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後日談7話 「ゼノスの贈り物」

 俺はバインダを手に持ちながら、三人――ミエリとナルとキキレアを見返す。


「確かに俺のしたことはお前たちにとって許せないことだったかもしれない! しかし、たった一度の過ちを犯した者を断罪するというのならば、お前たちは一度も間違えずに生きてきたというのか!?」


 俺が怒鳴ると、へへんとミエリが胸を張った。


「あたりまえじゃないですかあ! わたしなんて一度も間違ったことないですよー!」

「マサムネお兄ちゃん、あいつムカつくから一緒にお仕置きしちゃおうよ」


 隣のフラメルがくいくいと俺の袖を引っ張る。わかる。でも待ってくれ。


「むきー! ムカつくのはそっちですー! お姉ちゃんの恋人を寝取るような妹に育てた覚えはありませんー!」

「はー? ミエリお姉ちゃんに育てられた覚えとか微塵もないんだけど、なにを言っているの? ああ、反面教師としてならすっっっごく役に立ったけど?」


 いがみ合う姉妹たち。すべての問題はこいつらにあるんだけどな……。


「えーいもう許しませんー! ギガサンダー!」


 そんなとき、ミエリは再び俺たちに向かって雷魔法をぶち込んできた。うおう!


 だがフラメルはそうくると読んでいたばかりに、まるで動揺せず両手を前につきだした。


「ふふん! マジックシールド!」

「っ! サンダー! サンダー! サンダー! サンダー! サンダー! サンダー! サンダー!」

「お姉ちゃんのポンコツお笑い魔法なんて、ぜんぜんききませーん」


 ミエリの放った凄まじい雷撃は、フラメルが作り出した魔法障壁によって防がれた。お、おう、すごいな。インディグネイションを防いだのもこれだったのか。


 懲りずに魔法を乱発するミエリの雷は、一撃一撃が地面をえぐるほどの威力をもっていたが、しかしフラメルは余裕綽々の態度を崩さない。


 再びミエリが「むきー!」と叫んだ。


「ちょっとフラメル! お姉ちゃんの魔法をそう簡単に防御しないでくださいよ!」

「だったら力ずくで貫いてみせたら? まあ授業中寝てばっかりで万年ビリがお似合いのお姉ちゃんには到底ムリだと思うけどね?」

「むきいいいいいいいいいい! サンダー! サンダー! サンダー!」


 ミエリは延々と魔法を繰り出すが、こちらには一切届かない。これは素直にフラメルの力量を褒めるべきなんだろう。フラメルめちゃくちゃ強い。


 しかしなんなんだこのリトル女神大戦……。


 あとさっきからずっとニコニコしているナルがこわい。目に光がない。俺がなるべくそちらを見ないようにしていると、キキレアが前に進み出てきた。


「……ミエリもナルもこの状態だから、私が貧乏くじを引いたみたいですごい嫌なんだけど、示談案を出してあげるわ」


 その声色は怒りかなにかで押し殺されていたものの、比較的冷静さを保っているようであった。


 しかし、今さら示談だと……? 俺に殺す殺すと言っておきながら、なにを虫のいいことを!


 ホープタウン中を巻き込んだ戦いに発展させておきながら! ふざけるなよ! どんな条件だって飲めるものか!


 俺はお前らお笑いポンコツ三人組ではなく、このフラメルと一緒にまた新しい家庭を作るんだ! もういいんだ! 放っておいてくれよ!


 キキレアは据わった目でこちらを睨みつけてくる。


「あんたが今すぐ私たちの前に土下座して、『もう二度と浮気はしません』と誓うならば、今回だけは許してあげるわ」

「えっ」


 俺はドキッとした。


 そ、そんなに簡単な条件でいいの……? マジで?


 キキレアのことだから『心臓を差し出せば』とか、『脳をおひたしにすれば』とか、『屋敷の地下室の中で永遠に過ごせば』とか、そんなことを言われるんだと思っていた。


 それなのに、土下座するだけで許してくれるの……?


「ま、待ってお兄ちゃん!」

「ハッ」


 俺はフラメルの声によって元に戻った。


「ちょっと! 余計なことを言うんじゃないわよこのフラメル! 今回だけは見逃してやろうって言っているのに!」


 ついに元信仰神を呼び捨てにするキキレアは、最高にロックな女である。あれほど修業して修業して習得した炎魔法を、一時の怒りで無に帰すこともいとわない。今さらフラメルに媚を売ったりするなどまっぴらだというその態度、彼女こそが真のロックスターと呼んでも過言ではないだろう。


 ともあれ、フラメルは俺の腕をギュッと握ってミエリやナルの神経を逆撫でしながら、叫んだ。


「――お兄ちゃんがもう二度と浮気をしないなんて、無理に決まっているでしょ!」


 そのとき、虚しい風が吹き抜けていった。


 いや、あの。


「そんなの、わかんないじゃん……」


 俺は目を逸らしながらつぶやく。


 フラメルは自信満々に首を振る。


「ううん! あたし愛の女神だからわかるよ! お兄ちゃんは永遠にしょうもない浮気を繰り返して、そのたびに愛を取りこぼして、最終的に自分の愚かさによって不幸にしかならないタイプの人間だよ! あたしそういうクズいっぱい見てきたけど、マサムネお兄ちゃんはその典型的なタイプだもん!」

「待って! 女神さまのお墨付きやめて!」


 俺は耳を塞いで叫ぶ。聞きたくなかった。


 こちとら冷静かつ慎重と呼ばれ、決して衝動的に行動はしない男だぞ……。それなのに、そんな、そんなわけないじゃん……! ないじゃん……!


