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異世界帰りの大賢者様はそれでもこっそり暮らしているつもりです <WEB版>  作者: 木野二九
第十二章 お休みは用法用量を守ってお正しくお取りください
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聖女神託襲撃事件 その1

「つまり、火事騒ぎに紛れて聖女神託を妨害し、聖国王や使者を説得すると」

 美味しそうにカレーをほおばるダークエルフの隊長が首を傾げた。


 そんな事で、本当に上手く行くのか心配なのだろう。


「今は大聖堂に多くの人がいるから、相当なパニックになるだろうし……何より、火事には大きな意味がある」

 白双塔(ホワイトツインタワー)は構造上火を苦手としているせいか、歴史的にも火災を『魔のお告げ』として、嫌っている。


 聖女神託の際にそんな事が起きれば、国王を含む上層部も浮き足立つはずだ。


「国王に会えれば、説得する自信がある」

 仮に妹のアンジェが聖女に選ばれてなかったとしても、エマさんの今後の待遇を話せば、親である国王も納得するはずだ。


 問題は、まだ国王と認識のない俺の言葉をどうやって信用してもらうかだが……


「大拳王サトー殿、か。初めて伺う名だが…… その言葉、信用しよう。人の国の聖人も、貴殿の秘そめし力を見抜けば、納得するかもしれん」

 カレーを頬に付けたダークエルフの隊長さんは、俺の瞳を覗き込んでから、楽しそうに微笑んだ。


「アドリア、こいつの話を信じるのか?」

 俺の隣にいるルナが、隊長に向かって嫌な顔をする。


「ルナ、俺の能力は知っているだろう」

「先読みの瞳が、何か告げているのか? そっちの、獣族の娘の色香に惑わされたのじゃないだろうな」


 いがみ合う二人を、若いダークエルフの戦士達は笑いながら眺めていた。

 確かにルナとアドリアと呼ばれたダークエルフの隊長との間には、余人が入りがたい信頼関係のようなものが垣間見える。

 ――ひょっとしたら、この二人はデキてるのだろうか?


 男女の機微に疎い俺にも、何か感じるものがあった。

 俺が首を捻っていたら、アドリアがルナをなだめるように、


「以前話しただろう。この一連の出来事には『さ迷いし亡者』の影がある。大拳王殿にも同じような、時空を超越した力の奔流を感じるが…… これは別物だ。むしろ『大いなる意志』に近い」


 そう言ったが、ルナはフンと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。


「さ迷いし亡者?」

 その聞き慣れない言葉に、俺の胸がざわめく。


「人の世界では、『時空の迷子』と言ったか。魔力異常や魔法の失敗で時と空間の狭間にとらわれ、さ迷う者のことだが…… 希にその狭間で力を付け、現世に影響を及ぼす者もいる。それを『さ迷いし亡者』と我々は呼んでいるが」


 続くアドリアの言葉に息を飲むと、春香がそっと俺の肩に手を置いた。

「ご主人様……」


 まさか、俺が時空の狭間に突き落とした、勇者ケインが?


 いや、時空の迷子は転移魔法の失敗で簡単に生じてしまう現象だ。今まで何千人……いや、何万人もの被害者がいる。

 早々にケインだと決めつけるわけにはいかない。


「じゃあ今回はアドリアの瞳を信じてやろう。サトーの作戦に乗ってやるよ」

 ルナがそっぽを向いたまま、カレーを頬張ると、


「うん、俺も隊長とサトー殿を信じよう」

「俺もだ、で、その、おかわりくれない?」


 深刻な顔になっていた俺に対し、場を暖めるような笑顔で、二人の若いダークエルフの戦士が笑いかけてきた。


 師匠から聞いた話では、妖精族は『魔力』や『意志』の流れに敏感で、敵意を持った相手には冷たいが、一度仲間だと信頼してくれれば、協調性が高くて付き合いやすい連中だと言っていた。


