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後日談1話 「いきなりすげえクズ」

 6月10日に俺クエ書籍版2巻が発売します! やったね!

 というわけで、後日談をしばらく連載することにしました。たぶん10話ぐらいで終わります。


 この物語は、本編を読んで「あーよかったよかった! ハッピーエンド!」っていう感動に水を差す可能性がありますので、お気をつけてください。

 なお、登場人物には大量のクズが含まれております。

「すがすがしい朝だ……」


 俺はとっくに頂点を過ぎ、むしろ沈みつつある陽を窓越しに眺めながら万感の想いを込めてしみじみとつぶやいた。


 片手にはマグカップを持ち、もう片方の手は腰に手を当てている。パンツは履いているが、半裸だ。ここは俺の部屋なので、問題はない。


 魔王を退治し、ホープタウンに帰ってきてから85日が経過した。


 そんな俺だが、昨日までの俺とは違うと思わないか?


 そう、言うなれば……男としての格、がな。


 世界が新たに開けた気分だ。今の俺はビッグマサムネ。もうリトルマサムネとは言わせない。ふふ、ビッグだからな、ビッグ。


「マサムネくーん」


 愛しのベイビーの声に振り返る。俺は気取った仕草で前髪を払いながら彼女を見やる。平たい胸を隠すようにシーツをたぐりよせた少女は、俺を見て「えへへ」と微笑みながら頬をかいた。


「マサムネくん……、とうとうあたしたち……、結ばれちゃったね」

「ああ、そうだな、ナル」


 俺は口元に大人の笑みを浮かべた。そう、俺はもう大人だ。大人すぎる。昨日までの俺はただのガキだった。


 ベッドに寝転ぶナルは、一糸まとわぬ姿だった。シーツによって体のラインが浮かび上がる。すらりと長い足。すべすべのふともも。丸みを帯びた尻から腰へとかけての曲線は芸術品のようだ。これがすべて俺のものだという事実に、感動を隠し得ない。


「マサムネくぅん……」


 俺の視線を浴びたナルは恥ずかしそうに枕で顔を隠す。だがそれを口元に寄せて、目だけで嬉しそうに微笑んだ。かわいい。かわいいすぎる。


 ずっとこの日を待っていたのは俺も同じだ。屋敷で彼女(たち)と暮らし始めてから、俺はずっと我慢に我慢を重ねてきた。世界我慢コンテストがあれば優勝もかくやという勢いの我慢っぷりだ。


 そんな俺の理性を試すかのように、ナルは俺をひたすらに挑発した。俺がお風呂に入っている最中に背中を流しに来たり、夜は添い寝してきたり、家の中をやたらと薄着で歩き回った挙句『マサムネくんになら見られても……(ぽっ)』的な言葉をほざいたりした。つらかった。


 結果、俺の理性が崩壊したのが、昨晩のことだ。むしろ昨日までよくもったものだと思う。


 そして俺はナルを思う存分好きにした。『女の子といざことに及ぼうとするとリトルマサムネが爆発する』という代償を知りながら。もう我慢できなかった。死んだら死んだでそのときはそのとき! 来世でまたがんばろ! という気分だった。


 だが――。


 俺は死ななかった。


 なぜか死ななかった。その理由はおいおい考えるとして……。


 ピンチのあとにはチャンスがあるというのは、本当だった。死を覚悟してまでナルを抱いた俺は今、こうして幸せの絶頂にいる。


 俺はゆっくりとナルへと向かって歩いてゆく。ナルは枕をどけて、シーツを体に巻きつけると、ベッドの上にちょこんと正座をした。


「えへへ……」


 こちらを見上げながら、ナルもまた幸せの真っただ中に浸かっているかのような笑顔を浮かべ、その場でゆっくりと頭を下げた。


「ナル?」


 頭をあげたナルは俺を見つめて、恥ずかしそうにこてんと首を傾けながら、とろけるような顔で微笑んだ。


「ふつつかものですが……、これからもよろしくお願いします、だーりん、……なーんて」


 かわいすぎる。俺は思わずドキッとした。


 一生この子を大切にしようと思った。こんなに可愛くていい子が俺を好きになってくれた奇跡に感謝しなければならない。俺の本当の幸せはここにあったのだ。もう絶対に忘れない。この子を裏切るようなことがあったら、俺は俺を許せないだろう。


