルート」

 俺たちのクエスト2巻は、6月10日(金)発売です。

 ナルとかキキレアのおっぱいを揉んだりします。

 

 

 最後にちょっといい話で終わるはずだった俺のカードバインダには今、一枚のカードが収まっている。


 それはとてつもなくまばゆい輝きを放っていて『さあ使え! 今すぐ使え! ほら使え!』とでも主張しているかのようだ。


 そのカードの名は『セプク』。使用者は死ぬ。


 つまり切腹のことである。


 ……ゼノス、俺に死ねっていうのか。


 娘を取られたのがそんなに悔しかったか。


 よしわかった、だったらやってやろうじゃないか。


 俺も男だ。


 浮気の罪は腹を切って詫びよう。


 俺は立ち上がり、高々とカードを掲げた。


「ちょ、マサムネ!?」「えっ!?」「それは!?」


 驚くみんなをカードの強い光が照らす。


 こいつが俺の決着打フィニッシャーだぜ!


「オンリーカード・オープン! 【レイズアップ・セプク】!」


 その次の瞬間、俺の腹が真一文字に引き裂かれた。


 それはそれはとても見事な切腹であった。


 マサムネはどさりと地面に倒れた。発動するはずだった【リンカ】のカードは、レイズアップの切腹によって効果を打ち消された。彼は名誉ある死を選んだのだ。


「ちょ!?」「ええー!?」「マサムネさん!?」「お兄ちゃん!!」


 ――数々の叫びが響き渡る。その場に立っていたものたちは皆、呆然とマサムネの姿を見送った。


 しかしその後、誰もが目から涙を流す。


 ああ、これが男の死に様なのだな、と皆が納得した。


 マサムネは確かに生前は生きていても人様の迷惑にしかならないようなクソろくでもない男であったが、しかしその散り姿は心から立派なものだった。


 彼は自らの腹を切って詫びることによって、伝説となったのだ。


 すべての罪を洗い流す【セプク】は、マサムネの罪を完膚なきまでに『赦し』尽くした。


 前代未聞。それは凄まじいまでの『詫び力』であった。


 長く咲いたタンポポもいつかは枯れる日が来る――。その最期を彼は己自身の手で掴み取ったのだ。


 勇気ある行ないをたたえ、誰かが拍手をした。やがて拍手は辺りを揺らすほどに大きく響き、マサムネの死は英雄的偉業として讃えられた。


 地に噴き出した血は大地を濡らす。そこには花弁が赤く染まるタンポポがあり、葉からこぼれ落ちる血はまるで涙を流している日のようであったとさ――。


 さらばマサムネ。マサムネよ永遠に。


 明日からマサムネのいない日々が始まる。だがそれは決して悲しいことではない。彼は己の名誉を、死によって守ったのだから。


 その偉大な勇姿は誰もが忘れないだろう。


 浮気に端を発したホープタウンの大戦争は、こうして幕を閉じた。





 俺たちのクエスト後日談


 ドン引き編 完――。













 ――ってことになっちまうじゃねえかよ!!


 勘弁して下さい。俺はまだまだ生きていたいです。


 そっとカードバインダを閉じて消滅させる俺の前に、ひとりの少女が立っていた。


「……」

「……」


 ナルだった。


 俺の顔が引きつる。


「ちょ、ちょっとナル!?」


 キキレアが慌てて叫ぶような事態だ。ナルは光のない目で短剣を握りしめながら俺を見下ろしていた。『切腹したいの? うん! ここにいい剣があるよ!』とでも言いたいのかナルよ。わあちょうどいいなあありがとう! だなんて言わないよ俺。


 命の危機を感じて俺はわずかに後退りする。どうする、どうする。【ラッセル】のカードでナルの攻撃を避けきれるとは思わないぞ。ここは先手必勝で【キュマイラ】を喚び出しておこうか。いや、それよりナルが俺を刺すほうが早いだろう。


「きゃーお兄ちゃんが殺されちゃうー」


 フラメルがなぜか黄色い悲鳴を上げる。


 そんな、嘘だろう。この世界を闇から救った俺の最期がまさか、浮気して女に刺されるだと……? ありえない。世界中の誰もそんなことは予想していなかったはずだ。なのに、どうして――。


 時が止まったかのように思考が引き伸ばされてゆく。


 嫌だ! この目が涙でにじむ。やっぱり死にたくない! 来世があるといっても、死にたくない! 死にたくないよ! だってナルやキキレアやミエリとまだ4Pしてねえしさあ!


 死にたくないー!


 緊張の一瞬。――ナルはその手からぽとりと短剣を落とした。


 え?


 みんなが呆気に取られた。俺もだ。涙で濡れた目でナルを見上げる。


 えと、ナルルース=ローレルさん……?