「はいはいはーい! 腹が減っては、戦はできませんからね。沢山食べてください」

 春香もそれに合わせるように、笑顔でカレーをついでまわる。


 ルナは、春香に対して嬉しそうに鼻の下を伸ばすアドリアをにらみながら、

「アドリアは締らない男だが…… 戦士としての腕と、大いなる意志から授かりし『先読みの瞳』の、能力だけは本物だ」

 舌打ち混じりに、俺に話しかけてきた。


 俺がその締らない男を見て微笑んでいると、


「お前が、何者なのかは…… あいつには見えているようだから、あえてここじゃあ聞かねえが、ひとつだけ確認させてくれ」

 ルナが顔を近づけ、俺の瞳を覗き込む。


「何だ」

「あたい達をだます気はねえんだな」

「もちろんだ、信用してくれ」


 ルナの瞳に、俺が真摯な眼差しを返していたら……

 春香が鍋で、ゴツンと俺の頭を殴った。


「ご主人様は油断もスキもなく、すぐ女の人を口説く! まーったく、信用できない男ですね」


 頬を膨らます春香の声に、ダークエルフの皆さんの笑い声が広がったが、はて。

 いったい俺の何処が、信頼できないのだろう。


 ――男女の機微とは、この大賢者様をもってしても……

 謎が多すぎるようだ。



   × × × × ×



 食事が終り、作戦会議……

 と、言っても、出たとこ勝負の侵入作戦だが、その打ち合わせも滞りなく終る。


 いよいよ大聖堂に、この場所に溜まった煙とカレーの臭いを運ぼうと、春香に頼んで魔法陣に魔力を通していたら、


「賊め! 今俺が成敗してやるから、そこに直れ」

 這々(ほうほう)の体で、縛り上げていたはずのラン・ブレードが近づいてくる。


 さすがは未来の剣聖。

 俺の師匠直伝のボディーブローを受け、春香の拘束を解いて、向かってくる根性と技術と体力は見上げたものだ。


 しかし、申し訳ないが…… 今しばらくは眠っていていただこうと、俺が剣を構えたラン・ブレードに立ち向かうと、


「あれ? ご主人様、なんだか変な魔力が逆流してきます!」

 今度は春香の叫び声が聞こえてきた。


「ちっ! 誰かこの魔法陣に気付いてやがったな」

 異常を察知したルナが春香に駆け寄る。


「大拳王殿、ここは我らに!」

 俺に向かって、ダークエルフの戦士さん達が走り寄ってくる。


 魔力が使えないため、魔法陣の異常も、ラン・ブレードに残る戦力もサーチ魔法で分析することができない。


 ここは賭けになるが、

「お願いします!」

 ラン・ブレードの相手を、ダークエルフの戦士さん達に任せ、俺は春香が稼働させようとしていた魔方陣に向かう。


 直径10メートル程の魔方陣の中心で、春香とルナが、何かと戦っている。


 それは人のようにも見えたが……

 実態のない魔力のかたまりのようにも見えた。


 魔法陣に俺が踏み込むと、

「待ち焦がれたよ、サイトー」


 聞き覚えのある男の声が……



 ――俺の耳元で、下品な笑い声と共に響いた。




皆様…… 長らく休載して、申し訳ありませんでした。

書籍化の準備やら、体調不良やら、なんやかやとやっているうちに、なろうから離れてしまっていましたが、無事復帰できそうです。


GW中に後数話更新して、「聖女神託襲撃事件」の完結まで書き上げ、

その後は週一ペースで更新できたらと考えてます。


どうかこれからも見捨てないでくれたら嬉しいです。


また、書籍は講談社様の『Kラノベブックス』から出版します。

イラストは『日下コウ』様が担当し、主人公やヒロインのキャラデザもステキなものに仕上がっています。


詳細が発表できるようになりましたら、キャラデザ含め、こちらにも告知いたします。

他にも…… いろいろと企画が進んでいますので、楽しみにしていただけると嬉しいです。


では、どうか、これからも宜しくです。

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久々のハイファンタジー 連載開始しました!

大賢者様 読んでいただき、

気に入ってもらえたのでしたら、

きっと面白いと感じてもらえるはずです!!

 リンクはこちら ↓

『魔法学園のイリュージョン』

是非宜しくお願いします
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