 俺はベッドに乗って、彼女をギュッと抱き締めた。


「あっ、ま、マサムネくん……?」

「愛しているよ、ナル。これからもずっと一緒だから」

「うん……、あたしもぉ……?」


 耳朶に滑り込む彼女の可憐なささやきを聞きながら、俺はナルの細い体を抱く。お互いの体温が伝わり、心臓の鼓動が重なる。


 俺の旅は今度こそ終わったのだ。異世界転移の終着地。それは家を手に入れて、最愛の伴侶を見つけ出すことだ。魔王を倒すだなんて大それた目的よりも、そっちのほうがよっぽど大切なのだと俺はようやく気づいた。


 俺はこれから真人間として生きてゆくだろう。浮気はせず、彼女を傷つけず、真面目に、まっとうな道を歩いていこう。クズの汚名は永遠に返上だ。


 できるはずだ。だって俺のそばには、こんなにも俺を愛してくれているひとりの少女がいるのだから――。


 ナルを抱き締めたまま、俺たちは再びベッドに横になった。外は夕焼け模様に染まりつつある。夜はまだまだこれからだ。


「今夜は寝かせないぞ、ナル」

「きゃ♡」


 これまでの分を取り戻すかのように、俺とナルは互いの体をむさぼった。それはとても幸せで、愛にあふれた行為であった――。








「ったくよおぉ!!!」


 その一週間後、俺は酒場のカウンター席で飲んだくれていた。


 隣に座るゴルムの顔が引きつっているが、そんなことは関係ない。どうせ俺のオゴりだ。きょうは思いっきりグチを聞いてもらおう。いや、嫌だと言っても聞いてもらう。


「別にいいじゃねえか、4Pぐらいよ! 今さらなに恥ずかしがってんだよ! ナルもキキレアもミエリも、ちょっと潔癖すぎるんじゃないですかねえ!?」

「お、おう、お前飲むのはそれぐらいにしておけよ……」

「ああ!? だってあの家だって俺のもんだろ! 魔王を倒したのだって俺の手柄だぞ! だったらいいじゃねえかよ! ちょっとぐらい! 減るもんじゃねえしさあ!」


 くっそう。俺は再びエールをあおる。苦い。全然おいしくない。だがその不快感で、胃の奥のムカムカを忘れられるような気がした。


 ナルを抱いたその翌日、俺はキキレアとも関係をもった。さらにその翌日、ミエリとも関係をもった。


 そのことが一瞬でバレたのはまあいい。ひと悶着はあったが、まあどうせ同じ家に暮らしているんだ、隠し通せるはずがない。どっちみち俺はあいつら全員をハーレムメンバーにするつもりだったからな。


 逆にバレたことで公然とオープンにいろいろなことができるようになったのだから、俺にとっては喜ぶべきことだ。俺は再びピンチをチャンスに変えた。これがもとカードゲームチャンピオンの手腕だ。


「だってさ! こっちは84日も我慢してたんだぞ! 84日分のお楽しみをまずは取り返したいと思うだろう!」

「なんというか、日にちまで覚えているお前キモいんだが……」

「うっせえな! エマ! エールもう一杯!」

「はーい♪」


 エマはルンルン気分でやってきた。俺が多めにチップを支払っているからだ。エマは本当にブレないな。すがすがしいくらいだ。


 やってきたエールを一気に飲む。そうしているとだ。いつの間にかゴルムがどこかに消えていってしまった。


 くそ、あの野郎逃げやがったな。


 俺は熱いため息をつきながら、うめく。


「別にいいじゃねえかよ……、ハーレムは男の夢なんだからさあ……、あんなに怒ることないじゃんよ……」


 思ったより弱々しい声が自分の口から漏れた。


 きょうは帰ったらたぶん三人に叩きのめされるだろう。なんかそんな予感がする。やはり時期尚早だったのか。4Pではなく、まずは3Pから慣らしていく必要があったのか。俺は出すカードの順番を間違えたのか。キキレアとナルとの3Pだったら、意外とあいつら仲良いしOKしてくれたかもしれないし……、くそう……。