 そんな中、ナルはぎゅっと俺の頭を包み込むようにして、その平たい胸で抱き締めてきた。


 ナルのぬくもりに包まれた俺は、状況がわからず目を白黒させる。


 あ、そうか、このまま首の骨を一撃で折られてしまうのか。そして【リンカ】で復活した俺は、今度は逆側に首の骨を折られるに違いない。なるほど。ついに自分の運命を受け入れるそのときがきたのか……。


 享年十七歳か……。もうだめなんだな……。次はミエリに頼んで大富豪のひとり息子とかに生まれ変わらせてもらおうかな……。


 俺はその瞬間、死を認めた。さようなら父さん母さん。


 と、そんなことを思っていると、ナルの手が優しく俺の頭を撫でた。


「うん、いいよ、マサムネくん」

「……?」


 え、いいってなにがだ?


 来世で生まれ変わってもいいってことか? やったぁ! 次は転生主人公だあ!


 前後の文脈がわからず混乱していると、ナルがゆっくりと離れてゆく。


 彼女の目には光があった。先ほどまでの闇堕ちバージョンとは違う。光属性のまっとうなナルだった。ナルは俺の頭をよしよしと撫でながら、微笑んでいた。


「ちゃんとごめんなさいしたから、許してあげる」

「えっ、あっ」


 そうか、俺が土下座して謝ったときのことを言っているのか。


 まさかここで許されるなんて。信じられない。だってまだ切腹もしていないのに……。


「……いいのか? ナル」

「うん、浮気は正直すっごいヤだったけど」


 その一瞬だけ彼女の瞳から光が失われ、俺はゾクッとした。しまった藪蛇をつついて出してしまった。


「でも、もうしないって言ってくれたし」


 ナルはニッコリと笑う。


 ああ、なんだろうこの感覚。


 俺の中の闇という闇が、浄化されてゆくようだ。


 天使、天使だ。俺の天使はここにいた。


 そうだ、別にフラメルに許してもらわなくても、俺にはナルがいるんだ。よかった。本当によかった。キキレア? 誰だっけそれ。ああ、あの人間ね。


 俺はひざまずきながらナルを拝む。


「ありがとう、ナル」

「うんっ」


 頭を何度もよしよしされて、俺の胸は暖かくなった。ああ、生きているって素晴らしい……。生きていたい、永遠に生きていたい……。


「えっ、わたしは絶対にゆるさないんですけ――もごもごもご」

「――あんたが喋るとこじれるから今は大人しくしていなさいミエリ。ま、そういうわけだから!」


 ミエリの口を塞ぎながら、キキレアがこちらに向かって声をあげる。


「マサムネ、あんたのしたことは男としてマジで最低でとても弁護できるようなもんじゃないし、クズもここまで極まったかっていうレベルのクズっぷりだったけど」

「う、うん」


 そこまで言わなくてもいいじゃん……。俺だってけっこういいところあるだろ……。食べた食器はちゃんと流しに戻すし……。


 微妙に凹む俺を横目に。


「でもそれは別に、今に始まったことじゃないしね!」


 キキレアは頬を膨らませながら、うんうんとうなずく。


「思えばあんたは冒険の最中からずっとクズ街道まっしぐらだったし、今さら浮気したぐらいで幻滅するのも本当に今さらよね! まあ、浮気したタイミングはこっちの予想をはるかに上回るぐらいクズだったけど!」


 あんまりクズクズ言わないでくれよな……。


 地べたに正座した俺は頭をかく。


「……こんな俺でもいいのか、キキレア」

「そんなあんたは嫌よ、もちろん」


 うぐ。


 一蹴されてしまった。


 キキレアは俺に向かって意地悪な笑顔を浮かべながら手を伸ばす。


「でもあんたは変われるんだって言い張るんでしょ。だったら、それを信じて待つぐらいのことは、してあげたっていいわよ」

「キキレア……!」


 こいつ、なんて度量が広いんだ……!


 ナルだけじゃなくて、キキレアまでも天使だったのか!? そんなまさか! 天使&天使だと!? 俺のハーレムメンバーはお笑い天使二人組+1だったのか!


