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後日談6話 「クズタウンの醜い争い」

「クワーハハハ! 我らマサムネハンター四天王がひとり、流青のグリファス! その首もらいうけたー!」


 アホなことを叫びながらサーベルを振り上げて襲いかかってきたその男を、俺は【エナジーボルト】のカードで撃ち落とす。男は悲鳴をあげて気絶した。クソ弱い。ていうかなんだマサムネハンター四天王って……。いつそんなのできあがったんだよ……。


 そんな感じで、大通りの十字路にて、四方八方から金と嫉妬に狂った亡者どもが襲いかかってくる。


 身のこなしはほとんどが素人も同然、フィンやイクリピアの騎士に比べても拙いものだ。


 だが、技術だけではない、それ以上に妄執のようなものが感じられた。


 その怨念が俺の足を鈍らせ、彼らを実力以上に大きく見せている。


 まあいい、カードの勝負はクレバーな頭脳戦だ。しかし、その一方でどうしても覆すことができない実力の壁を、執念や気合で乗り越えることだってある。その正体は『集中力』や『観察力』だと俺は思っている。


 こいつを殺したい、こいつを酷い目に合わせたい、こいつを陥れたい。そういった負の感情が積み重なって、相手の一挙一動を見抜く力となるのだ。


 ホープタウンのクズどもはハッキリ言って弱い。だが侮れば足元をすくわれるだろう。俺は冷静で慎重な観点からそう判断した。


 であるがゆえの――【キュマイラ(ようしゃのなさ)】だ。


「嘆きの底に沈むがいい、愚者どもめ! オンリーカード・オープン! 【キュマイラ】!」


 次の瞬間である。俺の足元が五芒星に輝くとともに、そこから光が立ち上った。おお、演出がある! 特殊召喚みたいだ!


 さらに光はシルエットのようなものを形作った。愚者どもがさすがに驚いて足を止める中、ゆっくりと光は輪郭を帯びて、そうして色づいてゆく。


 空中から巨大な獣が飛び立ち、地上に降り立つとともに、辺りに咆哮が響き渡った。


『――ギャオアアアアアアアアアアアアアア!』


 それは体長六メートルほどもあるキュマイラ――獅子の頭にヤギの頭と胴体、そして毒蛇の尻尾を持つ多頭獣であった。頭をぐるりと回して周囲を見回したキュマイラは、俺の指示を待つかのようにその場で圧倒的な貫禄を見せつけていた。


 クズどもは一瞬で身をすくめ、明らかに動揺しているようだ。


「お、おいなんだこれ!?」

「マサムネなにしやがったんだ!?」

「嘘だろ、あんなクズ野郎がこんな強力な魔物を使役しているだなんて!」

「あいつ魔物の弱みまで握ってやがるのか!?」

「くそう、まともじゃねえ! なんて鬼畜なド畜生なんだ!」


 ふははははは! いくらでも言うがいい! 弱者め!


 しかしやばいな。強そうにもほどがある。なんだこのクリーチャーカード。【インプ】と【ゴーレム】の次に手に入れるカードにしては、破格の強さなんじゃないか。6/8の挑発持ちって感じだな!


 こいつさえいればこんなクズどもは一層だ! よし、キュマイラよ、俺の命に従いこの始まりと希望の町を終わりと絶望の町へと塗り替えてやるがいい!


 って。


「なんか体からすごい勢いでMPが吸い取られてゆくううううううううう!」


 なんだこれ! 倦怠感がハンパじゃない! 維持しているだけで俺の体が枯れ木になっちまいそうだ! 疲れる疲れる疲れる! もうだめだ!