 フラメルは俺の腕に豊かな胸を押しつけながら言う。


「だからお兄ちゃんは誰になんて言おうとも、最終的には絶対一時(いちじ)の感情で浮気するし、そのたびにこんなドタバタ騒動を繰り広げるんだよ! だから浮気を許すかどうかなんてハッキリ言って不毛な討論だよ! この場合の焦点は浮気をするとわかっているこのマサムネ(クズ)を許容できるかどうかだよ!」


 言葉のひとつひとつがプロボクサーのパンチのように、俺のこめかみを撃ち抜いてゆく。


 痛い。痛すぎる。


 キキレアもまた、フラメルの言葉にたじろいでいるようだった。


「そ、そうかもしれないけど! でもマサムネは旅をしている最中にちょっとずつまともになったり、カッコイイところだって見せてくれたわよ! だから、だから少なくとも私は、人間はいつかきっと変われるって信じたいわ!」


 フラメルはキキレアの叫びを、所詮は願望だと吐き捨てる。


「何千年も見守ってきたけど結局人間は変わらなかったよ! 愚かなことを繰り返してばかりなの! 人間は決して進化しないし、争いを終えるその日は来ないし、そして浮気はなくならないんだよ!」

「っ、だからって……! そんな……!」


 なんでこんな話になっているんだ。


 俺はいったいどういう顔をしていればいいんだ。


 フラメルと一晩寝ただけで、どうして神と人間が人々の愚かさについて叫び合う展開になるんだ。


 なんなんだよこれ……。


 示談という俺の逃げ場を完全に奪ったフラメルは、満足気に微笑む。


「うふふ、でもね、いいんだよお兄ちゃん。あたしは神様だからね。そんなお兄ちゃんの愚かなところも一生懸命愛してあげるからね。死ぬまでそばで見とってあげるから!」

「むきー! サンダー! サンダー! サンダー! ぜぇ、ぜぇ……、サンダー! サンダー! サンダー!」


 狭量なほうの神様が必死にこちらに向けて魔法を繰り出してきているんだが、それはいいとして。


 フラメルがミエリを煽るためだけに俺を寝取ったはずの展開は、思った以上に大事おおごとになってしまった。


 ミエリは息を切らしてその場にへたり込み、キキレアはまるで打ちのめされたような顔で俯いている。


 完全勝利を確信したであろうフラメルは、俺の頭を撫で、この耳にフッと吐息を吹きかけてきた。


「主神を決めるための争いでは負けたかもしれないけど、でも、あたしは絶対にお姉ちゃんに負けたわけじゃないんだから……。ほら、ふたりでイクリピアに帰ろ? ね、お兄ちゃん♪」


 俺は唇を噛む。


 フラメルに腕を引かれながらも、その場から動こうとはしなかった。


「……お兄ちゃん?」


 俺は大きく息を吸った。


 そうして、地面に両膝をついた。


「お兄ちゃん!?」


 ミエリに向けて、ナルに向けて、そしてキキレアに向けて。


 土に額をこすりつけるように。


 頭を下げながら、叫んだ。


「――本当に、すまなかった!」


 辺りがシンと静まる。


 誰もなにも言おうとはしなかったが、俺は土下座を続けた。


「俺の軽い気持ちでお前たちを傷つけてしまった! 俺は本当にどうしようもないやつだ!」


 フラメルが俺の腕を引っ張る。


「ちょ、ちょっとどうしたのお兄ちゃん! そんなことをする必要はないんだよ! だって人間は愚かで罪深い生き物なんだから、その中でもお兄ちゃんは特に愚かで罪深さレベルがぶっちぎりで高いんだから、今さらそんな」

「――だとしてもだ!」


 そうだ、俺は思い出したのだ。


 たとえ人間がどんなに愚かでも、罪深くても、俺だけはそうはならないと。


 みんながそうだから俺もそれでいいというのは、短絡的すぎる思考だ。


「凡人はそうかもしれない! あるいは金目的に俺を追いかけまわしてきたようなホープタウンのクズどもはきっとそうだろう!」


 ぶっ殺すぞー! という外野からの叫び声がしたが、構わず続ける。


「しかし俺は違う! 俺は慎重で冷静な男、マサムネだ! 俺は失敗から学び、そして頂点を掴み取る! 俺はこの三人と家庭を築き、そして幸せの頂点だって掴み取ってやろうじゃないか!」


 そう。


 フラメルが俺に告げた数々の『赦し』は、俺の反骨心に火をつける結果にしかならなかったのだ。


「俺は! 魔王を倒した男、マサムネ! もう一度俺にチャンスをくれ、みんな! 今度こそきっと、一途で誠実な完璧な男になってみせる、だから!」


 そのときだ。


 ぱぁ……と空から光が舞い降りてきた。


 これは。


 魔王を倒して以来だ。俺の心の力によって生み出される覇業。俺だけの力。


 そのカードはきらめきながらバインダに収まった。


『異界の覇王よ――。其方の反省に、新たな内なる力が覚醒めるであろう』


 その声が創造神ゼノスのものであると、俺はもう知っている。


 さあ、新たなる力をくれ、ゼノス――。


『其方のささやかな謝罪は、人々の怒りを鎮めるであろう――』


 俺は土下座した姿からゆっくりと身を起こし。


 その場に正座をしながら、ゆっくりとバインダを開いた。


 そこには一枚のカードが収まっていた。


 その名も【セプク】。


 ……ん?


 カードの効果を見てみた。


『このカードを使うと人々の許しを得ることができる。使用者は死ぬ』


 待って。


 待って。


『切腹』じゃねえかよ!!!!


 やんねえよ!?!?!?!?!?!?




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