 こほん、とキキレアは咳払いする。


「もっとも、今回の件については、おうちに帰ってからしーっかりとお仕置きさせてもらうからね」

「……は、ははは、お手柔らかに」


 まあ、天使だからってそこはきっちりするよな……。初犯だからって罪がなくなるわけじゃないし……。そこは甘んじて受け入れるさ……。


 ナルはウキウキとした調子で両手をワキワキさせる。


「そうだね、耳にしようか、目にしようか!」

『えっ!?』


 唖然とした顔で、俺とキキレアがナルを見やる。ナルはしばらく首を傾げていたが、すぐにニッコリと微笑んだ。


「大丈夫大丈夫、冗談冗談!」

「アッハイ」


 俺は本当に家に帰っても平気なのだろうか……。そこはかとない不安がこみ上げてくるが、まあ、うん。


 浮気して彼女たちを傷つけてしまったことは事実だ。それ相応の償いはしないとな。


「じゃあきょうはあんたの嫌いな料理を並べてやろうかしらね」

「ええっ、かんべんしてくれよー」


 町の住人たちからドッと笑いが巻き起こった。


「ははは、マサムネすっかり尻に敷かれてんな」

「こいつは一生逆らえないぜー」

「ヒューヒュー! お熱いねえ!」

「ワハハー」


 優しい世界であった。なんだこれ。


 まあいいか。俺も切腹せずに済んだからな……。


 だが、そこに――。


「――ちょっと、待ってよ!」


 今まで蚊帳の外に置かれていたフラメルが、立ち上がって叫んだ。


「なんなのこれ!? なんでこんな和やかなことになっているの!? ねえお兄ちゃん、あたしの立場は!?」

「あとで弁護士を通じて話し合おう」

「なんで急にそんなドライになっているの!? ちょっと待ってよ! あたし納得いかないからね!」


 フラメルが俺の腕をぐいと捕まえてくる。


 と、そこになぜか知らないが、ミエリまで飛び込んできた。


「そうですよ! 結局、なんなんですかマサムネさんは! わたしとフラメルとどっちがいいんですか!」

「そうだよ! 一億歩譲って、キキレアさんとナルルースさんはいいとして! あたしかミエリお姉ちゃんかどっちを選ぶか今ここで言ってよ!」


 え、えええええ……?


「もういいよそういうの……おうち帰ろうよ……」

「なんで疲れ果てているんですかマサムネさん! いいから早く! 選んでくださいよ!」

「そうだよお兄ちゃん! 昨夜のことはまだ終わっていないんだからね!」


 なにこれ、なにこの展開。


 それって、俺が言ったほうが改めてハーレムメンバーになるってこと?


 ミエリかフラメルか、どっちがいいかってこと?


 マジかよ、まさか女神ふたりから取り合いをされることになるとは思ってもいなかったわ。


「ええー……、私ちょっとフラメルとはうまくやれる気がしないわね……」


 キキレアがげっそりとつぶやく。


「ちょっとキキレアさん、どうしてわたしが負ける前提なんですか!?」

「いや、だって、ねぇ……?」


 キキレアは口をごにょごにょさせながら俺を見た。まあふたりのスペックは明らかに違いすぎるよな。ミエリをおうちに置いといたところで、トクはひとつもないだろう。


 ナルは「ふふふっ」と楽しそうに微笑んでいた。まるで俺の心を見抜いているかのように。


 なおもフラメルは、俺の腕を強くぎゅっと抱き締める。


「ねえ、お兄ちゃん! そんなポンコツ女神なんかより、あたしのほうがずっとずっといいよね? 才色兼備で勉強だってできるし、運動神経だっていいし、あたしはひとりでなんでもできるからね! きっとお兄ちゃんの役に立つから、ね!」

「そ、そんなこと言ったらマサムネさん! わたしだって料理! ……はできませんけど、戦闘! ……だってフラメルよりは活躍できませんけど、運動神経も頭の良さもフラメルには! ……敵いませんけど、……あ、あとは一緒に過ごしたたくさんの思い出ぐらいしかないですけど! でもわたしフラメルには負けたくありませんよおおおおおー! うわああああああん!」


 両方からもう、アピールがすごい。


「いやあ」


 でも、もうどっちを選ぶかなんて、とっくに決まっているんだよな。


 俺は意を決して。


 フラメルの手を振り払った。


「えっ……?」


 絶望的な顔でこちらを見やるフラメルの前、俺はミエリを両腕で抱きしめながら。


 首をフラメルに向けて、すまなそうな顔で告げる。


「悪いな、フラメル。こんなポンコツ女神でも、けっこうかわいいとこあるんだよ。だから、ごめんな」


 ミエリかフラメルか。まあスペックでみれば間違いなくフラメルだけどさ。でも、人は人をスペックだけで選んでいるわけじゃないからさ。


 ナルだってキキレアだってポンコツなところはいっぱいあって、それでも俺たちは楽しく暮らしているんだ。


 だからどっちかを選べと言われたらミエリだ。それは悩むまでもなく、間違いない。色々あったけれど、そんな色々を含めて俺はミエリのことが好きなんだよ。


 フラメルはなにが起きたかわからないという顔で目を瞬かせていた。


「だから、ごめんな」


 俺はフラメルに頭を下げた。もっとお互いのことを知っていけば、たぶんきっとフラメルのことも好きになれるんだろうけど、さすがにそれは俺にとって都合が良すぎるしな。


 さ、帰ろう、みんな。


「クズという概念を固めて作り上げたような存在のキングオブクズたるマサムネが、ぽっと出の可愛い子よりずっと一緒にいたポンコツな子を選ぶとか、そんなまともな選択するなんて……。あんた、本当にあのマサムネ……?」

「じゃかあしい!」


 信じられないような声をあげるキキレアを一喝する。俺をなんだと思ってんだよ!



 そして、そのときの俺は気づいていなかった。


「なんなのこれ……、こんなのありえない……、ありえない……、ありえない、ありえない……、ありえっ、ないっ……!」


 フラメルがその両手に、爆発的な魔法のエネルギーを溜め込んでいたことを――。


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