「ハウス! 【キュマイラ】! ハウス!」


 俺が慌てて叫ぶと、キュマイラは『え? マジっすか? なんもしてないっすよ僕?』みたいな顔をして光の粒となって消えていった。


 ぜぇ、ぜぇ……、そうだ、忘れていた……、ユズハの魔力総量は俺より遥かにデカいんだった……。俺が使えないようなカードも、あいつは連発できるからな……。


 俺は呼吸を整えながら、いまだ足を止めているクズどもに向かって声を張り上げる。


「ど、どうだ、見たか俺の力を! これでもまだ俺を倒して報奨金をゲットしたいと考えているのなら、それはあまりにも都合のいい考えと言わざるをえないな! 命より高いものはないぞ! 諦めて引き下がるがいい!」

「――ダマされるんじゃないっすよ!」


 ナニッ!?


 その瞬間、誰かが叫んだ。あいつらは……、つか、エマじゃねえか!


「マサムネさんはハッタリを言っていますよ! だって今すごい慌ててあの召喚獣を消したじゃないですか! 彼があしだったらせめて力を誇示してから消すはずですもん! マサムネさんはあの召喚獣を使いこなせていないんですよ!」

「――ッ!」


 く、くそが……! なんなんだよあの女! 有能すぎるだろ!


 どんだけ俺の邪魔をすれば気が済むんだ! ちくしょう!


 そのエマの声を聞いて回りの冒険者たちも意気揚々と拳を掲げる。怯えて逃げ出すやつはひとりもいなかった。さすが俺のホームタウン、俺に関して詳しいやつが揃っているじゃねえか! 


「そうだそうだ!」

「あいつは人を騙すことばっかり長けていて、実力なんてからっきしだからな!」

「所詮は根性なしのクズってことだ! 一網打尽にしてやれ!」

「俺たちのナルちゃんをよくも! 死ねー!」


 そんなときだ。俺の横から桃色の髪の女性が飛び出た。彼女が両手を突き出すと、辺りに赤い火の粉が弾け飛ぶ。


「ファイアーウォール!」


 地面を突き破って立ち上った炎の壁は、四面を防ぐように俺の周囲に出現した。その炎は赤でもなく、どちらかというと白に近い色をして揺らめいている。


「ふ、フラメル!」

「大丈夫だよ、マサムネお兄ちゃん! お兄ちゃんはあたしが守ってあげるからね!」


 頼りになる……。思わずその細い腰に抱きついて頬ずりをしたい気分だ。


「くそーなんだこの壁はー!」

「魔法だ! こわい!」

「クズを叩きのめしてストレス解消しつつ正義感を満たせてお金までもらえる最高のクエストだと思っていたのに!」

「女の子にかばわれて恥ずかしくないのか! ヒモムネ!」


 誰がヒモムネだ、誰が。


 冒険者クズたちは、その炎の壁に阻まれてこっちにはやってこれないようだ。まあ俺たちも出られないわけだが、そこはそれ、俺の覇業がうなるってわけさ。


 俺は【ホバー】を使って飛び立とうと思ってバインダを広げる。しかしそうしたところで急に風切音がして、思わず後ずさりをした。


 地面に次々と突き刺さる。それは矢である。


 俺はゾッとして叫んだ。


「おいシャレになっていねえぞてめえら!」


 炎の向こうからエマの明るい返事がする。


「大丈夫っす! 矢尻に麻痺毒が塗りこんであるだけですから!」

「どっちみちこんなん刺さったら致命傷だろうがああああああああああああ!」


 くそう、投射物をどうやって防げばいいんだ!? なんかあったか!


 とりあえず俺は【ゴーレム】を呼び出してその影に入って矢避けとするものの、矢は四方八方から放たれてくるため防ぎきれない!


 どうする。どうする。いったん【ホール】に隠れてやり過ごすか――。


 そう思っていた俺の隣で、フラメルは魔法を詠唱していた。


「星に眠りし神の炎。その一欠片、ただ愛のみによって出ずる。命を奪い、命を尽くし、そして命を問え……!」


 ってお前、それ!


「やめろ、フラメル! 町を吹き飛ばす気か!」


 フラメルはつむっていた目を開くと、ニッコリと微笑んだ。


「大丈夫だよ、お兄ちゃん。あたしに任せて!」

「いやいやいやいや――」

「――汝、新生の歓びを!」


 待ってえええええええええ!