「ずいぶんと酔っぱらっているんですね」

「んあ……?」


 すると、俺の隣、ゴルムがいなくなったことによって空いた席にひとりの女性が座っていた。


 桃色の長い髪を伸ばした、年頃の女性だった。俺より少し年上だろうか。黒のドレスを身にまとっており、大胆に開いた胸元には巨大な果実がふたつ実っていた。でかい。


 視線をゆっくりあげる。目が合った。艶やかなルージュを引いた彼女は、その外見の派手さとは裏腹に無邪気な笑みを浮かべる。人懐っこさを感じた。


 だがなによりも驚くのはその美貌。酔った俺にも突き刺さるような華のある美しさに見覚えはない。ホープタウンの住人ではないだろう。


「……ああ、悪い。少し飲みたい気分でさ」

「そういうとき、ありますものね」


 彼女は自らの髪を撫でながら微笑んだ。俺の周りの女性にはいない、大人っぽい仕草である。


「うふふ、それにしてもずいぶんと狭量な子たちですね」

「え? 聞いてたのか!?」

「ごめんなさい、お話がとても面白かったもので」


 悪びれずに笑顔でそう言う彼女に、俺はなにも言えなかった。


 さんざんグチをはいたあとで今さら取り繕っても仕方ない。顔を赤らめながらエールに口をつける。


「私だったら、あなたみたいなカッコいい人がそばにいたら、なんでも尽くしちゃうのにな」


 噴き出した。


「あ、あんまり大胆なことは言わないでくれよ」


 なんだこの女、美人局か!? こんな都合のいい女が突然現れるわけがない! 魔王を倒したこの俺から大金をせしめようと思っているんだな!


 そうだな、女っていうのはそういうやつらだ。男が隙を見せたら何もかもを奪い尽くしてゆくつもりなのだろう。俺は冷静で慎重だからな。くく、庶民の浅知恵か。俺をターゲットにしたのが間違いだったと言わざるをえないだろう。


 俺が勝利を確信して口元を緩めると、彼女は重ねた両手を口元に当てて微笑した。


「うふふ、ごめんなさい。でも本当にそう思ったんですよ。あなたってばとってもステキなんですもの」


 ドキッとした。


「……、そ、そうか?」

「ええ。その黒髪も、思慮深い瞳も、口元も、とってもステキですよ」


 彼女はうっとりとした顔で俺を眺めている。


 その細い指先が、俺の手の甲を撫でた。背筋がぞくっとする。


 あ、あれ……。この女、美人局じゃないのか……!?


 そうだな、俺にしては判断材料が足りなかった。も、もう少しこの女の内心を探ってみようじゃないか、うん。


「あなたの魅力がわからないなんて、周りの子たちは見る目がありませんね」

「……そ、そうかもしれないな」

「絶対にそうですよ」


 彼女が椅子を動かして、さらに俺に近づいてくる。腕と腕が触れ合う。彼女の二の腕は細く、しっとりとして柔らかかった。


 女性は包容力のある笑みを浮かべながら、俺の耳に甘くささやいた。


「あなたに愛されている子たちが、羨ましいですね」


 ぞくぞくぞくぞくっ、と全身に電流が走る。


 あっ、わかった! この女、絶対に俺に惚れている! 間違いない!


 そうか、俺は今まで自分のことを過小評価していた。こんな俺に近づく女はなにか作為的で金目当てなんだろうと思い込んでいた。だが違うのだ。この俺、魔典の賢者マサムネは仮にも魔王を退治した、いわば世界の救世主!


 こんな俺に近づきたいと願う女性は、この世界に掃いて捨てるほどいるのだろう! そうか、やはりな! 俺は最初からこの女が他意もなく、純粋に俺に心酔しているということを見抜いていたのだよ!


 彼女は色っぽい仕草で色鮮やかなカクテルを飲み干す。喉が鳴って、俺はその仕草に思わず見とれてしまった。


 うん! 大人の女性、やばいな!


 ナルやキキレアやミエリ(精神年齢:幼児)にはない魅力にあふれている。そうか、俺は今初めてわかった。俺に本当に合っているのは、彼女のような大人の寛容性にあふれた女性なのだ!


 なんだか楽しくなってきた。俺はエールを掲げて笑う。


「よし、だったらきょうは朝まで飲もう! エマ、じゃんじゃん酒を持ってきてくれ!」

「はーい♪」


 俺はポケットから取り出したチップをエマに押しつけた。


「いやあ、楽しいな! お酒を飲むのがこんなに楽しいと思ったのは初めてだ!」


 俺が朗らかに微笑むと、彼女は少し目を丸くした後に、にっこりと微笑んだ。


「うふふ、いいですよ、朝まで……ですね? あ、だったら乾杯しましょうよ」

「いいだろう、なにに乾杯する?」

「それはもちろん」


 桃色の髪を撫でながら、彼女は自らの唇を小さく舐めた。


「出会いに――」





 翌日、俺は宿屋のベッドで目を覚ました。


 隣には酒場で知り合った彼女が、すーすーと穏やかな寝息を立てていた。


 俺も彼女も、全裸だった。


 まったく覚えていないが、つまりはそういうことだろう。


 うん。


 ……うん!



 ま、長い人生こういうこともあるよな! うん! やっちまったことは仕方ない! 切り替えていこうじゃないか! ヒュー! 異世界転移最高ー!!




 だがこれが、俺の運命を大きく変える出来事になるとは、このときの俺は微塵も思っていなかったのであった――。


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