 フラメルの魔法がこの町のど真ん中の、十字路に放たれた。


「――スーパーノヴァ!」


 視界が真っ白に染まった。




 意識を失っていたのは、ほんの数秒程度だったろう。


 俺が頭を振りながら周囲を見回すと、そこは「うわあ」とうめきたくなるような惨状だったし、俺は実際「うわあ」とうめいてしまった。


 そこはまさしく死屍累々。フラメルの繰り出した大魔法の威力は別格で建物には被害がなかったものの――見渡す限り冒険者クズどもが倒れ伏していた。ホープタウンは本日、文字通り死の町へと変貌したのであった……。


 ひえー……。


 遠くには金の亡者(エマ)もいて、体をぴくぴくと痙攣させて……。


 ……って、あれ? こいつら生きてやがるな。


 スーパーノヴァはなにもかもを焼き尽くす炎系最強呪文のはずなのに。


「なあ、フラメル」

「うふふ、もっちろん」


 俺の言いたいことがわかったのか、フラメルは豊満な胸を張りながらえへんと口元を引き締める。


「あたしの炎は白色無血、愛の炎。人を傷つけない炎だからね! スーパーノヴァだってまともに食らっても気絶するだけで済むんだよ――ってあ痛い!?」


 得意気に笑うフラメルの頭を、とりあえず俺ははたき落とした。


「だったら先に言えよ! 大量殺人者になるかもしれないってめっちゃビビったじゃん!」

「え!? う、うん、ご、ごめんなさい……?」

「まあ助けてもらったのはありがとう」

「は、はい」


 釈然としない顔でうなずくフラメルの頭を、今度はぽんぽんと撫でる。


「ま、これでとりあえずは逃げ切れるだろう。でかしたフラメル」

「うん。お兄ちゃんどう? あたしの魅力にもうメロメロ? どう? どう?」


 大人の魅力にあふれたフラメルがそんな風に無邪気なしゃべり方をするのって、端的に言ってすげえ最高だな、って思った。


「ま、お前がいてくれて助かったよ」

「じゃあ好き?」

「えっ!? いや、まあ、それはまあ」

「お姉ちゃんより愛している?」

「まあまあまあまあまあ、その話はあとにしよう! 安全なところにいってから、だな?」

「ふぅ~ん」

「あひゃん!」


 フラメルが意地悪そうに目を細めて、俺のリトルマサムネをズボンの上から一撫でしてきた。やめなさいってば!


「いいよ、今はそういうコウモリみたいな態度でも。すぐにあたしから離れられなくしてあげるんだから」

「お、お手柔らかに……」


 俺たちは歩き出そうとして。


「――あそこよ! 殺せ!」


 遠くから迫ってくる冒険者の集団と、その先頭に見慣れた赤髪の鬼がいるのを見て、ダッシュをし始めた。


「俺そんなに悪いことしたかなあ!?」

「愛の女神の観点から言っても、浮気は重罪だと思うよ、お兄ちゃん」

「半分はお前のせいだろ!?」


 俺は怒鳴った。この状況では怒鳴るぐらいしかできなかった。




 だがすぐに俺は、伏兵の存在によって、町の端に追いつめられてしまった。


 天には暗雲が立ち込め、星の見えない夜空の下――。


 ミエリ、ナル、キキレア。(あとその後ろに大量の冒険者たち)


 ともに世界を救ったはずの三人と、こうして敵対することになってしまうだなんて……。なんとも皮肉な運命さ。


 だがそれぞれにはそれぞれの正義というものがある。俺たちは、いつまでも子どもの頃のように、夢を見ているままじゃいられなかったんだ。


 そうさ、いつもはだらっとしているように見えるこの俺にだって、譲れないものがあるんだ――。


 ――自分の命、とかな!



 ここに、ホープタウンを二つに分かつ戦いが始まろうとしていた……。


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